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農作物被害への対策 ベーシックver.

唐突に個人的な話から始めると、
実は来年の春に、クラウドファンディングに鳥獣害対策のプロジェクトを投稿しようと考えている。

対象はツキノワグマ。
カメラトラップを用いた、狭い地域内でのクマ調査だ。

実行日が近づいたら、noteにも詳細をUPさせていただくので、
よろしくね。まだまだ時間はあるんだけどね。



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さて、では基本に立ち返って、鳥獣害対策のハウツーを整理してみることにしよう。


鳥獣害対策というものには主に、2つの種類がある。

農作物を食べられる食害と、人間が負傷する人的被害。

この2つでは対策のアプローチが変わるので、今回は農作物被害の対応策から紹介する。

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野生鳥獣が出没して作物に被害を与えるのは、山間地域を占める広い範囲でのことだ。
そもそも何故、野生鳥獣が出てくるのかという理由は、

・山間地域から人間の生活が撤退していること
・人間に対する恐怖心が薄れてきていること(いわゆる人慣れ)
・山の食べ物より、栄養価の高い農作物に依存する個体が出てきていること

などが挙げられる。
出没する野生鳥獣にとって、農地は山の延長線で、そこにある作物が人間だけのものだという道理は持っていない。
もちろん人間が出入りしている場所に安易に近づくことはしないが、それでも「ここから先は人間の場所、ここの草は人間の草」だと認識している訳ではない。

だから、まず鳥獣に伝えなければいけないのは、
「ここの草に、あなたたちは手を出せない」ということだ。

要するに侵入防止の柵を、徹底して張ればいい。

シカ・イノシシに対してはワイヤーメッシュなど金属製の物を

(ただのネットでは破壊される)。
サル相手には、電気柵を

(積雪地には取り外しのきく簡易電気柵が好ましい)。
その3種に対しては、それらを組み合わせたものを、状況と被害に合わせて使うことだ。

たまにいるのが、農地の柵を出入りに使う場所だけ空けておく農家さんだが、ゲートの開閉を面倒くさがってちゃあいけない。
昼間はそれでいいが、夜になっても閉めておくのを忘れると、そこから簡単に侵入される。

ただの柵だけだとサルが登り下りして出入りするし、イノシシは簡易電気柵を支柱から倒してしまうので、

西日本では「おじろ用心棒」というミックス型の防除柵で対応している所もある。(兵庫県の末松電子製作所さん、HPに行く価値あり!)

きちんと柵が機能していれば、その外側で鳥獣がうろつくことはあっても侵入されることは防げる。
もし農地に入られてしまったなら、

・漏電していて電圧が足りなかった
・サルが木の枝を伝って出入りしていた
・イノシシが柵の下に穴を掘っていた
・小高いところから、シカが電気柵を飛び越えていた

などが考えられるので、日々の点検と農地に合った柵の張り方がとても重要になってくる。

明日収穫しようと思っていた稲田や畑が、一晩で獣に潰される。
これ、ものすごく悔しい上に、

「もういいや」ってその後の意欲まで潰れるので、是非とも点検と管理を欠かさないでもらいたい。

鳥獣害対策の3つの肝のうちの1つ、【被害防除の維持・継続】だ。
とりあえずこれができているなら、大きな被害にならずに済む。

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「いやいや待てよ、電気柵をつけても木の枝から出入りされたらどうするんだよ」

そういう場合は、素直にその木を剪定するか、伐採してしまおう。

稲田に畑、家庭菜園、園地のすぐそばにまで、森が迫っているのはいい環境とは言えない。野生鳥獣が、農地に侵入するギリギリまで安全地帯に身を隠して、人間のいない時を見計らうことができるからだ。

そうさせない為に、農地の周囲をオープンランドに環境整備するといい。


野生動物は、何はともあれ死にたくない。

(死という概念があるかどうかは別として)

人間に見つかるかもしれないということは死ぬかもしれないということであり、彼らは自分の姿を無防備にさらすことを嫌がるし、森へ逃げて隠れるタイミングをいつでも計っている。

草原に出るというだけでも警戒を怠らない彼らの生活は、常にリスクを伴っているのだ。

そこを逆手にとって、野生鳥獣にとってハイリスクな環境を作っておくことで、農地に近づかないようにする。


鳥獣害対策の3つの肝のうちの2つ目、【緩衝帯づくりの環境改善】だ。

ただその土地の所有者のOKがないと勝手に伐採することはできない。誰の土地なのかがわからないこともあるので、そういう時は自治体の担当者を頼ろう。所有者の理解と説得に、力を貸してもらうといい。

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以上の2つの肝は、農家自身でも頑張ることのできる自助努力だ。

だがその3つ目は、特殊な分野なので相互協力が必要となるだろう。

【鳥獣の問題個体の排除】である。

農作物被害の対策で、一番困難なのが、「山中にいる無害なシカを捕まえるのではなく、農地に被害を与える有害な問題シカをピンポイントで捕獲する」ということだ。


しかし単純にワナをかけても、狙っている問題個体が捕獲できるかはわからない。

その為には現場を調べたり、自動撮影カメラを仕掛けたりして、問題個体の通り道や行動のクセを観察しなくてはならない。

多くの地域で、ワナ捕獲や銃での捕殺に、猟友会員が関わっていることだろうと思う。狩猟免許と銃・ワナの使用という2つの許可認定がなければ、野生鳥獣の駆除は警察でもできないから、当然だ。

被害農家の情報と、猟友会の技術、そしてその間を自治体担当者や鳥獣害コーディネーターが取り持って、有害な個体を捕まえる為の話し合いが重要になる。


ちなみに、サルの場合だとこの個体駆除は、

「群れの捕獲と全頭駆除」か「群れの捕獲と問題個体のみの駆除」になる。

というのも、サルは群れで行動するので、どの個体が悪質なのかを見極めるのが難しいからだ。

農地で被害を出している個体を狙って撃つこともできるが、人間が待ち伏せていればサル群れは出てこないし、人員の配置と群れの出没はタイミングが合わないし、猟銃を撃てばその影響で群れが分散するかもしれない。分散した群れが元に戻らずに散り散りになれば、新たな被害地を増やすことになる。

サルの行動の単位は、群れだ。

その意味で、個体や母子で動く他の獣種とは異なるのだ。

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【被害防除の維持・継続】

【緩衝帯づくりの環境改善】

【鳥獣の問題個体の排除】

この3つが揃わないと、地域の鳥獣害対策の現実は厳しい。

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「鳥獣害対策とは?」と簡単に聞かれても、

「鳥獣害対策の本質は?」と難しく聞かれても、

被害を防ぐという目的の下では、言えることはいつも同じ内容だ。

大切なのは、人々の自発的な行動と、それをサポートする自治体の姿勢と、

ただ目の前の鳥獣を殺すだけではない計画的な、ワナ・銃保持者への協力要請なのだ。

自治体だって猟友会の人たちだって、対策の専門知識を網羅している訳ではないし、

勉強してくれる人もいるけど、関係者間の合意形成まで完璧な人はいないからね。


『動物の数を減らせばいいんだろ』では解決しないし、

『誰かがやってくれるだろ』では被害は増えるし、

効果のない方法を『やったじゃん!』と言われても正直、ものすごく困る。

私が専門学校にいた時、被害対策の専門家が言っていたのは、

鳥獣害対策は動物相手ではなくて、人間相手の仕事だということ。

まずは関係者に内容を周知し、理解してもらい、そこからが説得作業になる。

それが上手くできないのが人情だし、専門家でも十数年かかってやっとのことだって場合もあるし、

経済的な理由も背景に上がってくるから、専門外のことには何も言えないし。




都市部の一般生活には大きなニーズはないけれど、

それでも山村の農家にとっては死活問題で、

家庭菜園愛好者でも大袈裟に言えば、生きる意欲を減少させてしまう事柄なのだ。

「中山間地域から人間がいなくなったら、日本社会はどうなるのか?」

それを考察してみるのも個人的には面白い。

野生鳥獣の問題は、

野生鳥獣と山の人々の関係性の悪化だけでは収まらない。

人間社会の問題が波及して、今の野生鳥獣の問題が起きていると言って過言ではないんだ。

そのことをわかってほしいなぁ。

と、個人的には思うのだ。




2021.3.19







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