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【読書】常野物語 光の帝国

ロバ書店という唯一の本屋さんがお店を畳んでしまい、上川町は一時期本屋のない町になってしまった。

本と触れあえるのが、かみんぐホール(公民館)の図書室とカフェの本棚くらい。学生さんは自分の学校の図書室があるか。

そんな中、協力隊員のあっちゃんが「本と珈琲と◯◯」というイベントを始め、

上川町のコワーキングスペースであるPORTOに今年、「わたしの本屋さん」という貸本棚ができた。

今年オープンが重なったカフェにも本はおいてあるし、本の読める町になってきている。

私は本の在る処が好きで、図書室にもよくいくし、初めてのバイトは古書店で、学生の頃は図書館、働いてからもブックカフェに入り浸っていた。(背表紙を眺めたり、装丁を鑑賞したり、読まずに本を枕に寝ていることも多い。)

そんな本好き(?)な部分も高じて「わたしの本屋さん」の404号室に私は「虹色書店」を出店してる。

ここ「わたしの本屋さん」の本棚は個性豊かな選書の本屋さんが並んでいて面白い。

PORTOの本棚の責任者となるのがわたしの本屋さん305号室「本屋ぬくぬく」でも本屋をしている「はるな」さんだ。

「本屋ぬくぬく」305号室
ほっこりとした、女子の本棚って感じがする。

私は普通に本と出会いたいし、本を通じて交流したり、単純にその人の価値観に触れてみたいなどの目的でPORTOの本棚を眺めている。

大型書店にはない温もりや、自己主張、自己実現があるのが面白いと思う。

そして本屋さんなので、どの人の本も売れてほしい。「わたしの本屋さん」で本屋をしている目的を叶えてほしいし、このコンテンツが続いてほしいと思っているユーザーのひとりである。

とはいえ基本は無収入の引きこもり主婦のため、いつまで出店できるかは、謎だ。

本との出会いも、物語のようで何処で、いつ出会った本かなどをできるだけ記録したいと思っている。記憶は薄れて改竄も出来るが、記録はいつか忘れ去ってしまったことを思い出したり誰かが何かを遡るときのヒントとなる。

何かやりたい気持ちから、はるなさんに「本棚の本のレビューをしてみたい」と申し出て、手始めにはるなさんの本棚で推している本を尋ねた。

前置きが長くなったが、それが「常野物語 光の帝国」である。

読了後の感想は「もう、今すぐにでも続きが読みたい」という感じ。とても面白かった!

常野物語は、民俗学者柳田国男の「遠野物語」のように、東北を主な舞台とした神隠しや怪異、異能を題材としており、「常野」の一族という特別な能力を宿した一族を主人公とした独立した短編でもあり、それぞれのストーリーがクロスし始めて長編の壮大なストーリーともなっている物語だ。

恩田陸も青森出身である。
(女性だということはさっき知った)

あとがきを執筆した方が「光の帝国」から壮大なSFのようなものを想像して読む気になれなかったと書いているが、確かに言われてみればスター・ウォーズ感があるタイトルだ。そんなようなものではなく、一つ一つ、不思議で優しく、時に酷く残酷な、味わいがありそれでいて読みやすい日本の小説らしい物語となっている。

はるなさんのこの本が好きなところを訊いてみると「言葉の使い方、組み合わせかた」と「それぞれの物語の登場人物が別の物語に少しずつでてくる展開」だと言っていたが、本当にそこが面白かった。

言葉自体は難しい言葉を用いてないのに独特な言い回しや、情景や心情を表す言葉が美しく、そのストーリーにぐいぐいと引き込まれていく。

常野の能力に関しての表現もミステリアスで、それはどういうことだろう?というのをとても考えさせられる。一人一人発現する能力は違うようだ。生まれながらにして能力について知らされる人、知らされずに育ち困惑する人などその人それぞれの特徴や背景がある。

心情表現も巧みで、とても共感し、喜んだり一緒に苦しんでみたり、
情景描写も美しいので、まるでその風景をみているかのように鮮やかに絵が浮かぶ。

引き込まれているうちに起きる事件や事故に、心揺さぶられる。なかにはかなり辛辣なものもある。

この読書感、後味みたいなものはもしかしたら、恩田陸の本全体に流れているものなのかもしれない。
恩田陸を沢山読んだわけではないが大学生の時友達から借りて読んだと思う「ユージニア」(もう18年経つので残念ながら記憶にはない)の読み終えた時に味わった重たさと優しさの感覚ににている気がする。

私に刺さったのは、父を亡くして丁度半年の月命日に読んでいたこともあり、この本に2話出てくる父親を看とる(葬式にも出られないのもある)話だ。この親子のすれ違いや、それでも確かにあった愛情の描写がどちらも優しく切なくて、泣いてしまった。

タイトルにある「光の帝国」もまた、かなりミステリアスで、辛辣で、このクロスするストーリーの伏線をちりばめたような話だった。

出てくる時代も前後していて、親子にわたるストーリーもある。

一話ずつ少しずつ読めるが、先が気になるので一気によんでしまいたいし、なんなら遠野物語も読みたくなってきた。  

奇しくも父も遠野がある岩手県の人間なので、東北が舞台のこの本をこの日に読むことは少しだけ不思議な感じがした。

ところで、読み終えて出版年をみて驚いた。

2000年。23年も前の話である。今年の新刊だといわれても疑わない程度には、話が新しい。

NHKでドラマにもなっていたとのこと。

因みに続編である「蒲公英草子」「エンドゲーム」が気になってしまったら、「光の帝国」だけおいてない公民館の図書室で読める。柳田國男の「遠野物語」も図書室で。



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