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先日の小説について

短編小説を初めて書いた。

きっかけは寝る前に、

「触れた人に影響を与える人とされたことをそのまま返す人がいれば、外部からの介入なしに二人を異常状態に出来るな~」

と考えたことである。

なぜそんなことを考えたのかは僕にもわからない。

まあ、面白そうだから書いてみようとパソコンを立ち上げた。

書き始めてみると奇妙な感覚に襲われた。

セリフ以外が書けないのだ。

セリフ以外を書いてはいけないと誰かに言われているかのように。

結局、まずはセリフだけを書いてしまうことにした。

必要なことはそのうち書けるだろうと思ったのだ。

そしてあのタイミングがやってくる。

そう、ありがとうの言葉がでたときである。

どこからか声が聞こえた。

気付けば「ありがとう?」と書いていた。

ここで僕は初めてあの二人に出会ったのだ。

正直、戸惑いが隠せなかった。

目の前の二人に見られながら書き進めると不思議なことに、二人に人間らしさが溢れてきた。

そこで僕は今までの文章を書き直した。

男の子のセリフはほとんどいじっていないが、
女の子のセリフはもっと真っ直ぐなものにした。

彼女は真剣だと、肌で感じていた。

そこから二人の過去について書き始める。

いや、それも元は書く予定ではなかった。

もっと端的に伝えられる予定だった。

ただこの二人の不幸を目の前に書かずには居られなかったのだ。

そこの記憶は曖昧である。

二人が所々補填してくれたことは覚えている。

正直、不幸で二人の区別がついていない。

その証拠にセリフだけではどちらの過去なのかがわかりにくくなっている。

ただ委員長さんという人物は前からいた。

彼女は初めからこの二人の接点にしようと思っていたから。

二人の告白が終わり、心の奥底から通じ合ったような感覚の二人をそのまま書いた。

多分、僕ならこうするだろうと思った。

ただ、奇妙にも嫌な予感をひしひしと感じていた。

どこかでこの二人は決定的に違う人物なのだと裏付けられるのではないか。

その予感は悲しくも的中した。

意見の食い違い。

ほんの些細なものだった。

普段なら見逃してしまうような凹凸に躓いたのだ。

そんな話は二人はしてくれなかった。

でもそれを見て見ぬふりをするのことは出来なかった。

この段階ではもうすでに僕は眼の前の二人のデッサンを始めていた。

それは僕の権利を放棄することでもあった。

ただこの二人の本当の姿を知りたかっただけ。

互いを重ね合って見比べている時に、
この二人がその凹凸に引っ掛からないとは思えなかった。

しつこいくらいにその部分を書き直した。

本当のやり取りにたどり着くまで続けた。

そしてある時、女の子の声が聞こえた。

「ごめん。」と

そこから彼女の感情は溢れ始めた。

僕の手ではすくいきれないくらいに。

それを聞いて、やっと物語の構成がわかった。

教えてくれたというべきか。

だからこそ彼の心を開く必要があった。

彼女と二人で死にたいという彼の本心を。

そして彼女を振り向かせたいという強い思いも。

もう一度彼の過去を振り返った。

彼の人となりをもっと掘り下げて彼の気持ちを理解しようとした。

そこから湧き出た彼の思いが、彼女を振り返らせるに至るまで半日を要した。

そこからは最後まではすぐだった。

二人の結末を書き終える手前で、不意に手が止まった。

この時、重大な欠陥に気がついてしまったのだ。

二人は自身の死んだ後を知らないことに。

最後、その姿はきれいだった。と書こうとしたのだ。

でも、書けなかった。

その確証がなかったのだ。

ここが一番僕を悩ませた。

二人の結末には曖昧な事実は似付かわしく無い。

だが救いがあってほしい。

悩みに悩んだ末にようやく書くことができた。

それは僕から二人への花束でもある。

恥ずかしながら少し泣きそうだった僕がそこにはいた。

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