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不意打ちのリャマ

「ねぇ、ちゃーちゃん。
 リャマってさ、どんなのだっけ」

朝食を咀嚼しながら長女が尋ねてきた。
なんという不意打ち。

「え?リャマ?えっ、ラマ?」

「リャマとラマ、どっちなの?」

「えええ…どっちだろう」

「どんなのだったっけ?」

「えっと、ちょっと待ってね。
 なんかさ、コブのないコンパクトなラクダみたいなさ…」

彼女はパンを口にしながら、一体どこへ心を飛ばしていたのか。

たくさん詰まったゆっくり揺れ動くほっぺと、長い睫毛。
次第に彼女がラクダと化してくる。
いかんいかん。いろいろ突っ込みたいことはあったが、とりあえず一旦飲み込んで調べてみることにした。

「リャマとラマは同じ生き物のことだね。
 どちらでも正解。名前の読み方の違いらしい。
 同じラクダ科のアルパカに似てるね」

写真をみせると、動物好きの彼女は生き生きとしだした。相変わらず口元は動いている。

「かわいい!ねぇ、アルパカとどうちがうの」

「見た目はよく似てるけど、同じラクダ科でも別の種類に分けられるらしい。アルパカよりリャマの方が、少し体が大きいようだよ。
 ラマは荷物を運んでもらうために、アルパカは毛を刈って衣服に利用させてもらうために飼われるそうだから、その目的も違うね。」

「そうなんだ」

「どちらも高いところに住んでいるよ。
 標高4,000mくらいのところに」

「えっ。それってさ、東京タワーどれくらいぶんなの」

彼女は東京タワーをみたことがないが、存在は知っているらしい。
高いもののシンボルであれば、現在はスカイツリーにお呼びがかかりそうなものだが、今のところ東京に遊び時行く予定はたっていないので黙っておくことにする。

「東京タワーの高さは、333mあるのね。
 3つ縦に積めば約1,000m。
 それに対してリャマがいるのが4,000mだから、ざっくり換算して東京タワー12こ積み上げたくらいの高さってことになる」

「ヘエー」

私は知っている。これは全く実感が伴っていない時にでるからっぽの相槌だ。

「じゃあさ、じゃあさ。333mってどれくらいなの?」

アンデス山脈からおかえり、長女。
ものさしを持ち替えるのは懸命な判断だろう。

「そうだねぇ。たとえば、次女ちゃんは今だいたい身長1mくらいだから、次女ちゃんを縦に333人積み上げたくらいかな」

とんでもない親である。

「えええ!!次女ちゃんが333にん?!」

長女はしばし笑い転げたあと、こう続けた。

「ねー、333ってどれくらいおおきいすうじなの」

ざっくりした印象で笑ってくれたのね。
まぁ、そんなに積み上げられた次女ちゃんは下からじゃみえないしね。

「300という数字だと、100のかたまりが3つ。
 10のかたまりが30こあるくらいだよ」

「ええっ、そんなにもおおいの!」

なんとなくでも伝われば嬉しいよ。

「そっかそっか〜」と満足したらしい長女。
にこにこしながらのんびりお皿の上のフルーツに手を伸ばした。

長旅から帰ってきたところ申し訳ないが、実はこちらはいま月曜の朝でね。
ねぇ、あと10分で家出るよ。

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