見出し画像

第30章 本音と言いながら。。。

「界。。。」

界からのLINEだった。マリーが南海出版に来ていることを知っていたようだった。

「きっと、わたしのことが心配で、梅田さんが界に連絡したんだわ!」

そう思ったら、涙が出たけど。。いやまてよ。

(界ってさ、梅田さんの言うこと聞くよね。もしかして、界は、梅田さんが好きなのかしら? 梅田さんが好きだから、わたしの用心棒になることを承諾したり。何もかも、考えてみれば、いままでのこと、界が、わたしに関わった全てのことは、梅田さん命令だ!!)

梅田麗子は、年の割に綺麗だ。いや、まてよ。界には、年上のダイディーな彼氏がいるはず。。

「もういやだ!!」

泣きっ面にクマンバチだよ。。トホホ。。

その時また、ポケットのiPhoneが鳴った。界だった。

『この後用事があるから、18時までは待つけど、過ぎたらまた今度にしよう』

「え?」

マリーの心臓がえぐられるような感覚がした。寒気がするくらい心臓が早く打ち始めた。時計を見ると、

「あと10分しかない!」

ラッシュ時の地下鉄に乗って行くより、走った方が早い! とっさにそう思ったけど、走り出して後悔した。

腕時計の秒針が、まるで一歩につき1分であるかのように、クルクル高速で回り出していた。マリーは、また涙が溢れてきていた。もう限界だ。

助けて! 界!

本当はいままで何回だって、そう言いたいのを飲み込んできた。

こんなに一気にいろんなことが起きて。全ては、マリーの自己肯定感をズタズタにするものばかりだった。

界に会いたい!

必死の形相で、約束のカフェに辿り着いた。とっくに18時を回っていた。

カフェの奥の席に、界は座っていた。なにやら、必死にiPhoneをいじっている。そして、顔を上げて、店内を見回し、マリーに気づいた。

「マリー!」

満面の笑顔。

マリーは、界の目の前にどカッと座ると、ウェイターさんに、プリンアラモードとメロンソーダとナポリタンとチーズピザを頼んだ。

「ダイエット中じゃなかったの? マリー!」

界は、なんだか楽しそうだった。

「鼻水出てるよ! マリー!」

とか、

「口のまわり、ソースだらけだよ! マリー!」

とか、

「プリン、一口ちょうだいよ! マリー!」

とか、とにかく何度もマリーの名を呼んでいた。

マリーは、全て完食すると、

「界! 約束あるんじゃないの?」

と、今頃になって聞いた。だって、界に居なくなって欲しくないから。たくさん食べて時間稼ぎのつもりだった。ずっと界といたかったから。

界は、ニコニコして、

「約束すっぽかした! こっちのが大事だからさ!」

って。金髪のロン毛を後ろで一本に結いた界は、やはり、マリーになんかには、手の届かない素敵な王子様だった。

カフェを出て、夜の銀座を二人で歩いた。ショウウィンドウに映るマリーは、まるで界とは不釣り合い。恥ずかしいくらいだ。

しかも、何にもない。いま、マリーには、何にもなかった。

職も失い、作家への道も断たれた。

ショウウィンドウに映る、ただのみすぼらしい女。十三マリー。

「今日、マリーに会えて嬉しかったよ」

不意に、マリーの前を歩く界が言った。マリーは、なんだか分からない感情が湧いていた。

だからか、

「わ、わたしが、カフェまで走ってる時、どんな気持ちだったか分かる? 界に会えないかもしれないって思ったら、心臓が締め付けられて、涙が溢れてきたの! もういやだよ! もう疲れた。何もかも。。。」

なんて言って、その場に座り込んだ。

フワッといい香りがした。界の匂いだ。界はきっと、マリーに手を差し伸べている。だって界だもの。そんなの当たり前だ。界は、優しいから。

「界は。。界が一番好きな人は誰なの? 界の一番は誰? 本当は誰を愛して大切にしているの?」

ああ、言ってしまった。マリーは、ショウウィンドウを見なくても、自分が世界一惨めな女であることが分かっていた。

マリーは立ち上がって、そのまま走り出した。そして、近くの地下鉄駅のトイレへ飛び込んだ。そして、便器に全て吐いた。さっきお腹に入れた、全ての食べ物を。

「惨め。。。」

マリーはしばらく吐き続け、その後乗った終電電車を乗り過ごし、見知らぬ駅へと降り立っていた。

続く

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?