中世ラテン語文書の読解 - 証人欄、発給地、発給日 -
はじめに
これまで三回にわたって、中世ラテン語で書かれた文書についてみてきました。
今回は文書の後半に登場する、証人欄、発給地、発給日について解説をします。題材として用いるのは前回の記事でも引用したイングランド王ヘンリ一世の名で発給された二通の文書です。ただし、いずれも証人欄、発給地、発給日の文章自体は簡潔なため、証人欄については少々深く解説を行いたいと思います。
今回対象とする文書
今回対象とする文書は『アングロ=ノルマン王の事績録』第二巻にある、イングランド王ヘンリ一世が発給した以下の二通です。いずれも先述の通り、前回の記事でも引用したものになります。
証人欄
証人とはなにか
証人欄 witness list とは、土地や権利の譲渡といった行為の証人となった人物の名前が記されている箇所を指します。
一通目の文書で T. Rotberto episcopo Lincolnie. 二通目の文書で Testibus Waltero filio Ansgeri et A. camerario et R. de Bello Campo et aliis. と書かれている部分がそれに該当します。
証人欄について深入りする前に、まずはそもそもここに出てくる証人とは何かについて、簡単に述べることとしましょう。
中世のヨーロッパにおいて、土地や権利の譲渡といった政治的な行為は同時に儀礼的な行為でもあり、王が行う行為であれば聖俗の貴顕たちや家政役人が集まる集会の場で、地方の有力者が行う行為であればその地域共同体の構成員が集まる場で行われることが通例でした。
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