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「始まりは」 #シロクマ文芸部

 始まりはおそらくあの一言。

 深夜の甲州街道下り。新宿から女性客を乗せて走っていた。

 永福辺りで後方からサイレンを鳴らした救急車が追い抜いていった。
 暫く進むと大破した車と、後部ドアを跳ね上げた救急車が視界に入った。


「うわぁ、クルマがぐちゃぐちゃですね」
「大事故ですね。渋滞になる前に抜けられて良かったです」

 この一言がいけなかったんだ。

 事故を見て「良かった」なんて言葉を使ってしまったことが。


 突然、左腰の辺りをグリグリグリと押される感覚があった。
 温泉宿に置いてあるマッサージチェアの、あのグリグリと同じ感覚。

えっ?ん?な、なんだ?

 あまりにもはっきりとした感覚に驚いたが、すぐにそれは無くなり、気のせいか、とハンドルを握り続けた。

 後部座席の女性客は先程の事故がショックだったのか、少し放心した表情で車窓に目を向けている様子がルームミラー越しにうかがえた。

すると、また。

グリグリ、グリグリ。

同じ場所、同じ強さで押された。

 二度目はさすがに気味が悪い。

「お客さん、変なこと聞いていいですか?」
「えっ?なに?」

「私のここら辺、後ろから押してないですよね?」
「えっ?どういうこと?」

「すいません、さっきから二回、ここをですね、グリグリっと押されたんですよ」
「ええっ?怖いこと言わないでくださいよ」

「すいません。変なこと言っちゃって。あんまりはっきりと押されたんで」
「ほ、ほら、私スカートですし。足を伸ばして押したり…そんなことしてないですよ」


 確かにその女性はスカートだった。

 そもそもスカートだろうがパンツだろうがそんなことをする理由がない。

「どの辺りで押されたんですか?」
「それが・・・・・・。ちょうどさっきの事故現場を過ぎて暫くしてから、一回目があった気がします」

「もう、怖いこと言わないで(笑)」
「すいません」

 その後はグリグリと押されることはなく、お客さんを無事に送り届けた。


 上北沢で方向転換をして都心へ戻りながらも先程の腰への圧迫が頭から離れない。
 痙攣とは明らかに違う。
 座席シートの腰の辺りがぐぐっと盛り上がって、間違いなくグリグリされた。

 どうにも気になって仕方がないので、明大前辺りで側道に逸れて車を停めた。

 後部座席を見回しても特に違和感はなかったが、何の気なしにスマホで撮影をしてみた。


 そこには、赤い服を着た髪の長い女性らしき姿が写っていた。
 ご丁寧に赤い服の上に斜めに黒いラインが入っている。
 まるでシートベルトを締めているかのように。


これは…。ヤバいやつか?


 そう思った私は気の合う仲間で作ったタクシードライバーのLINEグループに画像を上げた。
 時刻はAM02:01。期せずして丑三つ時だった。


【当時のラインのやり取り】


やべぇ、俺の後ろの席に何か居る

【画像】

なんか見える?
腰の辺り、後ろからぐぐっと押されること数回。

がち
女の人いますよ
赤い服
ヘッドレストのとこに顔あります

だよな
塩くれ

悪そーな顔してますねこいつ

塩~

ほんとネリケシは霊感強いんだな。
ハッキリ見えるわ


 この時撮影した後部座席の写真と、LINEのやり取りのスクショは今もまだ私のスマホに保存されている。

 この写真を見て、「複数の顔が写っている」なんて言われたこともあるが私には赤い服の女性しか見えない。


シロクマ文芸部、今回のお題は「始まりは」です。
私が書いたこの話はノンフィクション。

その後、また別の心霊体験があったのだが機会があれば書いてみよう。
とりあえずこの赤い服の女性はこの後、出てくることはなかった。

信じる信じないはあなた次第(笑)
けどね、タクシーに乗ってるとこういう話はやっぱり多いんですよ。

あぁ・・・・・・。背中がゾクゾクしてきたのでこの辺でやめておこう。


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