お勉強101:喉頭がんレビュー②

<進行期一般論>
通常集学的治療が必要。
治療の選択は患者の嗜好、腫瘍学的予後が大事。
治療選択に及ぼす問題としては、N StageよりもT Stageがむしろ重要
臨床的エビデンスは極めてヘテロな集団を扱ったものが多く
一般論は語りにくい。

ただ、手術できないT4bに関してはCRTもしくは緩和治療である。

ケモラジを使った喉頭温存療法は
Veterans Affairs Laryngeal Cancer Study
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa031317
の報告後、広く広まってきた。

しかし、適応の拡大解釈で生存アウトカムの悪化が報告されたり
「喉頭の形態温存」は「機能温存」という事ではないという事が
(誤嚥などでの長期的なQOL低下など)
徐々にわかるようになり、
「機能温存した喉頭温存」という概念が10年前に提唱された。
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1002/hed.21294

※個人的には頭頚部に限らず、
この「形態温存」≠「機能温存」ということに
気づいていない放射線腫瘍医は少なからずいると自戒すべきと思っている

Veterans Affairs Laryngeal Cancer Study では56%の T4患者が最終的に
サルベージの喉頭全摘を受けていた。
2年のOSは手術±アジュバントRTや
導入化学療法→RTと変わらず。
局所再発は放射線治療が、遠隔再発や異時癌は手術群が多かった.

※単純に局所再発が少ない分、多くなっただけと私は解釈する。

長期的な調査では精神的な問題や痛みは非手術群で良好であった。

RTOG91-11ではこの結果を受けて進行期のT4は除外し
(軟骨を浸潤、舌根部に1cm以上伸びている場合は除外)
CRT/インダクションケモ⇒RT(反応悪いなら手術)/RT単独の
3arm試験として行われた

この試験の結果、(手術しない)喉頭の温存率は
2年時でCRTが優位に一番良かった。局所領域のコントロールも
化学放射線療法の併用で有意に優れている。RT単独では、
遠隔転移と無病生存率は他の2つの群に比べて悪かった。

しかし、全生存期間は3群すべてで同程度であった。
また、CRTを受けた患者の毒性はRT単独の場合よりも約20%高かった。

その後、追跡期間中央値10.8年の長期解析が報告された。
わかったこととしては

(1)CRTおよびインダクションケモ→RTでは
    喉頭切除術なしの生存率では同程度の結果
(2)CRTは局所領域の制御と喉頭の最終的な保存性に優れていること
(3)全体的な生存率と晩期毒性は3群すべてで同程度

興味深いことに、CRT群は他の群に比べ喉頭がん以外の死亡が多かった

最近のRTOG99-11のLicitraらの分析では「喉頭温存」
については、同じデータを色々と解釈することができると述べている。

本来の解析では喉頭全摘出術後の死亡はは無視され、
CRT群において「喉頭温存した」群でより高い死亡率がでてしまった。
それにもかかわらず、信頼区間などの統計学的因子は明らかではないため、
CRTは確実にインダクションケモ→RTより悪いとは言えず、
かならずしも優れていない、ということにとどまるという解釈を彼らはしている。

この解釈に対する反論は
RTOG91-11試験はドセタキセルを追加すると生存率が劣ることが示された
シスプラチンと5-フルラシルの併用がインダクションケモのアームで
現代からすると古いものであるというものである。

Tステージにかかわらず、治療前の臓器機能は、
治療前の臓器機能を予測するための重要な指標である。

喉頭軟骨構造が破壊されていない患者の場合
有意な誤嚥、または音声機能の問題を考えて
インダクションケモの腫瘍反応を使用して患者を選択するのは
非外科的な臓器保存のアプローチから 有望であると思われる

臓器や機能の温存に理想的な患者さんを
選択するためにはきめ細やかなフォローアップを確立し
サルベージ手術のの対象となる可能性のある再発を
即時に診断することが最も重要である。

時間の経過とともに、サルベージ手術は
創部離開、瘻孔形成など合併症の頻度が増加し、
生活の質を低下させ、死亡率が増加する。

これまでのところ、
手術を先行し、アジュバント治療を行った場合と比較して
優れた生存率を示す喉頭温存法はないことはとても重要である

※喉頭温存のニーズは高いが、医学的なリスクについ
    ちゃんと語るのが、医師の仕事である。

しかし、同等の腫瘍学転帰とより優れた機能的転帰を有する
喉頭温存の恩恵を受ける患者を
正確に予測するためのマーカーの探索は続いている。

上述の治療前の解剖学的基準および導入化学療法後の腫瘍縮小
(通常30~50%の範囲の任意のカットオフ)に加えて、
喉頭温存の転帰を予測するスコアリングシステムを開発する取り組みがある。

Shermanらが開発したTALKモデルは、

T期(T4)
アルブミン(4g/dL未満)、
最大アルコール摂取量
(1日6缶以上のビールまたはそれに相当するアルコール、
 または大規模なアルコール使用)、
およびKarnofsky Performance Status(80%未満)

をパラメータとして使用して
それぞれに1点を割り当て、合計スコアを算出した。
モデルの構築にはMemorial Sloan-Kettering Cancer Centerから
前向きにに収集されたデータを使用し、
他の群を使ってバリデーションを行っている。

スコアを良好(0)、中間(1-2)、不良リスク(3-4)に分類し、
スコアの増加による3年間の喉頭温存率
(原発部位への手術を行わず、
 恒久的な気管切開や胃瘻を行わずにコントロールした率)は、
65%(TALKスコア=0)
41%(TALKスコア=1-2)
6%(TALKスコア=3-4)であった。
その差は有意であった(p<0.0001)。

※想像以上に機能・形態温存が難しいことがわかる。

平易なスコアだが、様々な限界がある。
トレーニングコホートの患者の56%のみが喉頭癌であり、
残りの患者は下咽頭がんや中咽頭がんの患者であった。

※ある意味、そちらの方が個人的には有用と思うのだが…

バリデーションデータは喉頭がんのみのデータであったが
このモデルは改善の余地があるかもしれない。

すべての患者はインダクションケモを行われている。
このため、初期からCRTではモデルの使用が制限される。

化学療法レジメンも放射線療法技術も古いものなので
モデルのを現在に適応するのは限界があるかもしれない
Wichmannらによるより最近の喉頭切除不能スコア(LFS)は
喉頭原発または下咽頭原発の癌に対する
ドセタキセル、シスプラチン±5-フルラシル±セツキシマブの
1サイクルの3週間後の状態でリスク分類するものである。

化学療法導入前および導入後の内視鏡検査とFDG-PET/CT
から算出する。ハザード比から
LFSスコアは、

N3(UICC第7版)で12点
残留CTベースの腫瘍体積比(化学療法後/ベースライン)が0.2以上で6点、
絶対残留CTベースの腫瘍体積が5.6mL以上で5点、
FDG-PET/CT検査でresSUVmax/resSUVmeanが1.51以上で4点、

と点数をつけ
LFS > 16は、
喉頭切除不能(p = 0.0014)
全生存(p = 0.0146)
腫瘍特異的生存(p = 0.0006)を有意に悪化させる
予測因子であることがわかった。

このモデルは少数のデータであり、
またバリデーションが行われておらず
低コストの医療環境やCRT先行治療では使いづらい

CRT先行の場合、
初診時に患者を鑑別できる予測モデルはまだ存在しない。
しかし、ハイテク画像がない場合でも、
内視鏡的再評価を用いた1サイクルのインダクションケモを
行うことで、喉頭温存アプローチに適さない患者を
選択できるかもしれない。(複数コースは必要ない)

しかし、この予測モデルを使用し、反応不良と
判断された患者でも57.4%しか喉頭全摘術を受けることに同意しなかった。

このことは、たとえ予測モデルが存在していたとしても、
患者がアルゴリズムや反応性腫瘍と非反応性腫瘍の結果について
事前に適切に情報を得ていなければ、
導入化学療法に基づく意思決定プロセスはあまり
意味がないことを示唆している。

したがって、インダクションケモを先行する施設でも
導入化学療法に反応しない場合に喉頭切除術を受けることに
明確に同意しない患者に対しては、CRT先行での治療をするべきである。

NがどうであれT2/T3の場合や、「早期の」T4喉頭がんでは
臓器温存治療として喉頭全摘以外の手術(経口、openともに)
が開発されてきている。

レビューによるとopenの喉頭温存手術で治療された
T2-3期の初期および中間期の患者では、
5年の局所コントロール率が90%以上、
5年の無病生存率が70%~90%、
5年の全生存率が79.9%であったことが示されている。

ほかのレトロの研究ではT3-T4喉頭がんで
openの喉頭温存術では
5年間の局所-領域コントロール率、無病生存率、全生存率は
T3では82.9-96.2%、78.2-87.9%、82.2-87.8%、
T4では51.4-71.7%、49.0-68.1%、71.2-73.7% であった
5年喉頭機能温存および喉頭切除術なしの生存率は、
pT3で83.9-94.2%および93.1%、
pT4で59.3-78.0%および75.5%
であった。

過去のデータと比べ同等~優れているが、
これは選択バイアスによるものである可能性もある。
現在の文献には比較研究は見当たらず、
T3とT4の喉頭癌の両方について結論を出すことは困難である。

喉頭癌に対する経口ロボット手術は、
T1~3の選択された患者において、
声門上癌または声門癌に対する低侵襲部分喉頭切除術および喉頭全摘術で
実行可能であることが示されている。

しかしながら、他の治療法(openの手術、RT)と比較した場合の
腫瘍学的転帰に関するエビデンスのレベルは、
依然として低いままである。

経口的ロボット手術が経口的レーザー手術やopenの臓器温存手術と同様の
腫瘍学的・機能的転帰をもたらす研究はない。

※JAMAoncologyに近年T1-T2の早期がんでは 
TORS>open という結果が出た。
https://jamanetwork.com/journals/jamaoncology/article-abstract/2769670

臓器温存戦略に適した患者をより正確に
鑑別するための予測マーカーを特定するためには、
さらなる研究が必要である。

導入化学療法を含むあらゆる治療を開始する前に、
喉頭温存の候補者を示すことができる
アルゴリズムがあることが望ましい。

形態学的、代謝学的およびAIを用いた画像解析
分子因子、これらの組み合わせが将来の方向性である。

ただこのような予測モデルの生成に関しては、
避けられない問題がある。
前向き試験に登録された患者のデータを使用する利点は、
既知および未知の交絡因子の影響を最小限に抑えられることである。
その一方で、前向き試験患者のデータは、
日常臨床にそぐわないという問題もある。

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