HANABI


地球の形をした球が、鮮やかに爆発して消える。

僕は、月に逃げ延びた最後の人類のような気分で花火を見ている。

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僕の地元である兵庫県川西市では、「猪名川花火大会」という比較的大きな規模の花火大会が毎年開催されている。

観光資源のほとんどない川西市にとって、それは1年で1番の人が溢れる日だった。駅から花火大会へ向かう道沿いでは、家族が総出でラムネを売っていたり、画用紙にマッキーで書かれた「焼き鳥 3本 500円」が目に入ったりする。

通りをするすると抜け、高速道路の高架下をくぐると、猪名川の河川敷が現れる。そこが花火大会の会場だった。

川を隔てて、両方の岸に屋台が立ち並ぶ。土手にも、川べりにも、人が溢れている。

きっとこの中には何人も、小学校を卒業して以来会っていない同級生達がいる。

僕にとって花火大会は、12歳の時に選んだ道の象徴でもあった。今同級生に会ったとしても、上手く話せないような気がしていた。

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その年の花火大会は、高校の友達と行った。男子校生の夏祭りに、浴衣の概念は無い。

僕らは真面目だったので、花火を純粋に楽しもうとした。しかし僕らはアホなので、花火の打ち上げ台にギリギリまで近づこうという話になった。

人の隙間を縫って、ビニールシートも敷かずに河川敷に腰を下ろす。目の前には、花火職人と花火台が添えられていた。

「こっちに向けて打たれたら死ぬな…」

そんなことを思っていた。

職人が、花火玉に点火する。打ち上がる。

その瞬間、風を切る音がした。

間もなくして、空気全体が大きく痺れた。

至近距離で見る花火は、爆発だった。今まで遠くから眺めるだけだった花火を、初めて身体で感じた瞬間だった。

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「花火大会は終了しました」

田舎のアナウンス機器は、音質がそんなに良くない。

駅へ向かう道は、まさに地獄のような人口密度だった。カップルの物理的距離を近づけるための舞台装置として、家族連れや僕らは駆り出されていた。

帰り路も、いつも通りの話をしていた。花火綺麗だったねーとか、来年もまた来ようねとか、そういう話はなかった。しかし良い思い出ではある。

どちらかと言えば、線香花火のような1日だった。

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夏の思い出

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