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借地権を設定している土地の有効利用と立退料

1 所有する土地に、現在、借地人が建物を建設して事業を行っている事案において、借地料だけでは利回りが不十分であると考え、いずれ退去してもらい、更地にした上で、自分でアパートを建てて家賃収入を得ることを計画した場合、どのようにして、借地人に土地の明渡しを求めることができるのかが問題となる。

2  まず、建物所有を目的とする借地契約において、存続期間の途中に解約できる条項を設けても無効であると解されている(借地借家法9条)。したがって、土地の明渡しを求めたい場合には、借地期間の期間満了を待たなければならない。
  そして、借地期間が満了する場合であっても、借地人が契約の更新を請求したときは、建物がある場合、契約を更新したものとみなされる。ただし、借地権設定者が遅滞なく、一定の要件を満たす異議を述べたときは更新されない(借地借家法5条1項)。
  なお、借地権設定者から異議を述べることができるのは、①借地権設定者が土地を使用する必要性、②借地人が土地を使用する必要性のほか、③借地に関する従前の経過、④土地の利用状況、⑤財産上の給付の申出を考慮して、正当事由があると認められる場合のみである(借地借家法6条)。
 
3 そのため、交渉や裁判を行うにあたっては、①から⑤までの要件に沿って、正当事由があるか否かが判断されることになる。例えば、①(借地権設定者の使用の必要性)については、土地をより高収益にて運用する計画(有効利用計画)の場合も含まれると解されている。ただし、この計画は抽象的なものでは足りず、具体的に示す必要がある。また、②(借地人の使用の必要性)については、当該土地及び建物を使用している場合には、高い必要性が認められている場合が多いものの、その際には、代替的移転先があるかどうかが重要な要素として検討されている。さらに、③、④、⑤の要件も補充的に検討されるが、その中で特に重要となるのは、⑤の財産上の給付の申出(主に立退料)となる。
なお、条文上、①、②の要件が主要な判断基準であり、立退料はあくまでも補完事由として考慮される。つまり、裁判となった場合には、①、②の要件が不十分であれば、いくら高額な立退料を提示した場合であっても、正当事由が具備されない可能性があることに留意が必要である。

4 そして、⑤の財産上の給付の申し出は、多くの場合は立退料となる。その場合の立退料の金額は、個別事案の個別事情により異なるが、大きく分けると、(ⅰ)借地権価格を基準として調整するもの、(ⅱ)移転のための実費・損失等の補償額を基準とするものの2種類がある。なお、借地権価格とは、借地借家法に基づき土地を収益することにより借地権者に帰属する経済的利益とされ、更地価格の6割から7割程度となることが多いとされている。
 なお、裁判例の傾向としては、(ⅰ)の借地権価格相当額を基準として、これに諸事情を勘案して立退料を算定している事例が多いように思われる。ただし、東京高裁平成11年12月2日判決など、(ⅱ)の移転するための費用等を参考にして立退料を認めた裁判例もいくつか存在する。

5 上記(ⅰ)の基準をもって立退料を算定している裁判例が多いのは、建物所有を目的とする借地は、借地借家法の保護を受け、長期間土地を占有し、独占的に使用収益し得る安定的な財産的価値利益を有することから、更新しないということは、この財産的価値を借地人から買い取るのと同視できることが理由の一つとしてあると考えられる。他方で、代替地への移転が容易であると評価されている事案や当該借地を借地人が当初の目的に従って利用していなかった事例については、(ⅰ)のような保護を与える必要まではないため、(ⅱ)の方式で算定されている傾向があるように思われる。

6 なお、借地契約の更新がない場合には、借地人は、借地権設定者に対して、当該土地上の建物を時価で買い取るように請求する権利を有している(借地借家法13条)。したがって、更新について異議を述べる場合には、立退料だけではなく、当該建物を買い取るための費用も準備しておく必要がある。

7 以上のとおり、土地の有効活用を計画する場合には、借地契約の存続期間を確認した上で、当該期間に応じて十分に具体的な計画を立案し、それを実現するために必要な資金(計画を実現するための資金及び立退料等)の準備が必要となることに留意が必要である。

※ なお、以上の記載は、借地借家法における借地権を前提に記載しており、旧借地法時代(平成4年7月31日以前)に締結した借地権は、旧借地法の規定が適用されるため、多少内容が異なる。例えば、旧借地法においては、老朽化し、建物としての効用を失ってしまう状態になったときは、その時点で借地権が消滅するとされている(旧借家法2条1項、同5条1項)。しかしながら、借地借家法に定める正当事由の規定は、旧借地法時代の裁判例の取扱いに即して、内容を明らかにしたものであり、旧借地法より借地借家法において、地主が契約の更新を拒みやすくなっているということはないと解されている(法務省民事局参事官室編・一問一答新しい借地借家法48頁以下)。

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