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道路はクルマが走る、人が歩くためだけのものですか?価値の再定義から見えてくるこれからの移動と都市デザイン

コロナの影響で不要不急の移動が減り、非接触の生活を意識せざるを得ないなかで、わたしたちの生活に密接な移動を取り巻く環境や、スマートシティをはじめとする未来都市デザインはどうなっていくべきなのでしょうか。

日経とnoteが共同で運営するコミュニティNサロンでは『これからの移動と都市デザインを考える』と題し、7月27日(月)に、Zoomによるオンライントークセッションを開催しました。

一般財団法人計量計画研究所で理事及び研究本部企画戦略部長として、MaaSをはじめとする交通の問題や地域や都市のまちづくりの問題を中心に研究されている牧村和彦さんと、IT技術を使って建物だけではなく様々なものを有機的に結びつけながら、都市開発やまちづくりまで広げてデザインをしていくという「コンピューテーショナル・デザイン」の第一人者として活躍されている建築家の豊田啓介さんをゲストにお招きし、日経の小玉祥司編集委員がお話を伺いました。

まず、牧村さんと豊田さんそれぞれの専門の立場から、未来の都市と移動について解説。そのあと、トークセッションが行われました。このnoteでは、トークセッションのポイントを振り返ります。

これからの都市と移動はどうなる?

ー小玉編集委員
世界的には都市化に向かっていて、人口を集積させて効率化を求めていくことが今までのまちづくりだったと思いますが、今後はまちづくりの方法が根本的に変わっていくのでしょうか?

ー牧村氏
私は自動運転の影響が大きく出てくるのではないかと思っています。これが、まちのいろいろな形を変えていくと見ています。

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明治時代に鉄道が通り、鉄道を中心に街が変わっていったように、自動運転のサービスが最初に開始されると思われる高速道路を中心に、開発が進むのではないかと。今はインターのあたりは開発が進んでいませんが、インターの価値が上がり、そこに街ができていくようなことが起こるかもしれません。

自動運転が街の中まで入るのは、当分先だと思いますから、高速道路を中心とした街が再形成される時代になる可能性は高いと思っています。今「道の駅」の来場者は鉄道の利用者よりも多いんです。20年くらいかけて変わってきた流れですが、そんなふうに軸上に新しい街形成をしていくということが、スマートシティーのイメージだと思います。

ー豊田氏
「物を物」「情報を情報」として捉えていると、本質を見失うのではないかと思っています。例えば、Uberはタクシーの進化系ですが、Uberの本質は「定義を瞬間的に変えられること」ではないでしょうか。

乗用車がタクシーになったり、タクシーが乗用車になったり。これまでは、機能と車が1対1に対応していたので、100台のタクシーは常にすべてがタクシーであり続けなければなりませんでしたが、ニーズに応じて500台になったり30台になったりが可能になったわけです。

しかもそれが「情報の編集」だけで瞬間移動のようにできる。人や物の移動を伴うことが、情報の編集と定義だけで等価なことができるようになりつつあります。都市の機能も、物や場所に固定するのではなく、情報の編集で自由に変えられるということです。

時間で変動してもいいし、都市でも郊外でも田舎でもいい。情報的に編集が可能なものについては、どこに実態があろうと享受できるというものの全体が、スマートシティーだと思います。ですから、本質的にその対象は、都市で閉じていくということもなくなってしまうと思います。

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コロナを経験して都市と移動はどう変わるのか?

ー小玉編集委員
MaaSやIT技術をベースとして都市や移動が変わっていく動きは、コロナの影響で止まることはなく、むしろこれからますます推し進められていくと思いますか?

ー牧村氏
コロナの影響で車が急激に減った瞬間に、政治は街を違う空間に作り変えようと動き始めました。例えば、ドイツには歩行者モールがたくさんありますが、あれは地下鉄建設のときに普通ならば車の通る空間に戻すべきところを、すべて歩行者モールにしたことで街の空間の使われ方が変わった事例です。

それと同じようなことがコロナの影響で起こっています。外出自粛で家の近所だけで生活するようになった人は多いはず。すると、よく歩く家の近所が気になり始め、多くの人が気にするようになることで街はどんどんきれいになり、改善され、街全体がアップデートされていきます。

都市や移動では「人間中心」ということがキーワードになるので、このような変化は加速していくと思います。

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ー豊田氏
デジタル化は「人間中心である」ということと対立項ではないと思います。例えば、会社で仕事をしているときは「会社に所属している100%の個人」というような脅迫感があったと思います。それがコロナで在宅勤務をしていると、子供もいますし家事もやらなくちゃいけない。70%自分の体は会社に捧げているけれど、30%は自宅にいる。そのうち10%は近隣の活動に貢献したいなどということも、出てくるかもしれません。

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自分のあり方を瞬間瞬間で編集できるようになり、選択肢が増えたと思います。自分を何%ずつかに分けて、同時に分配できるようになったことで、これまで諦めなければならなかったことができるようにもなったと思います。

0か1かの選択ではなく、情報と物質が紐付いたことでより個人やその瞬間や価値観の違いに応じた、自分なりに編集した選択ができるようになってきていると思います。システムとして、全体最適化と個別最適化を相互に矛盾せずに両立させるような土壌が、できつつあると思います。

変革の主役は誰になるのか?

ー小玉編集委員
現在進んでいるスマートシティーやMaaSの取り組み、トヨタの「ウーブン・シティ」や大阪万博など、今後どのようなものが強みを出していくのか、どのようなところに注目されているか、伺えますか?

ー牧村氏
スマートシティーもMaasも「まちづくり」なので、人ベースで捉えるならば主役は女性のような気がしています。というのも、パリ市長も女性、ウィーンの副市長も女性、フィンランドの首相も女性、まちづくりで躍進している都市で活躍しているのは女性です。

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男社会で街を考えていく限界を突きつけられているような気がしています。生活が中心にあり、多様な人の話を聞く力、それを理解する力が女性にはあって、女性が街を変えていくのではないかと思います。行動力もあり、市民の理解や共感を作っていく力も強いので、そういう意味で主役は女性だと思っています。

ー豊田氏
領域を超えられるプレイヤーがいない気がしています。奇跡的な機会や理解に恵まれなければ、そのようなプレイヤーが出てくることは難しいかもしれません。

既存の産業領域や企業の営業の射程を超えた、新しいところに生まれるはずの価値をきちんと描いて、その構造を理解して、それに向けて必要な投資や開発をするというプレイヤーが、日本では出にくいと思います。

各産業や各企業が閉じた状態で努力をしていてもできませんし、でもそれを飛び越えた投資や経営判断はどの企業もやらない。行政にも難しいでしょうから、民間からうまくつないでいくとか、学術的な部分から大学が出てくるとか、そういった必要があると思います。

ー小玉編集委員
日本企業にうまく連携できない状況がある一方で、GoogleのようなITの巨人もうまくいかずに撤退しているような状況です。日本企業がこれまでのものづくりの経験を生かしながら、そこにITの技術を盛り込むことができれば、主役のプレイヤーになる可能性はあると思いますか?

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ー牧村氏
Googleのような企業と戦っていくために、日本はどうすればいいのかということについては、いつも真剣に考えていますが、私は「自動車会社と鉄道会社が組んで日本を守っていく」というくらいの次元でなければ、とても戦えないのではないかと思っています。

結局、シンガポールもトロントも、どこもショーケースでの世界展開を考えています。そう考えたとき、日本もサービスを提供している会社と、ものづくりの会社が組むことが大事なのではないかと思います。

ー豊田氏
日本は第一世代の「ものづくり企業」です。そこに現れた第二世代のGoogleやYahooの登場で、トレンドは「ものづくり」から「情報」へ。さらに第三世代として情報も物も扱うAmazonやアリババが出てきて、第四世代として情報プラットフォームで単一領域を扱うUberやAirbnbやWeWorkが出てきました。

既存の都市に存在している世界を情報的に編集できる第五世代が、スマートシティーの領域になると思います。

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トレンドは第二世代以降情報から物に戻ってきていて、第二、三、四世代は物の扱い方がわからず、第一世代の日本は物の扱い方はよく知っているのに情報という言語を身につけていない状況です。

第一世代の日本が第五世代に進む方法は、情報的な言語を身につけて自力で進むか、第二、三、四世代に買収されて連れて行かれるかではないでしょうか。世の中が早く変わるのは、後者だと私は思っています。

質疑応答

Q.女性が主役というのはこれまでの「マイノリティの視点が求められている」ということと同じ意味ですか?

ー牧村氏
まさにその通りですね。今はそういう時代ですし、そのような声とぴったり合ったということだと思います。男性でも得意な人はいるかもしれませんが、全体的には不得意な分野だと思います。

Q.情報の具体というのは、どんなことですか?

ー豊田氏
定義や属性の話です。例えば、職場の選択肢は在宅やWeWorkなど広がってきていますし、居住に関してもシェアハウスやAirbnbなど、離散化のプラットホームがある程度出始めています。

でも学びに関しては、その地域の学区内にある学校に行くしかありません。もし離散化がある程度認められてくれば、週の3日は都心に住んで、残りの4日は田舎の自然の中で過ごしてという選択ができます。

さらに、そのおかげで地方で廃れかけていたものが継続できるようになったり、これまで3%くらいしかニーズのなかったものが生き残れる可能性が出てきたり。そういうものの中に含まれているすべての情報です。

Q.道路を情報でどう編集すればいいのかわからないのですが?

ー牧村氏
例えば、道路がレストランになったり、キッチンカーがあったり、走る空間という価値しか今まで求めてこなかったところに、新しい価値を見出すということです。オフィスの機能をもたせて1時間300円で貸し出すことをしてもいいでしょうし、そういう世界観を作っていくということだと思います。

ー豊田氏
例えば、超高層ビルのエレベーターは「縦の道路」ですが、今のエレベーターは人の移動以外に使うことができないので、空間を無駄に使っているとも言えます。エレベーターが満員になるのは、朝のラッシュや昼のランチのときだけ。それ以外の利用率は50%もいきませんが、エレベーターシャフトは常に超高層ビルの35%ほどを占めています。

仮にエレベーターが流動化できて、ラッシュのときには増えてそれ以外は減るということができるならば、不動産価値的にはかなり大きなインパクトが出てきます。そういうことが今後の都市では起こっていくかもしれない、ということだと思います。

プロフィール

牧村和彦さん
計量計画研究所 理事 兼 研究本部企画戦略部長

牧村さん

モビリティデザイナー。東京大学博士(工学)。筑波大学客員教授、神戸大学客員教授。都市・交通のシンクタンクに従事し、将来のモビリティビジョンを描くスペシャリストとして活動。内閣官房未来投資会議、官民連携協議会などに参加。経産省スマートモビリティ推進協議会企画運営委員他多数。代表的な著書に、『MaaS~モビリティ革命の先にある全産業のゲームチェンジ』(日経BP)など多数。

豊田啓介さん
建築家 noizパートナー、gluonパートナー、東京大学生産技術研究所客員教授

豊田さん

東京藝術大学芸術情報センター非常勤講師、慶應義塾大学SFC環境情報学部非常勤講師、情報科学芸術大学院大学IAMAS非常勤講師。建築デザイン事務所noiz(東京・台北)を蔡佳萱、酒井康介と共同で主宰。建築を軸にプロダクトデザインから都市まで分野を横断した制作活動を行う。コンピューテーショナルデザインを応用したファブリケーション、システム実装の研究のほか教育活動なども積極的に展開する。 2017年より金田充弘と、建築・都市文脈のプラットフォームビジネスを志向するgluonを設立。テクノロジーベースのコンサルティング活動を行っている。

小玉祥司
日本経済新聞 編集委員

こだまさん

1985年日本経済新聞社入社。約20年間企業担当としてエレクトロニクス・IT分野などハイテク産業を主に取材し、青森・つくば・熊本の各支局長を歴任した。現在は科学技術分野を中心に記事を執筆し、電子版の映像解説なども担当。京都大学で宇宙物理学を学んだ経験を生かし、宇宙に関する科学的研究や技術開発に加えて、宇宙開発とビジネス・安全保障などのテーマについて幅広く取材している。

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