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#060 生徒指導の基本は授業で行う

 担任を兼務しながら生徒指導主任を務める中で、「生徒指導の基本は授業」だとつくづく感じる。子供達が学校で過ごす大半が授業である。また、令和4年に改訂された生徒指導提要には、生徒指導の重層的構造(図1)というものが示されている。

図1 生徒指導の重層的構造

 この重層低構造を見ても分かるように、生徒指導の根底にあるのは「発達支持的生徒指導」である。「発達支持的生徒指導」は下記のように示されている。

1,2.2 発達支持的生徒指導
 発達支持的生徒指導は、特定の課題を意識することなく、全ての児童生徒を対象に、学校の教育目標の実現に向けて、教育課程内外の全ての教育活動において進められる生徒指導の基盤となるものです。発達支持的というのは、児童生徒に向き合う際の基本的な立ち位置を示しています。すなわち、あくまでも児童生徒が自発的・主体的に自らを発達させていくことが尊重され、その発達の過程を学校や教職員がいかに支えていくかという視点に立っています。すなわち、教職員は、児童生徒の「個性の発見とよさや可能性の伸長と社会的資質・能力の発達を支える」ように働きかけます。
 発達支持的生徒指導では、日々の教職員の児童生徒への挨拶、声かけ、励まし、賞賛、対話、及び、授業や行事等を通した個と集団への働きかけが大切になります。例えば、自己理解力や自己効力感、コミュニケーション力、他者理解力、思いやり、共感性、人間関係形成力、協働性、目標達成力、課題解決力などを含む社会的資質・能力の育成や、自己の将来をデザインするキャリア教育など、教員だけではなくスクールカウンセラー等の協力も得ながら、共生社会の一員となるための市民性教育・人権教育等の推進などの日常的な教育活動を通して、全ての児童生徒の発達を支える働きかけを行います。

生徒指導提要

 生徒指導の基礎になる部分は、日常生活での指導であり、以前見られたような強面の教師による厳しい指導は求められていない。生徒指導のスーパースターが一人いる学校ではなく、全教職員が「発達支持的生徒指導」が行える学校が求められている。
 日常で最も多くの時間を割くのは授業である。そのため、授業中に「発達支持的生徒指導」を行うことが大切となる。今回は、私が授業中に意識して行なっている「発達支持的生徒指導」を紹介する。

規範意識を持たせる

 授業を通して、最低限の規範を守る力をつけるようにしている。
・授業の開始終了時刻を守る。
・机(机上を含む)の整理整頓
・話す、聞く(聴く)ルール
この3つは、徹底して守るようにしている。逆を言えば、多くを求めずこの3つだけを大切に指導している。時刻を守ったり人の話を聞いたりする習慣をつけておくと、大きな荒れが生まれることはない。逆に、教師が多くを求めると、忙しくなって時刻を守れなかったり教師の指示が多いと話を聞いたふりになったりする。ここから子供達のストレスが生まれ荒れにつながる。

他者を尊重する心

 教室は、一人の空間ではない。必ず、自分以外の他者がいる。その環境下で助け合ったり問題が発生したりする。その時を逃さず、価値づけるようにする。例えば、教科書のページがわからず困っている子にページを教えたことがいたとする。その時には、授業に支障をきたさない程度に「〇〇さん、ありがとうね。△△くん、良かったね。」と言うようにしている。
 また、誰が間違えた解答をしたり失敗したりしたことが全体に分かるような時(発表で誤答を言うなど)は、あえて取り上げ「同じミスした人いますか。〇〇さんのおかげで、みんなも確認できて良かったね。〇〇さん、ありがとう。『やっぱりみんなで学ぶっていいよね。』」と価値づけしている。ポイントは、最後に『やっぱりみんなで学ぶっていいよね。』と独り言のように呟くことだ。教師が、感心するように呟くことで一人一人の存在意義を伝えるのである。

共同(協力)

 授業中は、意図的に共同(協力)する時間を作るようにしている。一辺倒の一斉指導では、他者との関わりが生まれない。それを防ぎ、学級内での関わりを持たせ、その良さに気づかせる。算数の練習問題を解けた子から近くの友達と確認したり説明し合ったりする場面を作るなど、小さなことでも必ず取り入れる。
 教師対子供の関わりを減らし、子供対子供の関わりに移行できないかを考え、どうしても教師対子供との関わりを持つ必要がある場合を除き、子供同士で関われるようにしている。また、子供同士の関わりを子供たち主導で行わせるといつも同じ友達とばかりとの関わりになる場合がある。そのため、意図的に「同じ考え」「違う考え」「隣の席」「同じ班」「異性・同性」「今日まだ話していない」など条件を与えて関わらせる。
 このように、日常的に様々な子と関わりを持たせていることで人間関係が固定されることもなく、特定の仲の良い子がいたとしても全体としてコミュニケーションが築ける集団ができる。

やり抜く力

 物事をやり抜くことで自信が付き、自己効力感も上がるため普段からやり抜く経験を積ませるようにしている。
 大きな行事や図工や体育など実技系の教科は成果が目に見えやすく、最後までやり抜くことが可視化されやすい。このような活動はもちろんのこと、この他にも普段の授業から子供達が「やり抜いた」と自覚するような声掛けを行うようにしている。具体的には、計算問題で分からないと言っている場合もヒントを与えつつ、自らで解かしたり新聞造りなどのパフォーマンス課題に取り組ませたりしている。
 ここで重要なのが、時間を十分に与える余裕と教師が「できたじゃん。粘り強くやったじゃん。すごい。」と価値づけすることである。やり抜くための時間がなかったり、子供の成長を当たり前のように捉え価値づけしなかったりすると子供達に「やり抜く力」は付かないと考えた。

笑い

 授業中に生徒指導を行う上で大切にしていること、最後は「笑い」である。これは、教科の本質に迫るような知的な笑みでも良いが、お笑い的な笑いでも良いと思っている。もちろん、人を貶めるような笑いは「他者を尊重する心」とは違うため容認できないが、授業の進め方にゲーム性を持たせたり雑談を行ったり子供と教師の掛け合いを楽しんだりして笑う時間を作るようにしている。
 私の大切にしている考えに「笑うから楽しい」(中村真著)がある。やっぱり楽しい時間が学校(授業)には必要だ。そんな楽しい時間を演出するためにも意図的に「笑い」のある授業を創るようにしている。

まとめ

 令和4年に改訂された生徒指導提要を読んだ際に「発達支援的生徒指導」が大切になると思った。そして、「発達支援的生徒指導」は学校生活のありとあらゆる場面で行うことだとも感じた。学校生活の中心となる授業である。ただ、授業となると「教材研究」や「発問・指示・説明」など授業の質を高めることに目が行きがちになる。しかし、生徒指導の側面も持たせることが極めて重要である。
 今回、改めて言語化してみると特段変わったことはしていないことに気付いた。ただ、このような視点を意識して授業を行っていくことが大切である。

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