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パパとの出会い

パパに出会ったのは、大学1回生の時。
演劇サークルが一緒の、埼玉出身の男の子でした。

少し小柄で、笑うと八重歯が見える。
鳥山明の孫悟空か、あだち充の漫画の登場人物みたいに目が大きくて、みんなに好かれていた。

夏に行くサークル旅行の話をみんなの前でしていて、くるくる動く大きな眼や、表情やふざけたような様子に目が釘付けになった。

私の周りの女子もみんなパパのことが好きで、誰が先に告白するか、サークル内には緊張感すらあった。

季節が秋に変わり、私は自分の気持ちを打ち明けたくなっていて、自分でもどうかしたのか?っておもうけど、気づくとパパを呼び出して、気持ちを伝えていた。

大学の校舎から一つ道路を挟んであった、あまり人が来ない体育館前の広場で、彼が来るのを、木に当たる日差しを眺めたり、紅葉し始めた木々の葉をみながら待っていた。

向こうからいつもの様子で、ゆっくり歩いていきた彼を見て、こんな時でも彼の姿を見て、笑顔になってしまう自分がいた。彼がいる風景を見るだけで、私の心は限りなく平和で、あたたかくなってしまう。

世紀の告白の返事はNo.

今は誰とも付き合うつもりはないからと。
あとから聞くと、半同棲していた彼女と別れたばかりで、本当に1人でいたかった時期だったらしい。

私を振って、また来た道を歩いて帰って行く彼をみて、私は心が揺れていたけど、悲しいと言う気持ちはなかった。

見上げると晴れ渡る秋の空に、枝を伸ばす木々があった。何も変わらない様子で、風に吹かれている。

私は、その時ふと思った。

私がこの人を好きな気持ちは、この大きな木を好きだなっておもう気持ちに似てる。
変だけど、鳥や虫が憩い、風を枝に渡らせて、そこにある、大きな木を好きになったみたいな感覚。
彼は私にとってそんな存在で、人間の私が、みんなに愛される大きな木をただ好きになって気持ちを伝えただけなんだな、と。

気持ちを伝えられただけよかったな。
付き合うとかその先を考えもせず、誰かに気持ちを伝えるのって素敵だな、そんなに誰かを好きになれてよかったな。

パパ、思い出したよ。
あの木の下で、あなたが去ってから、19歳の私はあなたとの別れを経験して、こんなふうに感じていたんだ。だから、こうして今、本当にこの世でもう会えないことになっても、きっと大丈夫なはずなんだ。

あなたは変わらずにそこにあり続ける大きな木で、私はあなた好きになった。
だから、あなたが天に召されても、地球が回る限り、何も変わらないはずなんだよね。

でも、あなたが隣にいないことが、
こんなにも悲しいのはなぜだろう。



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