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第1回:「ふつうの学校」作ります。 私立新留小学校(鹿児島県)設立趣意のようなもの

The English article is available here.

2026年4月開校を目指して、鹿児島県姶良市に私立の小学校(一条校)を設立準備中です。コンセプトは「ふつうの学校」。今回はその設立趣意のような記事を書いてみたいと思います。


そもそも、「ふつう」とは

(このプロジェクトでの「ふつう」の定義)
「普通」って、そもそもどういう意味でしょうか。

A氏「普通、鶏肉って生(なま)では食べないよね」
B氏「いや、鹿児島では鳥刺しって普通に食べるよ」
A氏「マジで?魚の刺身みたいに普通にわさびと醤油つけて食べるの?」
B氏「いや、鳥刺しには普通 ニンニクと醤油かな」
C氏「いやいや、普通 生姜と醤油だろ」
D氏「いや、普通 ポン酢で食べるでしょ」

人ってそれぞれ、価値観も違うし、育ってきた環境も違うので「普通」を「一般的」という意味で捉えた上で「普通の小学校」と表現すると、聞き手によってイメージするものが違ってきそうです。

今回のプロジェクトでは、それでもあえて「ふつうの小学校作ります!」と宣言しているのですが、

わたしたちは、「ふつう」=「普(あまねく=広く) 通ること」という意味で使い、どんな地域でも特別なプレイヤーがいなくても、その地域の人々の手で 子どもにとっても先生にとっても学校を取り巻く地域の人にとっても心地よい学校を作り、その過程で 普遍性の高いエッセンスを言語化していくことを目的としたいと思っています。

ふつうとは、引っ掛かりが少ないこと(かも)

サーキュラーデザインウイーク2023で参加者に配られた日当山無垢食堂のお弁当

先日、世界各地からたくさんの研究者やプレイヤーが鹿児島に来てくださった時のこと。ご近所の顔の見える生産者さんたちの食材だけで作ったお弁当をお届けしたところ、ありがたいことに大変喜んでいただけました。それと同時に、「どうしてそんなことが実現できるの?」「Incredible(信じられない!)」と驚かれました。

産業革命以降 社会システムはどんどん複雑かつ大きなものになり、お米も野菜も鶏肉も卵もすぐ近くでとれるのに、なぜか遠く地球の裏側から運ばれてくることに違和感を感じにくくなりました。
遠くでとれたものを加工して冷蔵して輸送したもののほうが、なぜかお隣の畑で取れたものより安いなんてことも「普通に」起こるようになりました。
でも、普段食べるものなんて近くでとれた新鮮なものが舌にも心にも地域にも環境にもおいしいはずなのです。

学びも、今の時代だからこそ、その土地ならではの豊かな風土に根付いた 顔の見える小さな関係のなかで紡ぎなおすことができると、幸せで実り多いものになるのではないかと私たちは考えています。

なぜ、いま「ふつうの学校」か

まるで時間が止まったかのように、ピカピカのままの教室

日本の教育システムは、全国津々浦々へと良質な教育環境を届けることを可能としてきた、世界的にも稀有なものといわれています。

一方で、社会環境の変化に伴い、学校教育のあり方を見直していく必要があるという声も、さまざまな場所から上がっています。

例えば、教職員の多忙化や教員不足、学校に行けない・行かない児童の増加、新しい学び方への適応、地域コミュニティの希薄化や人口減少による学校統廃合など。学校をとりまく課題は長年指摘されつつも、解決されているとはいえません

その理由の一つとして、教育システムの完成度の高さ故に、制度や組織の硬直性が高まり、学びの環境を軽やかに変化させにくくなっていることが挙げられます。
そういう意味で、一度 私立の一条校としてコンパクトに切り出した上で、スピード感を持って試行錯誤を繰り返し「何が本で、何が末か」、よい変化を連続的に生むための「起点はどこか」を探究してみるというのも今回のプロジェクトの試みの一つです。

また、温度感がありつつもより効果的で深い学びをデザインする上では 学校内や教育システム単体の視点を超えて、地域や社会など多様な視点も含めてアプローチしていくことも求められるでしょう。

この数十年、尖ったコンセプトの学校をつくることや、教育システムの外側で新たな学び方を実践することなど、様々な試行錯誤が行われてきました。

こうした文脈を受け継ぎながら、私たちは「地域とともに、学校教育法の中で、ふつうの学校をつくる」ことに挑戦してみたいと考えています。

ご近所で採れた食材で作る、おいしいごはんをこれからもずっと町のみんなで食べ続けられるようにするには?

自ら学びとる力を育むことのできる、ワクワクする場であり続けるには?少し前の時代のように、地域まるごとが再び学びの舞台になるには?

等身大の大人たちが、いつまでも自ら学び続ける背中を見せられるには?

先生にとっても、心地よい働き方や暮らし方ができる学校にするには?

私立新留小学校 企画書より

学校は、地域という大きな生態系の一部であり、ハブである

今回のプロジェクトでは、「学校は、地域という大きな生態系の一部であり、ハブである」という視点から、下記の取り組みを行っていきます。

1.廃校を再び開校し、小学校をつくる

旧新留小学校の校舎を舞台に、一条校(学校教育法第1条に定められた学校)の私立小学校として、2026年4月の開校を目指します。

名称は元々の名前である「新留小学校」を引き継ぎ、生徒数72名程度の規模を想定しています。

2.学び場を軸に、地域のコミュニティと経済を再生していく

近隣の生産者と連携した給食、まちに開かれたランチルームや図書館など、地域に暮らす人たちと共に学びの環境をつくっていきます。

小学校を真ん中に、「半径300m」「半径3km」「半径30km」、さらに広い世界へと広がりが生まれていくことで、一次産業をはじめ、地域のコミュニティや経済を再生させていきます。

3.全国各地の学校と地域が変容していく触媒となる

これらの実践から生まれる知見を社会に共有し続けることで、今回の小学校にとどまらず、各地の公立小学校や教育制度がより豊かになっていくためのキッカケを生み出します。

また、全国の過疎地域にある小規模校が廃校ににある「前」の段階から動き出しはじめることで、学校を軸に地域の可能性を引き出すという選択肢を提案していきます。

食とことば

今回の学校づくりでは、ひと握りのスーパーマンや、特別な方法論に頼るのではなく、学校を中心に学びのフィールドを大きく解き放って子どもも大人も皆が学び、教え、励まし、喜びあうことを大切にしていきたいと考えています。

そのことを前提に置いた上で「食」と「ことば」、この2つを学びの柱として据えたいと思います。

共同代表の古川がこれまで手がけてきたプロジェクトをご存知の方の中には「あぁ、りささんの得意分野ですもんね!」と思われた方もいらっしゃるかもしれません。
もちろんそういう側面もあるのですが、今回の「食とことば」という柱は、現代の初等教育や地域づくりを考える上で、根っことすべきものは何かという視点で、私たちなりに熟考したコンセプトです。

詳しくは第3回目の記事に譲りますが、人を人たらしめている「食と子育てを共同で行う」という行為と「言語で平和的にコミュニケーションを取り幸せに暮らす」という力が、産業革命や近年の情報革命の影響で大きく揺らぎつつあります。

学び場をデザインする上で最も大切にすべきは、世界一を目指すことでも、世界中がが驚くようなイノベーションを起こすことでもなく、そこに関わる皆があたりまえに幸せであり続けることなのだと思います。

新留小学校の話

このタイミングで学校づくりを進めていくことを決めた大きなキッカケとして、鹿児島県姶良市にある小さな木造校舎との出会いがありました。

人口減少・高齢化が進む中山間地域にある、2007年まで生徒が通っていた新留小学校。休校までの7日間を追った日立マクセルのドキュメンタリーCMは、当時全国で大きな反響があったといいます。

2023年後半。偶然、この校舎に「競争入札」の立て看板が設置してあることを見つけた時、この廃校を、地域とともにもう一度開校してみたいと思いました。

そんなことを身近な人たちに話していると、行政や地域の方々、さらにはCMに登場していた最後の生徒たちや教職員の方々、当時の制作チームとの嬉しい巡り合いも生まれていきました。

今後の予定とメンバー

2026年春の開校を目指して活動していきます。

現在は、校舎と敷地の入札を終え、寄付募集のための「一般財団法人 私立新留小学校設立準備財団」を設立した段階です。

2025年6月・12月に開催予定の私学審議会にて認可を受けることで、その後に学校法人を設立することが可能となる予定です。

※状況によっては開校年度を変更する可能性があります。

準備財団メンバー

鹿児島で食を通じて生きる力を育む保育園を運営する古川理沙、秋田で教育やまちづくりを手掛ける丑田俊輔、広島の叡智学園中学校3年生の古川瑞樹が発起人・共同代表となり、設立準備財団を設立しました。

また、ひより保育園園長の白水純平、日本総合研究所エクスパートの井上岳一、サイバー大学IT総合学部教授の勝眞一郎が設立メンバーとして参画。

古川、白水の運営する「そらのまちほいくえん」(鹿児島市)・「ひより保育園」(霧島市)や、物産館併設型のレストラン「日当山無垢食堂」(霧島市)なども近隣に位置しており、食をはじめ様々な角度から連携しながら、小学校を軸にした持続可能な地域づくりを進めていきます。

ふるかわのプロジェクト 詳しくは↓

加えて、丑田が活動する秋田県五城目町における、住民参加型の公立小学校づくり、商店街の遊休不動産を活用した遊び場「ただのあそび場」、30km圏内の森林資源を活かした集合住宅「森山ビレッジ」など、遊び・学び・コミュニティを軸としたまちづくりの知見を総動員していきます。

現役中学生である古川瑞樹は、次世代・当事者の視点を学校づくりに活かしていくために、これから小学校に入学する保育園の子どもたちや、小学校を卒業したばかりの中学生たちの声を丁寧に広いながら新たな学校作りを進めていきます。

丑田 × 井上 の対談は↓

寄付を募集します

鹿児島で小学校を新しく開くためには、土地建物そして2年分の運転資金を(借り入れではなく)自己所有していることが最低条件となります。
そのために、今後多くの皆様からの寄付を募っていく予定です。

銀行振り込みでの寄付はこちら からお申し込みください。

2024年3月22日(旧 新留小学校の最後の卒業式であり閉校の日)に一般向けのクラウドファンディングを開始予定。
また、2024年夏頃を目処に、企業版ふるさと納税を活用しての寄付の受付ができるよう、現在調整中です。

【必要資金(概算)】
・土地、建物購入 4,000万円
・校舎改修 2億円
・新設棟 2億円
・2年分の運転資金 1.5億円
・教具、備品、バス等 5,000万円
・給食室厨房機材 800万円
・開校準備資金 1,000万円
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総計:7億円


明日以降の記事の内容(予定)

できる限り、毎日更新できるよう準備を進めていますので、ぜひアカウントをフォローして記事を読んだり、多くの人に読んでいただけるよう記事をシェアしたりしていただけると嬉しいです。

第1回:「ふつうの学校」作ります。設立趣意のようなもの(今回の記事)
第2回:「小学校」の概念を見つめ直してみる
第3回:食とことば とは
第4回:ランチルームとライブラリーの可能性
第5回:学び場を軸にした幸福度の高い地域デザイン〜保育園編〜
第6回:学び場を軸にした幸福度の高い地域デザイン〜小学校編〜
第7回:「ふつう」という言葉のこそばゆい感 〜これであなたもふつう通!〜
第8回:ご存知ですか、教育基本法?
第9回:小学校とは地域にとってどういう役割の装置か?
第10回:【インタビュー】なぜ、このドキュメンタリーを撮るのか
第11回:「これが教育の未来だ」というコンセプトを手放してみてもいいのかもしれない
第12回 まちづくりは人づくりから
第13回:ことばによって世界の解像度を高めよ 〜国語の先生との対話から〜
第14回:第14回:早期外国語教育は必要か?
第15回:第15回:子どもたちの「やりたい!」を実現できる学校を、地域とともに創る
第16回:学校をめぐる地の巨人たちのお話〜イリイチ、ピアジェ、ヴィゴツキーなど
第17回:コンヴィヴィアリティ、イリイチの脱学校から
第18回:これまでのプロジェクト「森山ビレッジ」
第19回:現役中学生たちの、理想の小学校
第20回:理事紹介1・このプロジェクトにかける思い


などなど。「こんな記事も書いて〜」というリクエストや、記事へのサポートもお待ちしております。

(第2回に続く)

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