短編小説連式1 四つ角の悪魔
田舎の田んぼ道同士が交わる四つ角。
一人の女性が深夜12時少し前に現れた。
古びたギターを抱え、Tシャツ、短パン、ビーサンスタイルの彼女は一呼吸。
ギターを鳴らす。
コード? なにそれおいしいの?的な状態でギターをかき鳴らす。
ここが田舎でなければ確実に通報されるぐらいの声量で彼女は歌いだす。
もちろん音程など滅茶苦茶だが真剣に歌っているし、気持ちよく歌っている。
一番のラスト近くになると険呑の空気が四つ角にあふれかえるが彼女は気が付かない。
「あなた~に~とぉってわたし~ただの とおりすが~り~ んガっ」
空気を切り裂く一閃。小気味よい音がなる。
おもちゃのバットを握りしめた男性が後ろに立っていた。
「うるせー!へたくそ!殺す気か!?」
「ぃたい」
頭を抱える女性と肩で息をする男性
「はぁはぁつーか異邦人!めっちゃへたくそだけど異邦人!悪魔呼ぶのに異邦人ってなんですか?」
「選曲にいちゃもんとか」
女性は涙目でそっぽを向く
「死ぬほどへたくそで選曲がおかしければツッコミいれるわ!悪魔なめんな!」
男は田んぼにポイっとバットを投げ捨てた。それを見てちいさな声で不法投棄とつぶやくが男は無視している。
「ギターも弾けてないつーか、ただ鳴らしてるだけじゃんか!このビーサン野郎が!」
「野郎じゃないです。おんなです。ビーサンちゃんです。」
叩かれた頭を抱えながらキッと男性をにらみつける女性とその顔を見ていろいろ痛々しさを察して踵かえす男性
「帰るわ。」
「いやいやちょっとまってください。悪魔なんですよね」
男性のシャツの裾をつかむ。
「いや違うんで。全然違うんで。すぐそこに家のもんなんで」
女性を引きづりながら歩きだす。
「ちょ、ちょ、ちょ、さっき悪魔っていったし、こんな田舎でしらない人なんかいないです。聞いてください願い事」
「引っ越してきたんです。田中です。田中あくまといいます。東京で美容師やってたんですけど付き合ってた子との結婚を相手の両親と揉めて彼女も両親にみとめられないとみたいな空気になっていろいろがんばってたんですけど、その間に彼女と距離できちゃったみたいな、結局彼女が浮気しちゃって、その相手がボクサーくずれでなんかぼくやられちゃって、あいては傷害でつかまったんですけど、うでやられちゃって、あーもう美容師できないなみたいな、なんかもういやになっちゃったな、田舎にもどろうかなみたいな、かえってきたみたいな感じなんですよねー」
「きいてきいてきいてきいてきいてきいてきいてきいてきいてきいてきいて」
ずんずんと女性を引きづりながら、あくまは歩く
しかし、女性は片手でスマホを取り出しカメラを起動する。
あくまはちらっと女性をみる
「えっなにしてパシャ」
カメラであくまの写真を撮り出した
「え いやパシャ やめパシャ ほパシャ パシャ パシャ やめーい!」
あくまは立ち止まりスマホを奪おうと手を伸ばすが女性はさっとスマホを抱きしめて叫ぶ
「拡散されたくなければ私のいうことを聞け―い!」
「うわ マジでめんどくさいやつ来たよウザすぎて殺っちゃいたいわー」
キッと睨みつけながら叫ぶ女性に手のひらを向ける。
「まあ死ではなく試練を与える者としては仕方ない、デビルウイングメモリロストトルネードビーム!」
「名前ダサどぅいーん どぅいーん どぅーいん………
声は手のひらから出た謎のビームでかき消された。
あくまはさっとスマホを取り、画像データを削除。ついでに情報流失系の詐欺アプリを3つ程ダウンロードし、優しく彼女に持たせた。
次の日、女性はなにも覚えておらず、いつもの日常を過ごし始める。
変わったのはスマホのいれた覚えのないアプリだけだった。
そして、願いをかなえるため、ギターを持ち出す。
初めての挑戦で胸が高鳴る。
目指すは四つ角
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