見出し画像

とても好きだった。

実は、ずっと好きだった人がいた。

彼のことを目で追いかけて、気がないフリをして、こっちを見てほしいと願っていた。
彼は他人から見たらかっこよくもなんともないらしいけれど、私にとっては最高だった。頭が良くて、真面目で、責任感もあって、私が知らないものを知っていて、着飾らなくて、そしてかなり鈍感だった。たまに鈍感すぎてムカついたりもした。

とても好きだった。
2回ほど二人で野球を見に行ったけれど、野球を全く知らない私にルールを細かく説明してくれた。私が飽きないようにか、たまに野球選手のスキャンダルや、入場曲のエピソードとか選手のあだ名の由来も挟んでくれた。
ルールもあだ名も忘れちゃったけれど、試合が動くたびに「おっ!」とか「うわ~~」とか言う彼が可愛いなと思ったし、それを一番覚えている。

このまま好きって言っちゃいたいと思っていた。
パッとしない、恋愛とは遠い場所にいるような人だし、確かに学校では目立つタイプではないから敵なしなんじゃないかと考えていた。
でも、好きって言ってもう野球を見に行けなくなるのが嫌で、失敗したら話せなくなるのが怖くてやっぱりやめておこうと思った。

ある日、「気になる人はいないのか」と聞いてみた。すると私も知っている子を「いいな、と思ったことがある。」と彼は言った。「でも、今はそういう感情なんて全くないし」とも。

「そうなんだ」とだけ返した。

今は感情がなくても、今はただの友達でも、とてもとても嫌だった。
好きな人が自分に振り向いてくれないことが、好きな人が別の誰かを想うことが、ひどくつらかった。悲しくてたまらなかった。

彼は、私のものなんかじゃないのに。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


とても好きだったし、壊したくなかったし、視線の隅に彼を追うだけで私は胸がいっぱいだった。

好きすぎて、どうしたらよいかわからなかった。
もっと積極的になれば良かったのかもしれないけれど、好きだったからなれなかった。いっそのこと好きだと言えば良かったのかもしれないけれど、好きだったから言えなかった。

もうわけがわからなかった。
彼のことを好きな気持ちも、悲しい気持ちも、全てコンクリの道路に打ち付けられた水風船みたいに散り散りになっていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

私はひたすらに彼への想いで走ってきたはずだった。

でもよくわからなくなった。私は自分の不器用さと気持ちの重さで、もう眠たくなっていた。

とても好きだった。

もうそれだけで十分だった。
叶うことのない恋にしがみつくのも疲れてしまった。終わり方がわからなくなっていたのかもしれない、もう手を離したかった。終わりだった。

ちょろい女子大生の川添理来です。