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12/2 『さらさら流る』読了

 『さらさら流る』すごく良くて。
 待ち時間に少しだけのつもりがやめられなくなりました……。
 毎度のごとく自分が本によって思い巡らせたことの記録となります。
 本の感想や紹介とは呼べないなっていつも思っている。
 っていうのを定期で書いている気がするw


『さらさら流る』

 プライベートで彼に撮られたヌードが流出した。
 という話なんだけど。

 彼と出会って別れるまでの彼女と、その六年後ヌードを発見した彼女。同様に、彼女と出会って別れるまでの彼と、六年後流失していることが発覚し驚く彼。
 この四つの視点が交代しながら話が進む。

 人物の描き方、そして心の揺れ動き方、成長、物凄く良くて。
 私は脱稿した後いつも落ち込むのだけれど、それはこういうバランスをもって描けなかったなと思ってしまうからだと思う。
 足りてない、届かなかったという気持ちでいっぱいになってしまうんだよね。こんなふうに書けたらと憧れてしまう。
 語り手=作者なんでしょう?と感じられるような書き方をしないというか。人物の感覚、感情をつぶさに入り込むように描きながらも、イコールと感じさせない。完全な人が出てこない。

 単純に読みやすいというのとは違うけれど、文章の感触がすごく好きだった。

 一箇所だけ泣いてしまったところがある。それは写真の流出を家族に打ち明けるシーンだ。
 決して救われるシーンではないんだけど、ただ娘の損なわれてしまったという気持ちを、汚れたような感覚を拭い取ってあげたいという思いだけが押し寄せて泣けた。
 あなたはなにもわるくない。あなたは素晴らしい。私たちなどあなたよりももっともっと酷かった。と必死で同じ場所に降りて、抱きしめようとする気持ちが見て取れて、本当に大切にされていると感じて泣けた。
 娘は自分が家族を傷つけたような思いになって、自分を大切にできなかった、自分を守れなかった自分が許せないと感じるのだけれど。

 このシーンで家族からの愛情を受け取ることができずに育った彼が、彼女に憧れ、羨む理由がよくわかった。憧れにふさわしくなろう、この家族の一員でありたいと願う気持ちと、自分にはふさわしくないという思いと。それを感じまいとして自分の黒い気持ちから目を逸らしてきたことも。
 加害側は自分がしていることを知らない。むしろ被害感を抱えている。そのことがとてもよくわかる話だった。

 *


 よく、いじめにしろ、性被害にしろ、差別にしろ、被害者側が問題に取り組む(問題だと感じているのは被害者側だけだからね)ことで終わってしまうこの響かなさはなんだろうかと思う。
 ケアは必要だけど、それが全てで終わってしまう。つまり被害者側の気持ちを整えることだけで収めようとしてしまう。

 加害者側には罰が与えられるべきだ。というので終わるのはあまりにも雑な話だと私は思う。
 加害者心理の理解、加害者の抱える問題、厄介な被害感。これに取り組んで変化を促さない限り、被害者側ばかりが変化を求められるのではどうにもならない。

 たとえば「いじめられる側がケアされ、安心して学校に行く権利を行使できる」は必須ではあるがこれだけでゴールには絶対になり得ない。
 なのにここで終わってしまっている。

 いじめる側の心理にこそ寄り添って、(寄り添ってって書くと庇うみたいに捉えられるのかな。むしろ真逆なんだけど)認め難い自分を見つめる勇気を持てるよう支えていく必要があるのではないかと思う。
 だって問題意識を持っているのは被害者側。つまり本当に問題を所有しているのは加害者側なんだから、加害者側の問題に取り組まないと解決にはなり得ない。何もやってないに等しい。
 いくら被害者側が心を整えようと環境自体が安心して通えるものになってないんじゃ意味ない。

 罰することで自分のしたことを見つめることができるレベルのこともあるかもしれないが、ほとんどはむしろ加害者こそ被害感を持っていることの方が多いんじゃないかと私は思っている。
 その被害感はもちろん被害者には何の関わりもないところで生まれたもので矛先違いも甚だしいのだが、それを認めることができるのは罰によってではなく、理解されることによってだと私は思う。
 非難、特に人格に対する非難はむしろ被害感を高めて問題を大きくしてしまうだけ。
 そしてその仕事は社会がするものだという認識が必要だと思う。加害者の心を成長させる仕事は被害者がやることじゃない。

 これはフェミニズムの話の時に書いたことと同じだけど。
 第三者的立場のいない二者の構造になったときは、結局問題意識を持っているがわ、つまり被害者側が取り組むほかなくなるのがあれなんだけど。これもじっさいはただ対立する二者ではない。一人一人地道に理解者を増やすことでクリアできるはずだ。


 話はだいぶそれちゃったけど、とにかくとてもよかった。


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