呑んで呑んで呑まれて呑んで

 ハノイ農業大学出身のDUONG君が農場生産に加わってくれた。少しづつ生産面を彼に任せていっていたのも束の間、急に実家に帰るという。お母さんが心配して毎晩、電話してくるのでなんとなく感じていた。DUONG君は大丈夫、心配ないと言い張っていたのだけれど、ついに抗しきれないようになって、一度説得のために実家に帰ることとなった。

 翌日、DUONG君から電話があった。お父さんとお母さんを安心させるために実家に来てほしいと。ベトナムでは家族主義、特にお母さんの意見を聞かないといけないので、家族の理解というのがとても大切になる。

 説得できるかどうかわからないけれど、会社の状況を正直に話すことはできるよと、インターンで来ていた大学生のA君といっしょにHAI DUONG省にあるDUONG君の実家を訪ねることとなった。

 ハノイからバスに揺られること2時間半、田んぼとグアバの木々、レモングラスや香草類が畑に植わっている風景が流れる。バスの乗客の中に、DUONG君のうちを知っている人がいて、バスの降りる場所を教えてくれた。
田舎では決まった停留所はほとんどなく、どこどこで降ろして欲しいと頼めばたいてい降ろしてくれる。

 実家のある町は、北部の昔からある田舎で、親類が近くに住み、近所の人々も顔見知りのようだった。自宅にはドラゴンフルーツが栽培されていて、DUONG君が初めてこの地域に導入し、成功させたそうで、控えめに誇らしそうに教えてくれた。家に上がるとお医者さんをやっているという長兄のNIEN(年)さんがお茶で迎えてくれた。北部ではお客さんをお茶でもてなす文化がある。末弟の会社の人間はどんな人間か、みんな興味津々のよう。そんな風に値踏みされるところにのこのことやってきたわけで。
 DUONG君のお母さんとNIENさんの奥さんがいそいそと昼ご飯の準備をしている。お父さんは近所に用事があってでかけてる。次兄のTHANH(青)さん、叔父さん(お母さんの弟)もやってきたところで、床にむしろをひいて、魚と鶏を潰したのを並べて昼食となった。当然のように酒盛りになる。

 種バナナをつけたベトナムの酒がでてきた。少し甘いので吞みやすいのだけれど、日本酒なんかよりもキツイ酒だ。バナナ酒は腰痛に効くとのことで労働者の味方である。

 こういうときに呑めないようでは、「男」として認めてもらえず、「うちの弟、息子をそんなところにやるわけにはいかない」と言われてしまう。社員一人雇うのも大変だ。ベトナムでは酒宴の席でことあるごとに、乾杯をやり、そのたびに杯をあける。こういうことはとても多いので、僕はめちゃくちゃ強いわけではないけれど、今まで酒豪を相手に何回も吞んできたわけで場慣している。(若いころは潰されるまで呑まされたことが多かった。)
お父さんも帰って着て、ぽつぽつと質問にも答え、お母さんは少し心配そうに見ていたが、どうもお父さんと叔父さんに認めてもらえたのか、少しづつ安心した表情に変わってきた。

 場もこなれた頃、叔父さんから「塩川はいつハノイに戻るのか?」、「明日、野菜の直売会があるので今晩には戻りたい。」と答えると、「明日、朝5時のバスに乗れば間に合うから、今晩は泊まっていけ。豚を一頭潰すから」と、夕食もごちそうになることに。

 午睡のあとに、叔父さんがやっている養豚場に案内してもらい、みんなで豚を解体した。正直言うと血を見るとドキドキしてしんどいので、ト殺現場は好きじゃない。少し離れた場所で静観していた。インターン生の青木君は豚が殺されていくところを真正面から間近で見ていた。ひょろっと青白いのに、なかなかやるなーと、日本の若者を少し頼もしく思った。

 夕方、叔父さんの家、つまりお母さんの実家へ移動した。日曜日だったためか20~30人の親戚が集まって酒宴が開かれた。TAO MEOという小さな野生のりんごを漬けた酒がでてきた。熟成させるとトロリとして良い風味が出る。
 北部ではポピュラーな酒だ。市販されているものは粗悪な酒で漬け込み悪酔いするので、自家製で漬けている家が多い。親戚一同から質問攻めされつつ、杯を次々に開けていく。酒を丼になみなみ注ぎ、盃をひょいと入れて酒をすくう方式。酒宴の中、何度も何度も乾杯が行われ、「健康のために」、「家族の幸せのために」とか定番のフレーズをみんなで言いながら、杯を開けていく。

 ふらふらになって、DUONG君の実家に戻りベットに倒れる。次の日の朝4時にお母さんがベトナムのうどんとおかゆを用意してくれ、朝ごはんを食べて、5時にバスに乗ってハノイに戻りへろへろになりながら直売会を行った。

 結局、説得するも何もただただ、昼飯、晩飯を食い、酒を呑んだだけだったのだけれど、この結果、DUONG君が晴れてうちの生産スタッフとして、農場に戻って来たのだった。

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