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23:45 下北沢

金曜の夜、君はだいたいセンター街かゴールデン街にいる。

誰と何をしているのか、私に言論の自由はない。


金曜の夜、私はいつも下北沢にいる。

家で一人、気持ち良く酔った君がたどり着くのを待っている。


混沌とした街の空気も君にまとわりつけば、心地良い。
べたついたあの匂いが恋しい。

あとは寝るだけになった君はいつも優しい。
慌ただしさを置いてきたその存在は柔らかくて愛おしい。


だから私は毎週待っている。
他の誰より君に会いたい。

だけど君は毎週は来ない。
気が向いたときだけやって来る。

下北沢に来ないとき、どこに帰っているのか、私に言論の自由はない。


00:12 今日行っていい?
00:13 いいよ
00:19 また連絡する
00:38 今から向かうわ
00:38 うん、気をつけて

30分しないうちに君が来る。
まだ君がどこにいるのかわからないけど。






01:02 ついた

「おつかれ。」

「ただいま。」

「おかえり。渋谷いたの?」

「うん、先輩の店で飲んでた。センター街にあるんだけどさ、すげえいいから今度行こうよ。は〜酔った〜。」


センター街の先輩のお店も、ゴールデン街のおじさんのお店もまだ行ったことはない。

「お風呂入る?」

「うん。てか、いい匂いする。」

「いつもそれ言うね。」

「そうだっけ。この匂い好き。」

酔った君は、私の洗いたての髪の匂いが好きだといつも言う。



「お風呂は?」

「ん〜入る。すぐだから起きてて。」

「わかんない、寝てるかも。」

「は?なんで、起きててよ。」

「じゃあ、早くね。」

「5分で戻る!」


私は寝ないし、君は5分で戻って来ない。

このだらしない時間を、もう長いこと辞められずにいる。

自分でも驚くほどバカだ。でも最初からバカだとわかっていたから、辞める理由も見つからない。

職場は先月遠くなった。
それでも私は下北沢を離れることができな
い。

もう少しだけ待っていたい。
君の帰り、君のお風呂上がり、君からの好き。




「ほら、5分で上がったでしょ?」

「13分経ってるよ。笑」

いつも遅れる君だから。
気持ちも遅れて来ないかな。



ずるい君。
バカな私。
金曜日。
下北沢。
世界一だらしなく、宇宙一幸せな夜。

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