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2023上半期に読んだ本

今年は半期ごとに読んだ本についてまとめることにしました。読んだ本の中で心に残った10冊を選んでご紹介します。

香君

上橋菜穂子・作 2022 文藝春秋
今期、読んだ本のNo.1は、大好きな上橋菜穂子さんの「香君」です。
「神郷からもたらされた「オアレ稲」によって発展した帝都だったが、その稲に害虫が発生し、国は困難な状況に陥ろうとしていた。優れた嗅覚をもつ少女アイシャは、運命に導かれてこのオアレ稲の謎に迫る…。」
壮大なファンタジーなのですが、私たちが生きる世界のできごとを思わず想起してしまうエピソードがたくさん出てきて、考えさせられ、勇気をもらえます。

13歳からの地政学

田中孝幸・著 2022 東洋経済新報社
しばらく前に話題になった本。私は、ほぼ日のサイトで糸井重里と著者との対談を読んだことがきっかけで手に取りました。
この本のおもしろいところは、物語仕立てになっているところです。高校生・中学生の兄妹がなぞの男「カイゾク」のところに通い、世界で起きていることについて学んでいきます。お話のラストもいいなあと思いました。(小6の娘に貸したら、すぐに読み終え、その後友達に貸したまま返ってきません(笑) 子どもが読むにも分かりやすくおもしろい1冊です!)

冒険の書 AI時代のアンラーニング

孫泰蔵・著 あけたらしろめ・絵 2023 日経BP
同じく、ほぼ日のサイトでの対談を読んだことがきっかけで手に取ったこちらの本。私としては非常にモヤモヤする内容でした。この本の著者は「なぜ学校の勉強はつまらないのだろう。」という問いから探究をスタートさせています。そして、好きなこと・楽しいことだけでしていればいいじゃないという気持ちをもっています。
学校の教員をしている私としては、心がざわつくのも無理はないですよね。読んでみていろいろ思うところがありました。アンラーニングの価値を感じるのは、しっかりと学んで仕事をしてきた人がたどる一般的な道筋だと思いました。この本は、この著者独自の「冒険の書」であり、ここに正解が書かれているわけではない。そのことを頭に入れて読むと、大人の探究、学び続けることの尊さが見えてくるのではないでしょうか。

殿様の通信簿

磯田道史・著 2008 新潮文庫
高校の社会の先生が、読書会の課題図書として選んでくれた本。本自体もおもしろかったのですが、読書会で読み深めたことでおもしろさが倍増しました。その高校の先生が「Historyとはstoryである」と言う言葉を教えてくれました。昔のことを見た人は今誰も生きていないわけで、資料を基にそこで起きたことを物語り、解釈していくわけです。
私たちが直面したコロナウイルスの流行という出来事であっても、どういった語り方をするかで全く異なる印象を受けることでしょう。この本に描かれる人物たちは、今まで歴史の授業で学んできたイメージとは違う描かれ方をしています。ぜひ、読んでいただき学校の授業で味わったことの無い歴史を楽しんでいただければと思います。

公務員という仕事

村木厚子・著 2020 ちくまプリマ―新書
毎日小学生新聞で連載をもっていた村木厚子さんの本。偶然、書店で見つけて読みました。私は、子どもの頃から「将来は学校の先生になる」と決めていましたが、その仕事を「公務員」という枠組みでは捉えていなかったなあと思います。「教育」に関する仕事はたくさんありますが、私がやっているのは公立小学校の教員という仕事。そこを、改めて考える良いきっかけになりました。
この本を読むと、公務員は地道な仕事だなあと思います。名を上げたいという人には不向きで、自分のやってきたことが何年後かに実を結ぶかもしれないしそうならないかもしれないという仕事。税金を使って行っていることの責任…。この本を読んで、教育公務員と言う仕事を見つめ直しました。将来、どんな仕事に就こうか考えている中高生にもおすすめです。

先生はえらい

内田樹・著 2005 ちくまプリマ―新書
こちらも、ちくまプリマ―シリーズ。いろいろなところで、この本のことを見聞きしていたのですが、タイトルに抵抗を感じていたため、読むのが遅れました。でも、読んでみたら本当におもしろかった。忘れられない1冊となりました。
この本で主張されている内容は、「この人を先生だと思い込み、その分からなさを追い求めることが学びの主体性である。『ここに学びがあるはずだ』と信じ込んで学ぼうとする行為によって学びがもたらされる」ということです。この理屈を自分の学びに落とし込んで考えてみると、確かにそうだなと思うことがたくさんあります。書物と向き合うこともそうです。
この理屈で行くと、「子ども」という存在も私にとっては「先生」です。授業を計画して臨んでも、こちらの予想通りになることはありません。世の中には、先生がたくさんいる。子どもたちにも、仰ぎたいと思う師を見付けてほしいなと思いました。

子どもは判ってくれない

内田樹・著 2006 文春文庫
同じく、内田樹さんの著書。「先生はえらい」を読み、もう1冊内田樹の本を何か読みたくなって、本屋さんで選んだのがこれでした。2006年に書かれたものなのに、古くない感じがするのがすごいなあと思って読んでいると、「文庫版のためのあとがき」にちゃんとそのことについて言及してありました。前に読んだ「街場の文体論」でも感じたけれど、物を書くということについて、熟考する姿勢は本当に大事だと思います。
この本の中で、印象に残った章がいくつかありました。その1つが「正論を信じない理由」の章で言われていた次の部分です。
「正論家の正しさは、「世の中がより悪くなる」ことによってしか証明できない。したがって、正論家は必ずや「世の中がより悪くなること」を無意識に望むようになる。」(p.81)
何だか、教育を巡る様々な問題もこうなっているのでは?と考えてしまいました。どうしたらよいのかと頭を抱えるばかりです。

約束された場所で(underground2)

村上春樹・著 2001 文春文庫
地下鉄サリン事件の被害者を取材したノンフィクション「アンダーグラウンド」を出版した村上春樹。その後、加害者側であるオウム真理教の信者・元信者を対象にインタビュー取材を行い、本にしたのがこの「約束された場所で(underground2)」です。
現世に生きづらさを感じていた若者たちが、オウム真理教と言う理想の世界に出会い、救われます。その出会い方は様々ですが「物事を考える」ということから解放され、修行とワークというシンプルな世界で生きることを求める姿には潔さがありました。
オウム真理教が巧みに利用した物語。そこにぴったりとマッチした若者たちが次々に入信していったのだなあと感じました。今の世の中も、生きづらさを感じている人がたくさんいます。その生きづらさを引き受ける受け皿はあるのでしょうか。巻末に収録されている村上春樹と河合隼雄との対談も必読です。

かさねちゃんにきいてみな

有沢佳映・作 2013 講談社
児童書。上半期に読んだ児童書の中でNo.1でした。ただ、子どもに読ませる本としてではなく、教員をしている自分にとってNo.1だったということです。子どもの世界を見事に表していると感じました。
この作品では、小学生8人が登校班で毎日学校に行く様子をひたすら描いています。言ってみれば、定点観測みたいなものです。ちょっと単調にも思えてしまうかもしれないけれど、日々の出来事が子どもたちの成長につながり、小さな絆になっていきます。特に、主人公ユッキーの心情の変化は見逃せない。思い出すだけで胸が震える素敵なお話でした。

月に3冊読んでみる?

酒井順子・著 2021 東京新聞
息抜きのために読んだ本。新聞の連載だったものが本になったようです。図書館で偶然手に取ったのですが、「3冊」という基準を昔から意識してきた身としてはこの本がすんなりと頭に入ってきて、楽しく読めました。
この本を読んでいると、様々な授業デザインが思い浮かびました。例えば、「3冊先生が絵本を選んで手渡し、そこに共通するテーマを子どもたちが考える」とか、逆に「テーマを決めて、子どもがそれに合う本を3冊学校図書館から探してくる」とか。2冊や4冊ではなくて、3冊っていうのがいいなと思いました。
授業作りでなくても、様々な発想が刺激される本だと思います。読書熱が高まります。また、読書には、好みや偏りが出るものだよなあということも感じました。

終わりに

2023年上半期の読書。仕事の忙しさもあり、易しい読み物が多かったなあという印象です。でも、無理はせずに、楽しみながら読書するのが大事かなと思います。
月1回行っている読書会のおかげで、本が読めたというのもありがたいこと。幅広く読書をしていきたいです。

来週から夏休みに入ります。教育関連の専門書も読みたいものがたくさんあるので、楽しみです。最近なかなかnoteを更新できませんでしたが、夏休みにはできるといいなと思います。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!