ひとつだけのことば

あなたの心が傷ついていたことも
あなたの心が傷つきやすいことも
ぼくは知っていました
それでもあなたと生きていたかった

あなたがぼくに生きてほしかったことも
あなたがぼくに幸せになってほしいことも
ぼくは知っていました
それでもそっちに行きたいと思ってしまった

あなたを愛していたゆえに
不在の部屋が冷たすぎるゆえに
自分勝手に自分を捨て去ろうとした
そんな日々もたしかにあった

それでも

何とか生きています 今も
無力感と空虚な自分自身を抱えて
今までしでかしてきたことの重さに
毎日苛まれながらも

生きるしかないのです
今の自分には
もう償えるものもないがために
生きていくことしかない

あなたを助けられなかった
ぼくはあなたに助けられていたのに
その事実は今も変わらない
時々それにつぶされそうになるけれど

追憶を抱くことができるのは
いつかぼくだけになってしまうから
胸の中であなたを生かすことだけが
この身にできる全て

今日もこうして空虚な胸に
あなたの面影を映し出す
きっと今あなたを想っているのは
ぼくだけの特権なのかもしれない

そんな自惚れを携えて
少しばかりの語彙を振り絞り
あなたと生きていた日々を記録する
もしかしたらどこかで見ているのかな

短すぎたあなたとの時間を
少しだけこうして引き伸ばしながら
ぼくはこれだけは伝えていこうと思う
それはたったひとつだけのこと

会えない今も きっとこれからも
愛しています
それはたったひとつだけ言える本当のこと

(2023.12.17.11:36)