説明なしの問わず語り

「フラニーとズーイ」のズーイがフラニーに対して「ちょっと待ってくれ、すぐ終わる、すぐに終わるって、怒らずに最後まで聞いてくれ」みたいなことを何度も言うでしょ?あれがすごく面白くて大好きなんだけど、あれってズーイとフラニーの会話の体(てい)をとっていながら、ズーイが今の世の中に対して言ってるみたいに思えない?

本当は何も分かってないのに分かったような顔をして次に進もうとする世の中に対して何とか待ってもらって最後まで聞いてくれって言ってるみたいで。サリンジャーの比類のない文章そのものが斬新で、ズーイが得意なダンスを披露してるみたい。ダンスで"解決"するんじゃなくて、"打破"するのよ、面白いに決まってるじゃない。

この小説ではズーイがたった数時間でフラニーを救い出すのだけど、彼の頭脳の才覚たるや既に思想のレベルに達しているんだからあんな兄を持つ妹のフラニーが羨ましくなる。

ズーイはお風呂から上がってすぐなのに機能不全に陥ったフラニーを自分の殻から脱出させるために汗だくになって彼一流のタップダンスを披露してるみたいに見える。そりゃカッコいいわ。

中上健次が「人生を踊るように生きたい」って言ってたんだって。その意味ってこういうことだったんじゃないかと思うんだけど、どうかな?違う?

それに村上春樹の「ダンス・ダンス・ダンス」で、「僕」に対して羊男が「踊るんだよ」って言ったの知ってる?「音楽が鳴っている限りステップを踏み続けるんだよ」って。あれを私は「音楽」=「心臓の音」だと思ったの。心臓がビートを刻んでる限りステップを踏み続けるんだってね。たまに自分の意識の中にやってくる、自分のやってきたことが何もかも間違ってるような不安、それが襲ってくると足が止まってしまう…でも自分のやってることに意味があろうとなかろうと、どんなに馬鹿馬鹿しくてもステップを止めちゃダメなんだって羊男は言うのよ。

「僕」にしてもズーイにしても、自分一人の知性や才覚だけでは自分も相手(出会う人)も救えない、だから「僕」は羊男に、ズーイは長兄の書き置き(覚書)に救いを求めた。それも”無意識下の意識”に従って。それまでのズーイが持つ「神」の概念に、自ら命を絶ったシーモアやバディーが学んだ東洋思想が入ってきたのね。そうでなくてもズーイの神やイエスの概念はそれだけで私をずいぶん助けてくれたんだけどね。「コインロッカー・ベイビーズ」だって、キクとハシに心臓の音を想起させたり再起させるものが何度も出てくるでしょ?あの音は音楽なのよ、きっと。

今は、ズーイの兄のバディーが自宅に電話を引こうとしないのは、著者であるサリンジャーがコーニッシュに隠遁した理由と同じかな、とか考えてる。

私の部屋にある本はせいぜい300~400冊、しかもその半分は画集や写真集。でもこうやって色々な小説を繋げていくだけで世界が繋がるし、狭い部屋も広く感じる。だから一人でいても寂しくならないで済むの。

私ですらこんな感じなんだから、3,000冊以上(4,000冊くらい?)本を読んで救われてきた人なら、自分にも私にも負けるわけがないじゃない?
上手く言えないけど、もっと何とかなるはず。

相変わらず散文みたいでごめんなさい。でもね、「キャッチャ―・イン・ザ・ライ」のホールデンが散文のままでもいいんだって。ちなみにサリンジャーは”(小説を含めた)アートは貧困層から生まれる”っていうファッションのような固定概念や思想を爽やかにぶち壊してくれた。貧困層から生まれる可能性はもちろんある、あるけれど、貧困層からだけアートが生まれるわけじゃない。貧困そのものじゃなく別の何か(「才能」なんて言わないでちょうだい)がアートを生む。メンタルが相当切羽詰まった上に言葉にならない苛立ちや疑問もあったから、私にはその一角のぶち壊しが嬉しかった。極限まで行かないと分からないことってあると思うから、死なない程度に徹底して”ただの俗物”をやってみるつもり。

誰との出会いにも間違えはない。渦の模様を内側から描くか外側から描くかの違いだと思うこともあるし、こんな調子なら現世は諦めて輪廻をたどってまた次の時代で、と言いたいところだけど、次の時代の世界はもっと酷くなってると(私個人は)思うから、今のうちに書けるだけ書いておくわ。ズーイになった気分で「ちょっと待ってくれ、訳の分からない時点で、訳の分からない時代に、訳の分からない結論を出さないでくれ、小鳥に説教する聖フランチェスコも、魚に説教する聖アントニウスもダメだ、そんなの出すから話がおかしくなる、いったん受け入れたら追い出すのに数か月、いや数年かかるかもしれない、でも最後まで聞いてくれ」って心で叫びながら(笑) ズーイに会えて本当によかったわ!

中途半端でごめんなさい。いつも言ってるけど深読みはダメよ。ではまた。


#雑記 #サリンジャー #フラニーとズーイ

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