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ゲームの遺伝子 解析記録 vol.20 MOTHER2 ギーグの逆襲

いつも「ゲームゲノム」シーズン2をご視聴いただき、ありがとうございます!「少年少女の大冒険~MOTHER2 ギーグの逆襲~」を担当したディレクターの末包絵万(すえかね・えま)と申します。せん越ながら、シーズン2の最終回を任せていただきました。番組をご覧いただいた皆さん、ズバリいかがだったでしょうか?このnote連載「ゲームの遺伝子解析記録」もひと区切りとなります。番組の制作裏話からOAに収まらなかったエピソードなどをたっぷりお伝えできればと思いますので、ラスト…何卒おつきあいください。
 
さて…発売から30年以上、今なお熱烈なファンの方々が多い『MOTHER』シリーズ。シーズン1のときから「『MOTHER』、いつかやってくれないかなぁ」という視聴者の皆様の声が数々あがっていたとのこと。そんなことはつゆ知らず「作品が好き!」という熱意だけで企画書を提出した私…。結果的に皆様の声にお応えした形になったものの、この「伝説の名作」に向き合うというプレッシャー、そして悩みもたくさんありました。今この瞬間も、皆様が番組をどう受け止めてくださっているか、ドキドキしています…。
 
でも取り上げるからには、ただの作品紹介にはせず、「ゲームゲノム」ならではのメッセージもきちんと伝える、ということを大事に一生懸命作りました。今回は、そんな私の“大冒険”の道のりについて語らせていただければと思います。そして、読み終えて「もう一度番組を見たい!」と感じてくださればうれしいですし、もっと本作のすばらしさを感じていただければ幸いです。
(「NHKプラス」で3月20日(水)23:28まで見逃し配信しています。)

超豪華なトークが実現!
(左から)バカリズムさん、三浦大知さん、糸井重里さん

生きるうえでゲームは必要不可欠だった!

まずは簡単な自己紹介から。大阪放送局に勤務している私は、「ギリ平成生まれ」の30代。まさに”ゲームネイティブ世代”なわけですが、「目に悪い」とゲーム反対派の家で生まれ育ちました。小学生当時は『ポケモン』が社会現象を巻き起こしていて、クラスの話題からは完全に置いてけぼりを食らいました。しかし、親の目を盗むように親友の家に入り浸ってゲームをプレイ。特に遊んだのは『大乱闘スマッシュブラザーズ』!(この『スマブラ』との出会いが20年後の「ゲームゲノム」につながるとは誰が想像したでしょうか…後述します。)

ふたたびゲームに“取りかれた”のは、大学4年の時。就職活動に失敗し、人生に絶望した私は、何を思ったのかバイト代をはたいて「ニンテンドー3DS」を衝動買い。子どものころに遊べなかった『ポケモン』をようやくプレイすることができたのです!買って一晩でクリアし、すがすがしい朝を迎えたのはいい思い出…(笑)。その後も、いろんな作品を遊び倒しました。

もしかしたらヤケになって、“現実逃避”していたのかもしれません。それでも、いざゲーム作品の世界に身を投じれば、そこには自分の価値観を揺るがし、勇気や希望をもらえる刺激的な時間が私を待っていました。厳しい現実を忘れるひととき———いや、“厳しい現実に立ち向かう心の在り方”をさまざまな作品が教えてくれたのです。私にとってゲームとは、生きるために必要不可欠な存在でしたし、今でもそうだと思っています。

“人生の絶望”を救ってくれたのは「ニンテンドー3DS」

おうち時間で『MOTHER2』と出会う

さて、今回特集させていただいた『MOTHER2 ギーグの逆襲』(以下、愛を込めて『MOTHER2』と呼ばせていただきます)、その出会いは実は3年前、と割と最近。社会人になってからは忙しさで距離を置いていたゲームが、再び自分の中で輝き始めたのです。きっかけは「Nintendo Switch」を手に入れたこと。コロナ禍で“おうち時間”が増えたタイミングです。またも沼にハマっていきました。そして話題作の数々をプレイする中、とある機能が私を“ゲームの時空”に吸い込んでいったのです。そう、いわゆる「アーカイブ」…過去のハードで発売された作品たちを「Nintendo Switch」のオンラインでプレイできるというもの。「うわぁ、アレもある!コレも!」。幼いころ気にはなっていたけれど、実際にはプレイの機会がなかったゲームがずらり。興味いっぱいに遊ぶタイトルを探していたとき、ふと目に留まったのがずばり『MOTHER』シリーズでした。YouTubeで実況動画や考察動画を視聴していましたが、本作は未プレイでした(それもそのはず。発売当時、私はまだ幼児。そして大学生のころは最新作ばかりに心奪われていました)。ただ、『MOTHER2』の主人公「ネス」だけは知っていました。そう、幼いころに友達と遊んだあの『スマブラ』シリーズに初期から登場していたからです。バットでのスマッシュ…PKサンダーでの復帰…ちょっとトリッキーだけど、上手な人が使っているとあのカワイらしい姿がちょっと憎らしくもある。そんなイメージでした。その原作シリーズが遊べると分かり、一気にプレイ。すると、『MOTHER2』は私の中に大きな“ゲノム”を刻み込んでくれたのです。

私が経験したように、こうして大人になってからもすばらしい作品に出会える。ゲームは時間という壁をいとも簡単に乗り越え、私たちプレイヤーの心を動かしてくれるー。だから、ゲームは文化だ、と言えるのだと思います。本シリーズを手がけた糸井重里さんは、番組の中で「ポピュラーソングのような作品を作りたかった」と話していました。普遍的なメッセージを作品に込めることは、とても難しいというのは言うまでもありません。だからこそ、それをやってのけるゲームクエリエイターの皆さんは、すごい存在なのだということも改めて感じました。

さて、ここで『MOTHER』について、簡単に説明したいと思います。本シリーズは、コピーライター糸井重里さんが制作を手がけ、話題を呼んだ全3作(移植版などを除く)のRPG。番組では2作目の『MOTHER2 ギーグの逆襲』を特集しました。1994年スーパーファミコンで登場したこの作品。主人公は『スマブラ』に登場する、あの超能力を使う少年「ネス」です。実はネス、本作では、超能力こそ少し使えるものの、あくまで“普通の少年”。冒険のさなかに「ホームシック」にかかってしまうような、本当に子どもらしい子どもなのです。『スマブラ』を知る人には、少し意外な設定に感じられるかもしれません。

主人公は平凡な少年「ネス」

そんな平凡な少年・ネスが世界を救うべく旅に出て、同世代の3人の少年少女たちに出会います。そして自分の弱さと向き合ったり、過酷な試練を幾度も乗り越えたりしながら、世界滅亡をたくらむ「ギーグ」に戦いを挑むのです。少年の小さな一歩から始まった冒険は、次第に世界を救うほどに壮大さを増していく―。発売から今年で30周年、大きな節目を迎える今この瞬間もなお、人々の心に深く刻まれ続ける“伝説のRPG”です。

ポップでいて奥が深い! 「糸井ワールド」を冒険してみて

実際にプレイしてみると、ドキドキとワクワクだらけ!まさに「大冒険」を体感できました。ポップなデザインのキャラクターたちが、彩り豊かなマップを動き回るんです。2Dの、いわゆる昔ながらのグラフィックではありますが、すぐさまその世界観に入り込むことができました。今でもたくさんの作品グッズが若い世代をとりこにしているのも納得です。そして物語の冒頭から、敵も味方も、個性豊かで楽しいキャラが次々と登場しますが、一番心をつかまれたのは、物語中盤にネスたちがたずねる「サターンバレー」で出会う「どせいさん」です。なんてかわいいんだ…!話しかけると、不思議なフォントの言葉が返ってくるのもキュンとしました…。しかし、そんな「どせいさん」の言葉、よくよく読み返してみると、内容はなんだか大事なことを言っているようで、奥が深い…。かわいくて思わずクスっと笑っちゃう表現の中に、なんだか考えさせられる要素もある。これぞまさに、糸井さんの言葉のマジック…!

くりかえし意味を考えたくなる「どせいさん」の言葉

しかし2BRO.さんが副音声でもおっしゃっている通り、この作品は実はなかなか硬派なRPG(副音声もぜひ聞いてください!)。“かわいさ”とは裏腹に、かなり難易度が高いのです。冒頭から敵が強く、コツコツとレベルアップせずには進めることはできません(「ペンシルロケット」という“チートアイテム”もありますが…)。さらに終盤に進むにつれ、いわゆる“初見殺し”の敵も続々登場。敵からの一撃で全滅しちゃうこともしばしば…。ゲームクリアまでの険しい道のりで、何度コントローラーを投げそうになったか…。ストーリーも、冒頭からは想像できないような、厳しい展開を迎えていきます。

少年少女が直面するとんでもなく過酷な状況…。しかしどんな苦しいときも、彼らを支える周囲の“大人たち”の変わらない温かさがある。ネスのママも、電話でしか登場しないパパも、そして妹も、彼らを見守っている。さらに仲間たちの家族も、旅で出会ったたくさんの人たちも…。さまざまな現実に直面している自分もきっと同じで、周りから支えられているのかもしれない。「これはネスたちの物語であり、ネスとともに世界を冒険してきた“わたし”の物語でもある」。そんな読後感あるラストには涙が止まらず、クリア後しばらく動けませんでした。私も少年たちとともに過酷な現実に立ち向かう勇気をもらえたように思えたのです。

福岡から上京した19歳ごろに本作をプレイしたというスタジオゲストのバカリズムさんが「大人になってからのほうが感情移入しやすかった」と語っていました。私も心から共感します。

4人の少年少女が世界を救うべく大冒険!

本当に“私”でいいの…?自信が持てない

私が最初から最後まで悩み抜いたのは、ただひとつ。それは冒頭で書いたような、「ゲームゲノム」ならではのメッセージを伝えること。そしてそこで求められたのは、この伝説のRPGと正々堂々と向き合う“勇気”でした。つまるところ、企画段階では私には自信がなかったということです。でも、そんなレベル1だった私は、さまざまな出会いで成長していきました。

まず任天堂の広報担当の方たちに、『MOTHER2』を番組で取り上げさせていただけないかという交渉をしたときのこと。作品の魅力をどう視聴者に伝えるつもりか必死でプレゼンする私に、作品を世に出すうえで”大事にしていること”を教えてくださいました。 その言葉が、私の心に深く刺さりました。

「作品が語ることがすべて。プレイヤーが100人いれば、100通りの解釈がある。それ以上の“答え”はないんです」

…納得、そしてかっこよすぎる!すばらしいゲームを世に送り出し続ける方々の覚悟を目の当たりにしました。一方で、私の中に大きな悩みが生まれました。『MOTHER2』はまさに老若男女、幅広い世代の人たちがプレイしています。彼らの中には、作品に対して、その人にしかない解釈や感動がきっとあることでしょう。プレイヤーそれぞれの“作品世界”はまったく違うものだと思います。そして、セリフの1つ1つからマップの隅々にまで“それぞれの思い出”もあるのです。

しかし、番組は30分しかありません。残念ながら、作品のすべてを語りつくすことはできません。そのなかで(これはテレビの宿命ですが)作品を、わかりやすく、かつ端的に深掘りする必要があります。もしその切り取り方が私だけにしかないおかしな解釈で、他のプレイヤーたちの感覚とズレていたら…?ひょっとして、私がすることって作品にとって“余計”なのでは…?そんな不安がずっと頭を支配していました。もちろん、作品のことはとことん調べつくしました。ネット上のさまざまな考察から、公式本や「ひみつのたからばこ」(ファンの方はきっとご存じのあの名著です)まで。何度も何度も読み返し…それでも不安は拭いきれませんでした。

「ひみつのたからばこ」をはじめ 参考にした資料たち

そんな折、総合演出の平元さんの言葉に救われました。

 「言いたいことも末包さんの不安も痛いほど分かります。でも、末包さんもれっきとした『MOTHER2』のプレイヤーの1人なんだから、その解釈も“ひとつの答え”のはずです。テレビマンとして、勇気と覚悟と責任感を持って、その思いを制作者の糸井重里さんにぶつけてみては?」

その言葉にようやく気持ちを切り替えることができました。とにかく、自分なりに思いっきりやってみよう!この作品にとことん向き合おうと思える“勇気”をもらったのです。

できるだけ思いをつめこみたい!

しかし糸井さんにご出演いただかねば、すべては始まりません。そこで私の思いを手紙にしたためて、糸井さんにお渡ししました(もちろん、この時点でどんな番組にするかの見立ても何十回と練り、形にしました)。一部抜粋・要約したものを、恥ずかしながらこの場で披露いたします。

私も『MOTHER2』に心を動かされたプレイヤーの一人です。
作品のプレイを通じて、私も子どもに戻り、ネスと一緒に世界を冒険しました。
ギーグと対する勇気を得て、成長していくネスたちに自分を重ねました。そしていつも家にいるママ、電話に出てくれるパパ、そして旅で出会う色んな人たちの“愛”を感じ取ることができました。

作品をクリアして、現実に立ち返った瞬間に強烈に感じたのは、私自身も、今目の前にある自分の人生をもっと自由に冒険したいということ。そして、冒険するための“勇気”が欲しいということです。
現実には、とんでもなくつらいことも、とんでもなく厳しいこともあるけど、きっと前を向いて生きていける。
プレイを通して、すっかりいとおしい存在になったネスたちに、そう背中を押してもらったように思います。

発売されて30年、その間に社会や家族のあり方は、多様性を重視する時代に変化してきました。
そんな今だからこそ、“家族”ってなんなのか、そのぬくもりは、私たちに何をもたらすのか。
制作者である糸井さまの思いを丁寧に伝えながら、そんな番組を作りたいです!

この通り、文章力も皆無で、あまりに不器用な内容ですので、この作戦が功を奏したかどうかは分かりません。…が!糸井さんからは無事ご出演OKの返事!いよいよ実現に向け、本格的に動き出しました。

ゲームゲノム仕様の便せん
手紙を大切にしているのです

しかし、スケジュールの関係で出演者の方たちとは事前の打ち合わせができず、収録の場でやっと初対面!という状況でした。ディレクターの私ができることは、自分が作品から受け取ったものをとことん詰め込んだこん身のVTRを作り、収録でぶつけることのみ。

ところがゲームのプレイ映像をキャプチャロケし、いざVTRの編集作業となったとき、編集担当の南川弘充さんが映像を見ながらこう言いました。 

「この作品、やっぱり音楽がいいよね~!」

そう!『MOTHER2』は音楽も、とっっっっても魅力的なんです!!編集室は大盛り上がり。そこで私たちは、ゲームの音楽を大切にしようと決めました。
通常は編集が終わったあと、音響効果担当に映像を送り、相談しながら使用する曲を決めていきます。それを今回は編集しながら音楽も決めてしまおう!ということに。

特にこだわったのが番組冒頭(テレビ業界で言うところの「アバン」VTR)です。旅の途中で出会い、さまざまな場面でネスたちを助けてくれる「トンズラブラザーズ」。彼らがステージで演奏する楽曲を使い、それにのってキャラクターたちがノリノリで踊るような雰囲気に仕上げました。音楽を聴いているうちに、南川さんも私もどんどんワクワクしちゃって、思いのままに楽しく作った映像です。番組公式Xで投稿している動画も同様、ついつい楽しくなって制作したもの。ちなみに番組で使用しているゲーム音楽のほとんどすべてが、実際に作品をプレイして収録した音をそのまま使用しています。

リズムに乗せてキャラクターが踊る「アバン」

また私の心に深く残ったキャラクターたちには、スタジオセットにも登場していただきました。番組をご覧いただいた方はお分かりかと思いますが、本編中にエピソードがないにも関わらず、私の“推し”である「どせいさん」が、至る所に出てきます!番組の中ですべてを語りつくせない分、こうした一見何気ないような部分に、小さな“こだわり”や“作品への愛”をちりばめていきました。

「どせいさん」とバカリズムさん

“スタジオにイトイ・シゲサトがあらわれた!” ドドドド緊張の収録…

そして、いよいよ本番。前述の通り、スタジオ収録日が糸井さんとの初対面となりました。1週間前からド緊張で寝られない日々、勝負であるはずの収録現場ですでに死にかけていました…。周りから見ても、明らかにテンパり倒していたことでしょう…。覚えているのは、ご挨拶をして最初に言われた糸井さんからの一言。
 
「“末包(すえかね)”って広島カープの選手にいるよね?」
 
これまでの人生で誰からも正しく読まれたことのない私の難読名字を、糸井さんは一発で読んでくださったのです…。大大大緊張の中、名前を呼ばれて舞い上がり、それ以降の記憶がほぼありません…(笑)。
 
そしていよいよ、MCの三浦大知さん、ゲストのバカリズムさんを交えて、収録開始!私が個人的にうれしかったのは、ネスの“弱点”でもある「ホームシック」にフォーカスしたVTRを見てくださった後の糸井さんの感想です(ぜひ番組本編をNHKプラスでご覧ください!)。

ホームシックになると戦わなくなるネス

「この番組の制作者が、ここ(「ホームシック」)に焦点を当てているのが、“ああ、そうなんだ!”と思って。」
 
誠に勝手ながら糸井さんが私の思いをくみ取ってくださったように思えたのです。そして三浦さん、バカリズムさんの“作品への熱い思い”から、糸井さんのご家族への思い、さらには人生の深いところに至るまで、トークは弾んでいきました。

実は制作したものの、番組に入らなかった“秘蔵VTR”があります。それはポーラ、ジェフ、プーといったネスの大事な仲間たちと、その“家族”の物語です。まずは、ポーラと、娘を心配するちょっと過保護なパパ。ポーラは過保護なパパに勇気を持って冒険に出ることを告げ、パパは旅立つ娘を温かく見送ります。次にジェフと、父「アンドーナッツ博士」。10年顔を合わせず、疎遠となっていましたが、冒険がきっかけで再会を果たし、ぎこちないながらも少しずつ関係性を育んでいくことになります。さらに、一国の王子であるプーとその師匠たち。親のように見守り、厳しく指導する師匠たちが世界を救う試練に挑むプーを強くしてくれます。4人の少年少女には、さまざまな“家族の形”があり、冒険の中で、その意味を知っていくことになります。
(拡大版を作る機会があれば、ぜひとも皆さんに伝えたい内容です)。

スタジオでも“家族”の話になりました。幼いころに両親が離婚し、生みの母と離れて暮らしてきた糸井さん。「そのことが作品に影響したのかもしれない」と話される中で、こうおっしゃいました。

「無条件に愛される関係って、シンボリックには“母と子”。それは僕が昔から抱いている“憧れ”なんです。」

わたしは最大級の衝撃を受けました。長年、コピーライターとして第一線で活躍されてきた糸井さんが、自分の“弱さ”をさらけ出すように語ったことに。 
そして糸井さんはこう続けました。
 
「でも、その“憧れる”っていうのは、もしかしたら宝物かもしれない。」
 
「ジョン・レノンの『Mother』を聞いて泣いたことあるんです。そういう小さい時にあった、なんか欲しいものみたいな、僕みたいに“なかった幸せ”っていうのも、もしかしたらあるんじゃないかって思えるのが、物を作る人間のお得なところですね。」

糸井重里さん

この『MOTHER』シリーズを作ること自体が、糸井さんにとって“冒険”だったと語っています。自分には無いもの、かなわないことがたくさんある現実を生きるために、人は考え、創造し、そして「ゲーム」のような作品が世に生まれていく。そして、人が創造したものを受け取り、それに支えられ、生きる力を得る。まさに“冒険”そのもので、「そうした受け渡しが、物を作る喜びだ」とも。大変おこがましいこととは思いつつ、糸井さんのおっしゃるような受け渡しの一端に、私も含まれているのかな、と思えました。すべてのプレイヤーが作品からなにかを受け取って日常を生きること自体が、きっとそうなのだから。

改めて、本作を扱うにあたって全面協力してくださったほぼ日の皆様、任天堂の皆様、ならびにスタジオにご出演いただいた糸井重里さん、バカリズムさんに、この場を借りて厚く御礼を申し上げます。
 
シーズン2第10回「少年少女の大冒険~MOTHER2 ギーグの逆襲~」は2024年3月20日(水)23:28まで「NHKプラス」で見逃し配信を行っております。

ディレクター 末包絵万




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