“植田日銀”の読み解き方――円安・株高が「正解」とは限らない
植田和男新総裁になって初めての日銀金融政策決定会合(2023年4月27-28日)と植田総裁の会見は、マーケットに安心感を与えたようだ。28日(金)13時、「大規模緩和維持」「YCC修正なし」「25年の緩和検証へ」といった決定内容が伝わると、市場は円安・株高で反応した。緩和姿勢維持の方針とともに、1年から1年半をかけて多角的レビューにより過去25年の金融政策を検証する――といった内容が当面は(あるいは1年から1年半は)緩和姿勢を維持すると受け止められたようだ。大手銀行株が乱高下しながら結局急落する一方で大手不動産株が軒並み大幅高となったのは、大規模緩和継続を好感した動きだろう。円安は自動車株など輸出株高にもつながった。日経平均株価の終値は398円76銭(1.4%)高の2万8856円44銭と4月18日の年初来高値を更新した。
日銀の大規模緩和維持を受けて円安・株高に
為替市場では東証の株式取引時間中に1ドル=135円の節目をうかがい、植田総裁の会見をにらみながら135円台後半に、さらに海外市場では136円台前半と円じり安基調が続いた。というわけで、“植田日銀”初めての会合は緩和長期化→円安・株高という反応だったわけだ。
確かに緩和姿勢は強調していたが……
その反応は正解か――。市場に正解も不正解もないといえばないが、取引終了後の植田会見を聞きながら、むしろ市場の反応に違和感が残った。まず、確かに緩和姿勢を強調していたのは間違いない。2月、国会での所信聴取や4月10日の就任会見でも同様だったが、例えば以下のような会見でのやり取りは強い緩和姿勢を印象付けるものだった。記者から「物価が上振れて政策対応が後手に回るリスクはないか」と問われて――。
緩和姿勢だけを強調していたわけでもない
しかしおよそ1時間にわたる会見では以下のようなくだりもあった。例えばずばり「レビュー期間は政策変更はないのか」との問いに対して――。
ちょっと面白い質問の仕方だったが、「レビュー期間はなぜ1年~1年半なのか」はいわゆる良い質問だった。答えはこうだった――。
そして今回は見送られたYCCの修正について「引き締めまでいかずとも金融緩和の正常化を図る考えはあるか」と問われたくだり――。
ごく素直に考えて、植田総裁は緩和姿勢だけを強調したわけではなく、緩和と修正、引き締め姿勢のどちらにも目配りしているように思える。そしてそのカギは何かというと、当たり前だが物価や賃金の動向次第ということなのだと思う。日銀の公式見解はこの会合でも「物価が基調的に2%を上回っているとは見ていない」ということではあるが、それは今後のデータ次第でいくらでも変わり得る。植田総裁は会見での様々なやり取りを通じて、今後の政策の自由度、フリーハンドを得ようとしていたのではないだろうか?市場の円安・株高はちょっと都合の良い解釈、あるいは月末、GWを控えてのポジション調整的な動き強く現れただけではないだろうか?
植田スタイル”は丁寧な受け答えが印象的
最後に会見そのものに対する印象にも触れておこう。一言でいうと「丁寧な会見」だったと思う。記者から質問を受けているときには以下の写真のようにメモをきちんと取って、質問の意図を取り違えないようにしている。
そして答えるときには質問者の方を真正面から見据えている。そのために、その時々で見ている方向は全然違う。
ちなみに前の黒田東彦総裁の会見は「ぶれない軸」「胆力」「強いメッセージ」などが印象的で、時としてそれは「サプライズの演出」に見えることもあった。また質問した記者に対して露骨にいら立ちや不快感を示すこともあった(それはそれで人間らしくて面白かったけれど……)。良い悪いという価値判断とは別に、“植田スタイル”は“黒田スタイル”とはかなり違う。
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