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水野シズク、入社一年目のフレッシュプロマネの挑戦 第二話

第一章: 二日目

朝会

シズクの一日は朝9時に始まる。会社全体がまだ静かなうちに、彼女は自分の席に着き、一日の準備を始めた。そして9時30分になると、朝のミーティングの時間だ。これは毎日の恒例で、今日の作業の確認のために行われる。

ミーティングは30分間。ニシスのメンバーと開発パートナーのリーダー2名がオンラインで集まり、WBS(ワーク・ブレークダウン・ストラクチャー)を見ながら、その日の予定を確認する。田中は、ミーティング中に各メンバーからの報告を受け、作業の進捗状況を確認していた。彼はWBSの実績の記載が十分でないことを指摘した。情報が足りない部分があり、そのため作業の進行を正確に把握できない部分があった。田中は昼までにWBSの記載を修正するよう担当者に指示を出した。

進捗確認が一段落した後、田中は次にQA、つまり「Question and Answer」の時間に移った。これは、設計やプログラミングを進める上で生じた疑問や不明点を、マイネットワーク社の担当者に直接質問し、解決策を得るためのセッションだ。

シズクはメモを取りながら、このプロセスの重要性を感じていた。逆にマイネットワーク社側からも、開発しているシステムの具体的な方式に関する質問が寄せられていた。一つ一つの質問に対し、田中は対応状況をチームメンバーに確認していく。

このQAセッションでは、しばしば複数回のやり取りが必要になることもある。シズクは、質問と答えがクリアになるまでのプロセスを注意深く学んでいた。そして、田中は常にその進行を管理し、各QAにおいて現在誰がボールを持っているか、つまり誰が回答しなければならないか、期限までに回答できるのかを明確にしていた。

田中の巧みなファシリテーションのおかげで、朝のミーティングは驚くほどスムーズに進行した。WBSの確認も、QAセッションも、全てが予定通りに30分で終了した。

シズクはその効率の良さに感心した。田中は各メンバーからの意見や疑問に迅速に対応し、議論が脱線することなく次々とポイントを絞っていった。それぞれのメンバーが担当するタスクが明確で、進捗も一目で理解できた。

このミーティングは、シズクにとって新しい職場での学びの場となり、効果的なチームワークの重要性を教えてくれた。田中のリーダーシップに感銘を受け、彼女は自分もいつかはこんな風にチームをリードできるようになりたいと思った。

1か月前のこと

朝会が終わると、田中はシズクの方を向いて言った。「このプロジェクトはいろいろな問題を抱えているんだ。詳しく話してあげるよ。12階にカフェがあるから、そこに行こうか」。彼の声には、シズクへのサポートの意志が感じられた。

シズクは頷き、田中について12階へ向かった。エレベーターのドアが閉まると、田中は少しリラックスした様子で彼女に向き直った。「君がここに来てくれたのは本当に嬉しいんだ。新しい視点は、私たちにとって大切なんだよ」。その言葉に、シズクは緊張がほぐれてきたのを感じた。

12階のカフェは、落ち着いた雰囲気で、オフィスの喧騒から少し離れたような空間だった。窓からは街の眺めが美しく、二人はコーヒーを注文してテーブルに座った。そこで田中は、プロジェクトの現状や直面している課題について、詳しく語り始めた。

田中はカフェのテーブルにコーヒーカップを置きながら、シズクに向かって静かに話し始めた。「私がこのプロジェクトのプロジェクトマネージャー(PM)として参加したのは、実は1か月前のことなんだ。それまでは別のPM、後藤さんという人が管理していたんだけど、体調を崩してしまってね。私が引き継ぐことになったんだ。前のプロジェクトがちょうど終わったところだったからね」。

彼の口調は穏やかだったが、話の内容は重かった。「後藤さんはエンジニア出身でね、管理のことにはあまり慣れていなかったんだ。自分が得意なバックエンドやDB設計のレビューはきちんとやるけれど、あまり得意ではないユーザインタフェースやプロジェクトの管理面ではいくつか問題があった。実は、このプロジェクトでは要件定義と基本設計で2回もリスケジュールを余儀なくされているんだ。特にユーザインタフェースのレビューが甘く、終わったはずの設計に関するQAが多くてね。設計をやり直すこともしばしばある。そんな状況でプロジェクトを引き継いだんだよ」。

田中の話を聞きながら、シズクはこのプロジェクトが直面している課題の大きさを実感した。それは、ただの仕事以上のものに思えた。挑戦であり、田中にとっても、そして彼女自身にとっても大きな学びの場だった。

先輩とのランチ

デスクに戻ったシズクは、田中との会話が頭から離れなかった。プロジェクトの中で起こっている問題、そしてリスケジュールの可能性がもうないこと。田中が言った通り、納期に間に合わせるのは確かに難しい挑戦に思えた。

彼女が思い悩んでいると、隣のグループの女性、安藤さんが声をかけてきた。「ランチ、初めてだからわからないでしょ?一緒に行こうか?」シズクはその声に我に返り、昼のチャイムが鳴っていることに初めて気づいた。彼女は少し驚いたように顔を上げて、「あ、はい、ぜひ一緒に行きましょう」と応じた。

安藤さんと共にオフィスを出ると、シズクは少しホッとした。田中との会話で心に重くのしかかっていたプロジェクトのプレッシャーから一時的に解放されるようだった。ランチタイムは、新しい同僚とのコミュニケーションを深め、少し気分をリフレッシュするチャンスでもあった。

会議の調整

ランチ休憩が終わると、田中はシズクに新たなタスクを割り当てた。「臨時予算調整会」という会議のインビテーションを出すことだった。参加者は経理の小嶋、ニシスの佐藤部長、田中自身、そして彼の部下である伊藤と小田、そしてシズク自身だ。

「みんなのスケジュールを確認して、空き時間を見つけてくれるかな。もし空き時間がなければ、2、3個の候補日時をメールで連絡して調整してほしい。調整がついたらカレンダーからインビテーションを送ってくれ。何かわからないことがあったら、伊藤か小田に聞いてみて」と田中は説明した。

シズクは、彼の指示を真剣に聞いてメモを取った。会議のスケジュール調整は、チームの協働を円滑にする上で重要な役割だ。初めての大きな責任を任され、シズクは少し緊張しながらも、その新しい課題に取り組む覚悟を決めた。

他の人のカレンダーを確認する方法がわからないシズクは、隣の席にいる小田に助けを求めた。小田は快く彼女の疑問に答え、カレンダーの操作方法を丁寧に教えてくれた。「他の予定を追加」というボタンを押して、表示したい人のメールアドレスを入力すれば、複数のカレンダーが表示されるんだ」と彼は説明した。さらに、彼はインビテーションの送信方法も教えてくれた。

シズクはその新しい知識を使って、カレンダーで参加者全員の予定を確認した。しかし、彼女の心は沈んでいった。全員の予定がびっしりと詰まっており、会議を入れる余地はどこにもなかった。シズクは途方に暮れ、何をすればいいのかと頭を抱えた。

シズクがカレンダーとにらめっこしていると、小田が彼女のもとにやって来て声をかけた。「どう?会議の日程は調整できた?」

「まだです」とシズクが答えると、小田は穏やかにアドバイスをくれた。「予算は上の方で決まるから、経理の小嶋さんと佐藤部長、田中さんが参加できる時間帯を探して。僕と伊藤さんのスケジュールは大丈夫、合わせられるから心配しなくていいよ」

それを聞いて、シズクはほっと一息ついた。もう一度カレンダーを確認し、金曜日の14時から1時間の枠が見つかった。これなら大切な決定者たちが参加できる時間だ。シズクは早速その枠を予約し、関係者へのインビテーションを準備し始めた。小田のアドバイスのおかげで、彼女は初めての大きなタスクを乗り越えることができそうだった。

初めての会議

午後の作業に取り掛かろうとしたところで、田中がシズクのデスクに近づいてきた。「今日の15時からQAの棚卸会議があるんだけど、君も参加してほしい。インビテーションはこれから転送するから」と彼は言った。

シズクにとって、これは初めての会議参加となる。緊張と期待が入り混じる心境だった。田中はさらに言葉を続けた。「最初だから、何を言っているかわからないかもしれないけど、会議の流れを押さえておいてほしいんだ。これからこういう会議にもどんどん参加してもらうからね」。

シズクは頷き、その新たなチャレンジに自分を整えた。彼女は、この会議が自分にとっての学びの場になることを知っていた。何が議論されるのか、どのように問題が扱われるのか。これら全てが、彼女にとって貴重な経験になるだろう。

会議の時間になり、シズクはオンラインで待機していた。参加者は、ニシスから田中、伊藤、小田、そしてシズク自身。さらに開発パートナーのリーダー2名と、マイネットワーク社の担当者2名が加わった。会議はQA表を共有し、進められる形式だった。

話が始まると、すぐにITの専門用語や通信業界の用語が飛び交い始めた。シズクは一生懸命に耳を傾けたが、議論の内容を完全に理解するのは難しかった。専門的な話題が次から次へと出てきて、彼女はついていくのに苦労した。

しかし、会議が進むにつれ、少しずつ流れが掴めてきた。それぞれのQAに対する対応内容が一つずつ説明され、会議ではオープンだったQAのうち3件がクローズになった。一方で、新たに5件のQAが追加された。この点だけは、シズクも明確に理解できた。

彼女はメモを取りながら、まだ覚えるべきことが山ほどあることを感じた。でも、それは同時に成長のチャンスでもある。シズクは、これからもこのような会議に参加し、徐々に専門用語や業界の知識を身につけていくことを決心した。

一日の終わり

夕方の17時30分になると、プロジェクトの夕会が始まった。シズクはこの日二度目のチームミーティングに参加し、各メンバーの進捗報告を聞いた。

朝のミーティングで未記載だった部分は夕会でも未記載のままだった。これについて、田中が「なぜWBSを更新しなかったのか?」と尋ねた。その質問に対し、あるメンバーが「障害対応で手が回りませんでした」と答えた。田中は「そうですか」とだけ言い、それ以上追及はしなかった。

次に、QAについての話題が出た。伊藤がその日のQA棚卸会で追加された5件のQAについて説明し、それぞれに期限と担当者を設定した。シズクはその会議で起きた議論を思い出し、QAの進捗に興味を持った。

夕会が終わると、シズクはその日の業務を振り返った。朝から夕方までの濃密な一日に、彼女は多くの学びを得ていた。新しい業務への理解を深めつつ、次の一日への準備を始めた。

つづく


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