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アートディレクターの髙橋まりなさんに聞いてみました。

 ニジノ絵本屋の絵本作家であり、働く女性向けのコラムなどを書いているナカセコエミコさん。『ビーズのおともだち』作者であるおおにしわかと制作チームメンバーに、ナカセコさんが聞き手となってこれまでの道のりや絵本制作秘話を伺います。絵本づくりに携わったそれぞれのオンリーワン・ストーリーをご紹介します。

episode2_髙橋まりな

 わかちゃんが手作りで制作したオリジナル絵本『ビーズのおともだち』。商業出版をするにあたり、わかちゃんと一緒に文章や絵など全体の組み立てをして、絵本の装丁(表紙のデザイン)やタイトルロゴを作ったのがアートディレクターの髙橋まりなさんです。
 絵本『ビーズのおともだち』インタビューマガジン2回目は、髙橋さんのこれまでのヒストリーと『ビーズのおともだち』制作秘話をお聞きします。

髙橋さんの現在のお仕事について教えていただけますか?

 映像とデザインの会社で、映像ディレクターとしてMVや子ども番組のアニメーションを、アートディレクターとしてドラマやTV番組のメインビジュアルを作っています。
 イラストと実写を掛け合わせたビジュアルを考えることが多いです。

小さいときから絵を描くことが好きだったのでしょうか?

 好きでしたし、身近なことでした。親が褒めてくれたので、調子に乗って絵を描いていましたね。
 親の仕事の都合で、1歳から小学校3年生ぐらいまでをドイツで暮らしていたんです。最初は、現地の幼稚園に通っていました。でも、ドイツ人ばかりの中で異物というか、「日本人の子が1人いるぞ」みたいな感じがあって。私の記憶には楽しかった思い出があるんですが、母から「最初、いじめられていたよ」って後で聞いて、ちょっと落ち込みましたね。​​ドイツの子どもたちの中に日本人の子が1人だったから、その子たちは違和感を感じたんだろうと今は理解できます。
 そのころ、セーラームーンのアニメが流行っていて、ドイツでも放送していたのですが、遅れていたんです。それで、おじいちゃんが日本からテープに録画して送ってくれました。ストーリーが進んでいる日本のものを見ながらセーラームーンを描いていたら、幼稚園の子たちが見てくれるようになりました。
 話せなかった言葉(ドイツ語)の代わりに、絵を描くことで少し距離を縮めることができたのかもしれません。
 「絵を描く」ということが、自分の中で大事になったはじまりだったといえそうです。

その後、中高生になっても絵が好きだったのでしょうか?

 小学校高学年からテニススクールに通っていたこともあり、中高時代はずっとテニスをしていました。
 美大の受験って、早ければ高1ぐらいから予備校へ行くのですが、私は高校3年生の夏、テニス部の最後の大会が終わってから入ったのですごくギリギリでした。でも、美大は入試に傾向があり、予備校で対策を教えてくれるので運が良かったのだと思います。自分に向いていることと向いていないことを見定められるのがちょっと遅い方なのかもしれません。
 小学生から高3まで、長い間楽しく一生懸命やっていたつもりでしたが、今、思えば上達している感覚は薄かったように思います。やっていくコツが全然わからなかったんですよね。
 逆に、イラストやデザインの方が努力した分だけ到達できそう、やり方はシンプルだなと感じました。

大学時代に美術分野の中でも特に映像でいこうと決めたのでしょうか?

 「美大」というものの存在を友達から知りました。
 
友達が『NANA』という漫画の登場人物が美大生で、あのお話の中に出てくる大学に行きたいと言いだしたんです。それがきっかけで​​、美術やデザインの学校があることを知りました。
 大学では「情報デザイン」という分野を学びました。たとえば油絵や日本画、彫刻、プロダクトなど、他の学科は作る大まかな作品の形式がある程度決まっていたのですが、私がいた学科では、「お父さんと子どものコミュニケーションをさらに深めるためのおもちゃ」、「センサーを使い、鑑賞者に反応するインタラクション作品」など、作品の制作手法を自由に選ぶことができる新しい学科でした。
 卒業制作のときに初めて映像を作ったのですが、映像作品は自分が見えている視点を、誰かに見てもらえるところがおもしろいなと感じ、「映像を作りたい、映像に携わりたい」と思うようになりました。

学生時代の作品

ディレクションのお仕事は就職したときからずっとされているのでしょうか?

 新卒時は、現在とは別の映像制作会社に入りましたが、ディレクションではなく映像を放送するために仕上げる仕事をしていました。編集したり、ロゴを作ったり。テロップを作ったり、グリーンバックの映像を合成したり。今とは全然違うことをしていましたね。
 そのあと、大学時代の同級生が所属する今の会社に、縁あって呼んでもらいました。
 今は、一つだけに絞って技を究めるよりも、興味のある領域はなんでもやってみるのが楽しいです。
 現在は、ポスターのビジュアルデザインをしながら番組衣装を考えたり、ロゴを動かしたりしています。脳が忙しいけれど、全部新鮮な気持ちで取り組めるところが好きです。

一人で作業をしたいタイプ、みんなで作り上げるタイプ、髙橋さんはどちらでしょうか?

 私はもともと自分から積極的に人と関わっていくことが苦手な面があります。「一人でやったほうが楽」、と思っていた時期もありました。
 でも、今の仕事は人と関わらないことにはうまく進んでいきません。仕事をしていくうちに、少しずつ「みんなで作り上げる」ことの化学反応のおもしろさを実感しています。
 今回の絵本制作では、同じ目標に向かって皆が一緒に進むということが最初の時点でわかっていたので、すごく安心して進めることができました。

髙橋さんとわかちゃんとの出会いのきっかけを教えてもらえますか?

 NHKのパプリカFoorin楽団 のドキュメントミニ番組に、ディレクターとして参加したのですが、私が担当したダンスチームにいたのがわかちゃんでした。 
 撮影を通じてわかちゃんの病気のことを知り、絵や作品をたくさん見せてもらい、一人の「作る人」として尊敬していました。
 その後も交流があり、今回の絵本制作に声をかけてもらいました。

髙橋さんが監督をしていた、Foorinの5人メンバーとダンス・バンドの特別メンバーとの交流を描くドキュメンタリー

髙橋さんから見てわかちゃんはどんな人だと思いますか?

 自分がやりたいことに対して真っ直ぐな人だと思います。だから、今回の絵本制作でも、私が必要以上にアドバイスを出さず、大人と仕事をするようにしていけばいいのだと。そのように接していくと、わかちゃんも思ったことを返してくれました。
 絵本の中にたびたび出てくる「がんばりパワー!」という言葉を、見開きの絵の中に印象的に入れる方法を考えるシチュエーションがあったのですが、アイデアをどんどん出してくれるんです。ちゃんと理由を持って返してくれる。
 たとえば、文字の位置をどこにしようかという話をしたときには、「高い位置に置くと達成感が出るから上の方がいい」とか、ちゃんとわかちゃんなりのロジックがあるんですよね。病院でお医者さんやスタッフの方と話すことが多かったからかもしれませんが、遠慮せずに何でも喋ってくれました。だから、スムーズにやりとりができるのだと思いましたね。

絵本制作以前にわかちゃんと一緒に粘土遊びをした時

髙橋さんとわかちゃんと二人で長い時間ワークをされたそうですね。

 わかちゃんが作った原作をベースに大川さんが整えてくれたお話の元になるものがあったので、32ページの絵本を作るうえで、どんなふうに各シーンを見せていこうか話し合いました。
 わかちゃんが描いたアニメーションに、大川さんの文字を入れた大ラフがあったので、私の段階では改めてページごとの演出について考えることができました。

わかちゃんとの制作過程のラフ

 お話を考える人、ページを演出する人、絵を描く人。いろいろな人がいたからこそできた、贅沢な作り方かもしれません。
 これまで、紙媒体よりも映像媒体を多く扱ってきましたが、絵本は読む人によってページをめくるスピードも読むときの環境も違います。そこが奥が深いなあと感じました。

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わかちゃんと絵本づくりをするうえで、髙橋さんが心に留めていたことはありますか?

 「一生懸命頑張っていてすごいね」ということではなく、作品として純粋にしっかりいいものを作っていこうということでしょうか。
 わかちゃんの魅力や引力で集まったメンバーですが、完成度が高いものをしっかり作っていくということがチームの目指しているところだったと思います。わかちゃんは、私たちが世話する対象でもお客さんでもなく、「一緒に作る相手」としてのリスペクトを私は持っています。他の皆さんも似たように感じたところがあったから、順調に進んだのではないでしょうか。

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絵本づくりワークの前に、 手書きで文字を描くためのウォーミングアップとして、好きなデザインを盛り込んだ「自分の名刺を手書きで作ってみる」というワークをしたそうです。
最後はできあがった名刺で「名刺交換」。

『ビーズのおともだち』を通じて、髙橋さんが伝えたい人・ことはありますか?

 子どもたちが読んでこの成り立ちを知って、びっくりしてもらいたいです。
 今回の絵本は、わかちゃん作ったものが起点になって大人たちが集合して作る。これは子どもからしたら、ちょっと特殊な状況ではないかと思うんです。だから、「そういう可能性もあるんだよ」ということを伝えたいし、当たり前にできる例になったらいいんだろうなと。
 通常、大人たちだけで集まって、当たり前のように仕事をしていますが、どこかに子どもが急に入ってもいいのかもしれません。インタビュアーやカメラマンが子どもだったり。
 「若いのにすごい!」ということを価値にするのではなく、その年齢にしか見えないものを生かした作品を、もっと見てみたいと思いました。美術の授業や絵画教室以外のどこかでも目にしてみたいです。
 そういうことをやりたいと思っている子が、本当にできるようになったらおもしろいですね。

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最後に一言!

 「完成したら終わり」ではなく、どういう形でも続いていくのがいいように感じます。その後、新しく別のことにつながっていくのもいいですね。
 Foorin楽団が解散すると決まったとき、わかちゃんは少し寂しくなってしまったようなんです。
 私もふだんよく思うのですが、雑談の終わりってすごく寂しい。「もう、そろそろ終わらないとね」っていう感じは寂しいですよね。「終わりではなく、何かの始まり」っていう風になったらいいのではないでしょうか。
 この絵本を見て、誰かの心に火がついて、新しく何かが作り出されるのもいいでしょう。始まったという雰囲気で絵本がリリースされたらいいですね。
 日頃作っている映像作品は、よほど好きになってくれたファンの人でないと何度も繰り返し見ないでしょうし、時が過ぎると少しずつ過去のものになってしまうような感覚があります。
 作り手として「それは寂しいな」といつも感じますので、新しい何かにつなげていくことができればうれしいです。

髙橋まりな アートディレクター・映像作家 / 『ビーズのおともだち』アートディレクション/装丁担当
多摩美術大学 情報デザイン学科卒、DRAWING AND MANUAL所属
主な仕事に、NHK おかあさんといっしょ「1歩2歩 さんぽ」アニメーション、テレビ東京 シナぷしゅ「んぱぱぱ ぴぴぴん」アニメーション、NHK パプリカ Foorin楽団 ドキュメントシリーズ『りりこ×わか』編など。
イラストと実写を混ぜ合わせた表現を得意とし、TV番組のメインビジュアルやロゴデザイン、MVなどを手がける。
近頃は石や植物を観察することが好き。
https://mawarusushiland.com/
https://www.instagram.com/marina___takahashi/

▲絵本『ビーズのおともだち』試し読みのできる公式サイトはこちらから

インタビュアー/ナカセコエミコ
(株)FILAGE (フィラージュ)代表。書評家/絵本作家/ブックコーディネーター。
(図書館司書・キャリアカウンセラー・認定コーチ)
女性のキャリア・ライフスタイルを中心とした書評と絵本の執筆、選書を行っています。
「働く女性のための選書サービス」“季節の本屋さん”を運営中です。


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