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八潮男之神の決断35(小説)(エッセイ・燐光。とんぼ)

エッセイ・とんぼ < 燐光 >
この小高い場所にくっきりと立ち並ぶ数本の木の中には
緑色や黄色、青色をした燐光がしっかりと分散し円にもなり、そこら中に上等な生地で誂えた花柄のレースのカーテンのような風にもなり、こちらの方にも降り注ぐのであります。
光線は境目を追う前に次から次へとせまって、どんどん遠くの方にまで進んで、一秒間に地球を7周半するという速さがどのくらいかわからないまま、瞬く間に、私や子どもたちの小さくて分厚い手のひらの中を通り、子どもたちの手や髪やほっぺをもっとふっくらと膨らませたり、落ちたままのどんぐりや、新しく咲いたばかりの花びら、たった今ひかりを浴びて透き通った革質な葉、光線には負けまいとしてその先へぐんぐんと飛んでゆく鳥の群れ、寒々と真っ直ぐに伸びるコンクリートの坂道、立ち並ぶ堅い電柱、淡々と前へ進むスクーター、あたりの様々なものを通り抜けたり留まったりしながらずっと向こうに見えるタワーにまで及んでいるみたいで、もう実は町中が燐光の波に包まれ薄い青や緑、黄色のベールをそっと被って一番端のほうは一旦ひるがえって光の先のほうは最も濃ゆく光り、まだまだ遠くへと広がっていくみたいに見えて、出発点はこの小高い山の上からのように思えるほどこの場所を中心にあらゆるものを美しく様々な形に映し出していくのです。
そのうちに向うの海やもっと向うの島もベールを被りすぐにくっきりと見えはじめて、そうしていたら今度は苔がたぷり濡れたような、草っ原に浮かんだ生まれたばかりの露のような匂いが足元からしてきたので下の方をみると、もうそこは一面の蓮華畑のようでした。

 
♢「泰山(たいざん)とな。
 斉(せい)の国にも、そのようなあめつちを祀る神聖な場所があるのか」

 「秋津洲(あきつしま)では、皆々、目に触れるもの、肌に触れるもの            
 鼻に匂うものの全てに神々の霊気を感じます。
 野にそよぐ野風にも神々が宿っております。」

 「そう、われらは、日々、天地(あめつち)の神々に守られ生きてお
  る。」

 昆你(こんじ)が阿津耳に伝えたい真実は何か・・・

🌿秋津先生の著書で、難しい漢字や言葉、興味を持った事などは
 辞書やネットなどで調べながらゆっくり読んでみて下さい。
 きっと新しい気づきがあり、より面白く読み進められると思います。

原作 秋津 廣行
  「 倭人王 」より

 「ほう、蓬莱湊(ほうらいみなと)を周天子(しゅうてんし)に差し出すとは、無恬(むてん)の志もなかなかのものであるな。」
 阿津耳(あつみみ)は、大層に感心したが、現実はそう簡単には進まなかった。蓬莱湊は、斉の傘下にあることから、越一族の残党は楚王(そおう)のみならず、斉王(せいおう)からも敵視されることになったのである。
天子を味方につける以外に生きる道はなかったのであろう。

 阿津耳(あつみみ)は、昆迩の話を聞きながら、時々、別のことを考えていた。

 ― 追われる異国の王子のことを、ここまで詳しく語る昆迩の意図は何処にあるのであろうか。

 とはいえ、浪響(なみひびき)や昆迩(こんじ)にしてみれば、高天原の幼神(おさなかみ)の代理である阿津耳之命(あつみみのみこと)に対して、これ以上、白々しき報告は出来なかった。
昆迩は、浪響(なみひびき)には申し訳ないが、正直に話すしかないと思った。

 巨木となった若木神の依り代は、威厳をもって、皆々を見守っている。
昆迩は、まさに、若木神の御前にて、偽りの言霊は口に出来なかった。

 「越えつの無恬(むてん)殿が蓬莱湊(ほうらいみなと)を占拠したことは、斉にも楚にも衝撃をもたらしましたが、残念ながら無恬(むてん)殿には支援する部隊がございませんでした。
いずれ、斉軍に追われることになりましょう。
われが、申し上げたいことは、そのことではありません。」

 昆迩(こんじ)は、改めて、若木神(わかきかみ)の神木を見上げると、自らに偽りが無いことを心に誓って申し上げた。 

 「斉(せい)の領内にある泰山(たいざん)のことであります。
泰山は、古くから王の王たる者によって、天神地祇(てんじんちぎ)の祭祀が行われ、徐(じょ)氏の巫女がこの祭祀を執り行ってきました。
泰山は、あめの神とつちの神を守る神聖なる場所に御座います。」

 「泰山とな。斉せいの国にも、そのようなあめつちを祀る神聖な場所があるのか。」

 「秋津洲では、皆々、目に触れるもの、肌に触れるもの、耳にひびくもの、鼻に匂うものの全てに神々の霊気を感じます。野にそよぐ野風にも神々が宿っております。」
 
「そう、われらは、日々、天地あめつちの神々に守られ生きておる。」

                             つづく 36


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