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詐欺の沼

友達が詐欺に遭っている。

確証はないが、ほぼ間違いないと思っている。
いわゆる有名な"ポンジ・スキーム"という奴だと思う。

ある日、友達はとても尊敬している知り合いの人から、
ある投資をしていて毎月10万円の配当があり、とても助かっている、
という話を教えてもらったそうだ。
100万円預けて、毎月5万円の配当……。
これはどう考えても詐欺だろう。
しかし友達は完全にのめり込んでしまっていて、
この話を聞かされた時は、もうすでにいくらか投資してしまっていた。
次に聞いた時、出資金は1000万円まで膨らんでいた。
おまけに、その配当金とやらの受け取りが口座振込ではなく、現金らしいのだ。
月に1度、勉強会とうたった配当金受取会があるらしいのだが、
そこには芸能人や経営者などの有名人も大勢参加していて、
知り合いも増えてとても刺激的だそうだ。
何に投資しているか聞いてみたが、よく分からないと言った。
もう、怪しいことこの上ない。

先日、また暗いニュースを聞かされた。
自分の子どもと別の友達を勧誘し、投資を始めてしまったらしい。
私はそれを聞いた瞬間、苦いものが口いっぱいに広がっていった。
また被害者が増えてしまった。
聞けば聞くほど、私の中の疑惑が確信に変わっていく。

はっきり言って、どうしたらいいかさっぱり分からない。
友達ならちゃんと伝えてあげるべきでしょう、と人は言う。
でもこの立場になると、事態はそんな簡単じゃないことに気づく。
もう何度か、別の友達と一緒にやんわりと伝える努力は試みた。
ところが人というものは、
自分にとって耳障りの悪いものは全力で排除しようとする。
自分が信じきっているものに水を差す人のことをとても嫌う。
自分のみならず、自分の信頼・尊敬している人のことを悪く言うのは許し難い、
と敵意をむき出しにして噛みついてくる。

私はとても驚いている。
なぜなら、その人はとても聡明な人だったからだ。
今まで大した贅沢もせず、コツコツと働き、お金を貯めてきた。
詐欺とはおよそ縁のないタイプの、しっかりした人。
ただ、年金を受給する年齢になり、
老後の不安を口にすることが多くなっていた。
詐欺師というのは、本当に恐ろしい。
そんな、人のちょっとした心の隙間に、
巧みに入り込んで、心を乗っ取ってしまうのだから。

私は、いずれにしろこの友達とは上手くいかないのだろうと覚悟を決めている。
もし詐欺ではなかったとして、
私は、人が良かれと思ってやっていることを否定した人になる。
詐欺だった場合、
詐欺だと分かっていながら全力で止めてくれなかった人になる。
どちらにしても、信頼関係は一旦破綻する運命にあるのだ。

今私にできることは、友達が危険性に一刻も早く気づいて、
解約を申し出て出資金が手元に戻るよう、ただ祈ること。
そして、もし詐欺被害に発展してしまった場合に、
「ほら、みたことか!」と突き放すことだけはするまいと
心に決めること。
このくらいしか、ない。
ただ、指を咥えて見ているしかないということが
とてももどかしく、心が痛む。

人生というのは、常に危険と隣り合わせだ。
どんな人にもちょっとした心の脆さがある。
その脆さは、うっかり見透かされてしまうと
「洗脳」という形でいとも簡単に支配されてしまう。
その危険性は日常生活に蔓延していて、
ふとしたことから深みに嵌り、抜け出せなくなる。
人の心が脆いのは世の常で、
それがあるかぎり、詐欺は無くならないのだろうと暗い気持ちになる。

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