りゅうせい

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桜の木の下

その日も彼女は桜の木を見ていた。荻窪駅と西武新宿井荻駅の中間に位置する妙正寺川の桜は今年も満開に咲いていた。行き交う人はほとんどいないこの通り。いつも彼女は朝、通学中に立ち止まってこの木を見る。この季節になると必ずそうしている。彼女が木を見ている姿はまるで教会でお祈りをして目を閉じているときの静寂に近く、とても神秘的であり、畏敬してしまうほど美しかった。すると、彼女は僕の存在に気づき、少しの沈黙のあと「この花びら一つひとつ、とても綺麗で美しいけどすぐに無くなるんだよね。本当に

    • 叔父さん

      トンネルを抜けると、そこには雪国が広がっていた。 川端康成の『雪国』のまんまの表現であるが、五歳であった私は本当にそう感じていた。驚くほど一面が真っ白であった。白い雪の中にまた雪が際限なく山々に降り注いでいた。すすんでも進んでも景色は変わらない。東京から約143k離れたここ兵庫県豊岡市出石町は、12月のこの時期が最も多く降る。この地域は蕎麦が有名である。大晦日になると母の実家であるこの場所に車で片道2時間半かけて帰省していた。そこには母の姉の家族も帰省していた。母の姉の夫の聖