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映画『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』感想 ~王道展開がいまいち盛り上がらない理由~

驚異のロングラン!

 2023年11月17日に公開されたアニメ映画『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』は、年をまたいだ2024年2月現在もなお上映され続けている。興行収入は26億円を超え、観客動員数は185万人を突破した。
 原作者・水木しげる生誕100周年記念作品として製作された本作は、2018年に放送開始したテレビシリーズ第6期をベースに、その前日譚が描かれる。第6期がベースではあるが、未視聴でも鬼太郎や目玉おやじに馴染みがあれば問題ない。私も第3期シリーズ(OPとEDが吉幾三!)にがっつりハマっていた世代で、第6期は数話観た程度。それよりも、水木しげるの人生について、観賞後にでもその実録物の著作を読むと、より映画を深く楽しめると思う。それだけ「水木しげる生誕100周年記念作品」としての意識が高いと感じた。
 とは言え観る前は、SNSなどの口コミでの盛り上がりは知ってはいたが、「正直、今さらゲゲゲの鬼太郎もないだろう」と半信半疑で劇場に足を運んだ。しかし、観終わるころにはすっかり虜になってしまった。個人的には2023年ベスト級の映画だと感じた。早くBlu-ray出ないかな。


 昭和31年、日本。会社の密命を帯びた水木は、東京から哭倉村(なぐらむら)へと向かう。龍賀一族が支配するその村では、当主・時貞の死に際し、醜い権力争いが行われていた。龍賀一族に何とか取り入ろうとする水木。そんな中、一族の一人が惨殺されてしまう。容疑者として捕まった謎の男・ゲゲ郎(後の目玉おやじ)と共に水木は事件の解決に奔走する。


鬼太郎×八つ墓村

 醜い権力争いをする一族がアクロバティックな殺され方をするという『八つ墓村』チックな設定が『鬼太郎』の世界観とよく合っていて面白い。横溝正史と水木しげるの食い合わせの良さは、発見だと思う。どちらの作品も、湿度の高い日本の夏のような、ジメジメ感を個人的には連想させる。同じ湿度感だから食い合わせが良いのだろう。
 水木はゲゲ郎と共に、事件の真相を解明していく。基本的には謎解きが物語の推進力となってグイグイと引き込まれる。ただ、どうやってそんな派手な殺し方をしたのかについては、ネタバレになるが、「妖怪の仕業だから」で解決してしまって少し肩透かし。『鬼太郎』なんだしそりゃそうかと苦笑いしてしまう。まぁご愛嬌ということで。

王道展開なのに・・・

 私がこの作品の中で特に気になったのが、終盤にピンチに陥ったヒロインの龍賀沙代を主人公・水木が助けに来るシーン。颯爽と現れた水木は、ライフル銃を手に敵を打ち倒し、沙代を救う。
 絶体絶命の状況で主人公が仲間を助けに現れるという展開は、ご都合主義的ではあるが、観客のテンションを高めてくれる。ヒーローものなら王道の展開だろう。
 例えば、映画『エイリアン2』の終盤。宇宙船に乗り込んできたエイリアン・クイーンが少女・ニュートに襲い掛かろうとした瞬間。船内のシャッターが開き、主人公・リプリーがパワーローダーに乗って現れる。その堂々たる登場っぷりは、「ヨッ!待ってました!」と思わず声に出したくなるほどカッコいい。
 しかし、お約束的なカッコいい「ピンチに登場」シーンのはずなのに、本作ではそうは思えない。なぜそうは思えなかったのか。それは、水木が敵を銃で撃ったからだ。

銃は「日常」ではない

 アメリカとは違って、日本を舞台にした作品で「銃を撃つ」にはそれなりの説得力が必要となる。
 例えば、実写映画化もされた漫画『アイアムアヒーロー』。ZQN(ゾキュン)と言われるゾンビが徘徊する日本を舞台に、主人公が散弾銃を使って窮地を脱していく。日本を舞台にした作品で簡単に銃を出されると、リアリティがなくなってしまう。日本において銃とは「ファンタジー」な存在なのである。そうならないために『アイアムアヒーロー』では、主人公の趣味をクレー射撃にすることで説得力を持たせている。この説得力がないと、作品がウソっぽくなるしバカっぽくさえ見えてくる。

それでも銃を撃つということ

 私は水木が銃を敵に当てたのがファンタジーだと言っているのではない。逆に、撃って当てたからこそ、その「経験」があるのだという事実をハッキリと突きつけられたのだ。ウソなんかじゃない本物の水木の(水木しげるの)「経験」をガツンと叩き込まれたような衝撃。敵を銃で倒したということは、以前に倒したことがあるということだ。まぎれもなく戦争を経験した人なのだという、何となく見ないようにしてきた平和ボケした私の頭が揺さぶられる。

 劇中、水木は太平洋戦争での従軍経験からトラウマに苦しんでいる。もちろんこれは、原作者・水木しげるの経験がモデルになっている。
 戦時中の回想シーンで、上官は水木たちに無茶で無謀な突撃命令をくだす。それは明らかに自分だけが助かればいいというもので、絶望を通り越してギャグのようにさえ聞こえてくる。市井の人間なんかどうでもよくて、自分たちトップの人間さえ良ければというのは、いつの時代も同じなんだなとモヤモヤしてくる。コイツら本気で言ってんのかよと。

 水木はトラウマとなるような経験を背負い、銃を撃つ。だけど今度は、よくわからない命令じゃなくて、誰かを救うために撃つ。「ヨッ!待ってました!」なんてはしゃげない。はしゃげないけど、水木のとった行動は美しいと思った。

映画『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』
2023年11月17日公開
監督 古賀豪
脚本 吉野弘幸
原作 水木しげる



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