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-able City 人間の可能性をひらく都市

武蔵野美術大学造形構想研究科のプロジェクトで、RE:PUBLICの田村大さん、市川文子さん、白井瞭さんとお話する機会があった。RE:PUBLICの取り組みおよび、6月に刊行された雑誌「MOMENT」を通じて、「人間の可能性をひらく都市(-able City)」について考えたいと思う。

人類総ユーザー化社会で私たちはどう生きるのか?

テクノロジーの発展に従い、モノやサービスを生むコストがゼロになる。ジェレミー・リフキンが唱えた「限界費用ゼロ社会」の到来に、RE:PUBLIC代表の田村大さんは強烈な危機感を覚えている。

この世界の下で、人はどのように暮らしていくのだろうか。今のインターネットの姿を見ていれば、ある程度は想像がつく。GAFAがない日常生活は考えにくいように、生活必需品から都市インフラまでを担う特定の企業が、生活を営む上で欠かせない存在になっていく。代替の効かない企業が増えていくにつれ人は企業のシステムの一部になり、最適化の対象となる。自身の嗜好や行動、状況にチューンナップされた財やサービスが極めて低廉な価格で提供されることを想像してみて欲しい。この魅力(魔力?)に抗うのは誰にとっても困難ではないか。しかし、この取り引きの成立によってユーザーは選択の機会を失い、暮らしの多様性は失われていく。人間の美意識は、企業が定める基準に収められていく。この状況を一言で表せば、「人間の総ユーザー化」だ。都市という文脈で言い換えれば、あらゆる市民は「都市ユーザー」ということになる。住民が都市ユーザーとして当初から位置付けられるまちに、どんな文化が育まれるのだろうか。子どもたちはどう成長し、どんな大人になるのだろうか。(『MOMENT』より)

モノやサービスを産む費用がゼロになり、人々はすべてユーザーとなる。そんな時、都市と人の関係はどのように変化するだろうか。市民が主体的に暮らしを作り出す、そんな都市のあり方をRE:PUBLICは追求している。

SUPERBLOCKS/BARCELONA

スペイン、バルセロナで行われているSUPERBLOCKSという取り組み。バルセロナ都市生態学庁のディレクターであり、生物学者・心理学者であるサルバトール・ルエダが推進するこの取り組みでは、バルセロナの都市を車中心から歩行者中心へと変える取り組みだ。縦 3 列×横 3列、全体の大きさは 400メートル四方ほどの区域を「ゼルダブロック」とする。ブロッ ク内への自家用車の乗り入れはスピードや車線の数が制限され、車道として使われていたスペースを、 近隣住民が主体となって用途を検討する。ブロックは公園やイベントスペース、スポーツ場や野外シネマ、市場などの空間へと変えられていく。バルセロナ都市生態学庁では現在、バルセロナ市内における歩道と車道の 割合を45:55 から、69:31へと改善することを目指している。

この計画の背景には、バルセロナ市内の大気汚染数値の高さがある。バルセロナ都市生態学庁やバルセロナ市はスーパーブロック を導入することで、空気汚染物質の排出量抑制を目指している。すでにスペイン北部バスク地方では、スーパーブロックの導入により42%の削減に成功している。

ルエダが取り組むSUPERBLOCKSで、大きなキーワードとなるのは「リーガル・エンティティ」という存在だ。企業や個人事業主、公的機関や施設、非営利組織、市民の任意団体に至るまで、地域で活動しているあらゆる組織体を包含した概念法的規制によって、SUPERBLOCKSを実施している。環境汚染という都市空間の課題において、単純な法規制を行うのではなく、都市空間を構成する複合的なステークホルダを巻き込みながら「空間(ブロック)」をデザインしている点が興味深い。

コレクティブとアムステルダム

雑誌『MOMENT』ではバルセロナの他にも、世界の多様な都市の営みを紹介している。特に興味深かったのは、アムステルダム応用科学大学の研究者マータイン・デ・ヴァールのインタビュー。アムステルダム北部の都市空間の再興と「Hackable City(ハックできる都市)」について。

元々、造船業の街であったアムステルダム。南部が市の中心として栄えた一方で北部は産業の衰退とともに非常に荒廃した地域だった。2000年当初より都市再開発計画によってこの地域の再興が企図されていたものの、それは行政やディベロッパーによるトップダウン型の再開発モデルであり、特にリーマンショックの影響を受けこの計画は停滞していた。アムステルダム市当局は「サー キュラー・バイクスローテルハム」プロジェクトを新たに立ち上げる。該当エリアをサステイナブルな複合利用先端区とし、個人や小さな組織が土地を購入し開発に携われる小規模区画へと変更。この試みにより多くの建築家やアーティストが都市開発へと参画。アムステルダム北部は持続可能な都市の世界的なショウケースへと変貌する。写真はその代表的な取り組みであるDe Ceuvel。循環型社会を志す起業家たちが集まるビジネスパーク。

マータイン・デ・ヴァールは対談の中で「コレクティブ」という組織・コミュニティのあり方がアムステルダムの都市開発に大きく寄与したと主張する。従来の都市開発では、行政またはディベロッパーなどが都市開発を進めるトップダウン型、または市民団体が運動的に開発を始めるボトムダウン型、2つのタイプの都市開発があった。両者はそれぞれ欠点を持っていた。端的に言えばトップダウン型はHuman Centerdな都市開発が難しく、ボトムダウン型は市民だけで行政に働きかけるのにはあまりにもハードルが高いという矛盾した問題。アムステルダムでは、この2者の中間に「コレクティブ」という存在がある。行政・市民・そして建築家やアーティストといった多様なステークホルダが、自身の意思ベースに基づいて有機的に結びつく活動、団体。(義務感ではなく意思であることが大事。)例えば、ゲーミングによって多様なステークホルダが次の都市開発を考え、プロトタイピングを行う「Play The City」といった取り組みが象徴的だ。

ポップアップはいずれポップダウンしなければならない

非常に印象的だったのは、「ポップアップしたものはいずれポップダウンしなければならない。ポップアップは確かに街に刺激を与えてくれるが、本質的な変化をもたらすことは稀である」という言葉。コレクティブは、行政と市民が有機的に混じり合うことで、持続可能な都市開発に対する市民の無邪気なアイデアに、行政の視点からフィジビリティスタディをサポートする、連続した組織のあり方。新たな「都市のハック」の試みはとても印象深かった。

まとめ

・モノを生み出す費用がゼロになり、世界には一部の供給者しかいなくなる。だから人はどうやって「使うか」「幸せになるか」もっと考えるべき。
・とくに都市空間において一時的な賑やかしや法規制、開発(ポップアップ)はいつか萎んでしまう(ポップダウン)。
・市民、行政、多様な専門性を持った人々が意思ベースでつながることが大事。バルセロナの「リーガル・エンティティ」やアムステルダムの「コレクティブ」のように。

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