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三味線習ってみた




 私の母親は、毒親ながらピアノ科卒だったために、子ども全員にピアノを習わせていたことが災い転じて、メンタルに良い効果をもたらしていました。



 皮肉なことに、それに気付いたのは、大学に入ってピアノを辞めてからです。


「私はクラシック大嫌い。クラシックやってる人も偉そうだから嫌い」と母から言われて育ち、そうか・クラシックをやる人は偉そうだから駄目なのか、と、刷り込まれていました。

 でも習うのは強制でしたから


「なんでわざわざ嫌味なことを、厳しいレッスンを受けてまでやらなくちゃいけないのか?」と、質問もできずに、漫然と続けていました。

 そんなモチベーションなので、20歳になる頃まで、私はピアノが嫌いでした。


 けれど、やめてしまうと、毎日三十分でも練習していたものが無くなり、どうにもおさまらず、就職してからまた、趣味でピアノを再開することにしました。


 自分の意志ではじめると、なぜピアノを弾くのか?を、考えますし、身銭を切ると上手くならなきゃ損だと感じるので、若い子に練習量やテクニック、また、自由になるお金と時間が少なくなるぶん、短時間でうまくなれるよう指を動かすコツや曲が作られた当時の時代背景などを調べます。


 そのときようやく、自分が音楽好きだと気付きました。下手の横好きですが。


 懇意にしている先生がいて、その人の自宅に通って楽しく練習していたのですが、結婚の引越で自宅から二時間かかるようになってしまい、更には子どもも産まれ、さすがに同じ先生のところへ通うのは負担が大きく、再び止めることに。


 で、やっぱり何か音楽がやりたくなりました。子どものためなんて、感心なものでは無いです。一度止めてから、私の場合、音楽を止めることがメンタルダウンに拍車をかけると、以前の経験から分かっているからです。


 そこで、主人が落研出身で、家から近い先生を紹介してくれるというので、かねてから興味のあった三味線に挑戦することにしました。


 今から4年前ここと・・・初めて習った曲は、 日本古謡の「さくらさくら」です。



 と、言っても、ピアノを長年習っていたために、その応用で三味線も習い始めてすぐに「さくらさくら」が弾けるようになった、なんて都合のよいことには、ならなかったです。


 むしろピアノを習っていた経験がここまで役に立たないとは思ってもみませんでした。楽譜すら読めなかった。そもそも落語の出囃子に楽譜なんか無いらしいです。とんでもハップン(※先生は楽譜に起こしてくれていて、それをコピーさせてもらっていますが)

 

 言い方は悪いですけど、三味線ってわりと原始的な楽器で、ピアノのように同じところを弾けば同じ音が鳴る、というものではありません。

 毎回毎回、いや、曲の途中ですら弦がゆるみ、調整の必要が出てくることもありますし、低音が続く曲だと、糸を押さえる手の位置(勘所という)が、常に糸巻きの方ー肩から上にキープしなければならないので、腕がダルくなってきます。

 ついでに、歌舞伎や文楽、お能など、観劇に行って、下座や黒御簾の方を見たことがある方はご存知と思いますが、音楽というのは音だけでなく、見た目で魅せるものでもあります。


 何が言いたいかお分かりになった方もいるかもしれません。三味線も古い楽器なので、椅子席で弾くのはもちろん、爪弾きとか、プロミュージシャンのスタイルは様々にわかれています。けれども、基本は大事です。では、三味線の「基本姿勢」ってなんなのか?





津軽三味線のイメージ

 正座ですね。ついでに着物。これはキツい。素人の手習いで、せいぜい日に30分程度なので、足を悪くする心配こそしていないですが、今でも毎回足が痺れています。


長唄三味線 イメージ


三味線 部位



 お稽古には既に膝の悪い人もいますので、椅子が用意されています。正座椅子もあって、必要なら使っていいと言われたので、一度使ってみたことがあるんですけど、正座椅子は座ったとき太ももの傾斜角度が大きくなるので、三味線を抱える姿勢が変わるんですね。



 また、バチ皮に当てるバチの角度も、カンジが変わってしまって、慣れそうにありませんでした。

 音や楽譜が単純でも、基本姿勢が何より大事だと分かると、弾いている途中に三味線やバチを覗き込むわけにもいかず、なかなかマトモに曲を弾けませんでした。


 ピアノであれば、どんな姿勢で弾いても、「ド」は「ド」のままで、多少調弦が狂っていたとして、一日や二日で音が変わったりしません。さくらさくらのメロディを拾うだけなら、習わなくとも誰でも弾けるでしょう。


 私の感覚では、習わないと単純な曲も弾けないとは、邦楽器で、私は日本人のはずが、カルチャーショックです。

 

 更に驚きが続いたのは、三味線という楽器のコンディション。三味線の糸は、竿の上部の糸巻きと、胴体下の音緒でビーンと張られていて、それを鉢でベチベチ叩くので、しょっちゅう糸が毛羽立ち、もちろんそんな状態で弾いていれば、ブッと切れることもありますね。


 糸は蚕が多く、これは今も昔も変わらぬ素材ですが、撥は鼈甲や水牛が手に入りにくくなり、プラスチックが主流です。プラスチックは丈夫な代わりに、天然素材ほどしなりが無いので、糸と比べると、丈夫さがアンバランスになるというデメリットがあります。擦り切れるのが早くなるんですね。


 曲の最中に糸が切れる・・・というのもなかなかの衝撃でしたが、切れるまでいかずとも、糸が緩み音が変わる、というのが、素人にどないせーっちゅうねん?と、本当にショックでした。


 対処法としては、舞台だと予め糸を新しくして切れにくくするとか、オクターブ変えても良いから弾き流しつつスキをみて糸を締める、とか・・・。


 はじめから職人技が必要だと言われているように聞こえませんでした。


 そんなことを先生はやれとは言いませんが、どんなに調整しても演奏が困難になる可能性を残したコンディションが三味線の「普通」というのが、信じられません。


 どれくらいうまくなったか、三味線を弾き始めた頃の演奏も、録音しておけば良かったと思わないでもないですが、そもそも「曲に聞こえなかった」ことは覚えているので、やっぱり録音しなくて正解だったかも。




 邦楽器をやるのって、お金持ちの道楽な印象もあると思うので、お金の話を書いておこうと思います。

 私は、大阪は天満で一人暮らしを経験した誇り高き一般庶民(どや!)なので。


 比較的裕福な家庭では育ちましたけど、別に裕福ではありません。楽器を習おうにも、いちばん悩み時間をかけているのは、お金との相談です。

  

 始めた当初、三味線は合成樹脂で、指摺り(※親指と人差し指の間にかけて、糸をおさえる方の手が、竿を滑りやすくするモノ)、ゴム板(膝の上に置く三味線の胴の滑り止め)、鉢まで、付属品が全部付いたお得な初心者セットを購入したんですが、合成樹脂だとどうもやっぱり軽いんですね。

 それで、この度、中古ながら花梨の長唄用・細棹三味線を購入したんですが。

以前、先生から聞いていた、邦楽器の修繕、販売、講義まで、関西一円に活躍されているツタヤ楽器さんというところです。

 ケース付きで、ちょっと勉強もしてもらい、五万円でした。

 ヤフーオークションなどで邦楽器を見る機会がある方は知っているかも知れませんが、扱い方の諸注意を受けた上、皮など張り替えられたキチンとした状態で、このお値段は超お買い得です。


 それでもポンポン出せる値段では無いです。


 三味線を始めるには、本体だけでなく、いろいろ付属品が必要です。付属品の破損くらいなら安価でなんとか補修できても、本体はちょっと習ってみて、失敗する、やめる、となると、痛い金額です。


 一人暮らしを始めてから趣味としてピアノを再開したと書きましたけど、それでアップライトピアノを買う人は少ないかと思います。安くても何十万かかかりますし、人から聞いた話では、保育士免許で必要なぶんを習うのに、電子ピアノをリースで、という人が多い印象でしたね。


 私は、打鍵の重さができるだけ本物のピアノに近い電子ピアノのメーカーを、当時の先生に聞いていました。

 楽器の練習は、反復。正しい技術をできるだけ大脳に染み込ませていく作業になるので、手応えがあんまり違うと、そこで脳とのつながりがストップしてしまいます。

 

 私の場合、ヘタでも続けていたからこそ、自分で自分のやりたいことを理解していたから、こういうものをと求められましたが、やっぱりそこは、なんの前知識もなくても、売り手に書い手のニーズを理解してもらい、最低限の知識を教えてもらえるような、細やかなサービスをお願いしたいところですよね。




 気軽に三味線を弾く仲間が増えて欲しいという気持ちの反面、これが邦楽器を取り巻く環境でシビアなところかと・・・

 取り扱うお店が少なくなっているんです。電子ピアノやエレクトーン程度なら、家電にコーナーがあって気軽に触れられるし、駅ピアノなんて文化もあって、ストリートアーティストに出会う機会は逆に多くなっている印象。

 

 対して、邦楽器で門戸がいちばん広いと感じるのは、学校の部活動か、日本文化のお囃子方でしょうか?

 めちゃめちゃ少なくはないですが、慢性的な斜陽感を感じます。素人だからかな?もっと増えても良いかな、と思います。


 私ごときは、まさか三味線が日本文化から消えることなど、毛頭信じていないですけど、日本文化の一つですし、洋楽と同じくらい盛り上がってほしいところ、なんですね。


 たぶん、そのほうが練習しやすいし、需要が高まればお店が増えます。

 現実は世知辛いもので、数年前に阪神百貨店を最後に、全国百貨店から邦楽器のコーナーが消えました。


 ツタヤ楽器の店長さんの話だと、部活動や、着物からお茶、楽器まで、和文化に広くお金を落とすセレブはやはり存在して、商いは成り立っていても、庶民の手習い・趣味という金額では、無いような気がするんですね。


 買う側にとって、良いお店かどうかを判断する材料が少なくなることは、大きなリスクです。


 数年習って、花梨か黒檀のをひとつでも買おうと思い立ったは良いですが、ヤフーオークションはすこぶる難しかったです。写真だと「本当に良いものか」がわからないですし、ほとんど壊れていると言っても良い品を二束三文で売っていたりして、そういうのは、販売の目的がたぶん利益よりも処分なんですね。

 音楽をやろうというモチベーションって、独りよがりでも、誰かに何かを伝えたい、みたいなところから来ると思うので、ネットオークションとは基本的に相性が悪いと感じます。


 たとえば、生き物を飼おうと思ったら、店員さんにどうやって育てるか、いろいろ聞きますよね。楽器も同じで、店員さんには、プロの奏者でなくとも、基本的な事を聞きたい・知っていてほしい。


 確かにネットで調べればある程度のことは分かりますけど、買う気があるかどうか?予算は?この人にはどのくらいの知識があるか?と、いうように、顔色や質問で判断してはくれません。


 ネット社会になって久しくも、楽器を始めるのには、少なからず良い人縁を必要としていると思います。




 と、思わず、楽器屋の回し者みたいな口上になってしまいましたけど、気軽に始めたいのに、気軽に聞けるところが少ないのは、なかなかシンドいな気がするんですね。


 知恵袋とかで何の気無しに尋ねたのに、環境はどうですか?予算は?そんな前情報じゃ何もわからないです、もっと調べてからにしたら?楽器を始めるのにそんな低意志で良いのですか?というような、お説教の方向になったら、誰だってやる気がなくなってしまうじゃないですか。



 三味線の保存方法についても、ツタヤ楽器の社長さんに改めていろいろ教えてもらいました。ケースの中に、乾燥剤と防虫剤を入れること。

 湿気に弱いのは通り一遍の楽器に言えることですが、防虫剤とは?

 木の胴体が喰われるのですか?初耳です。そして恐怖です。(虫嫌い)

 詳しく聞くところによると、なんでも、胴体や糸・革は喰われないそうですが、防カビ剤代わりに。

 そして、プラスチック以外の撥は高いので、そもそも新調する気は無かったのですが、鼈甲や水牛の撥は、虫に喰われるのだそうです。


 象牙は硬すぎて、虫食いしないという話でしたが、庶民の皆々さま、ぜひ値段検索してみてください。私は目の保養なんだか分からない意味不明の笑いが出てくるお値段です。


 あと、マンション暮らしの方は練習音が気になると思うのですが、忍び駒というものを勧められ、合わせて購入しました。

 音はどれくらい小さいか?こちらで比較してみましたので、よろしければ聞いてみてね。


 そんな感じで、「やってみた」からの、派手さには欠けるもリアルな三味線ライフを綴りましたので、ちょっとでも面白けば嬉しいです。


 


 


 

 





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