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藤野英人さん、レオスのこれからを語る――志・技・経営をどう受け継いでいくのか

1月12日(木)、日経CNBCのゲストトークコーナーにレオス・キャピタルワークスの会長兼社長、藤野英人さんをお迎えした。藤野さんは、日本で最大級の投資信託、ひふみ投信シリーズを運用し、個人投資家の関心も高いファンドマネジャー。そして、独立系運用会社レオスの創業者、経営者だ。番組では昨年にいったんは引き継いだひふみ投信の運用責任者に復帰した件から話を聞き始めた。以下番組でのインタビュー内容の書き起こしに加え、直居の若干の感想を記した。
 
(直居)
今日のゲスト、藤野英人さん。レオス・キャピタルワークス会長兼社長、そして1月からひふみ投信の運用責任者に復帰されたタイミングでもあります。まさに「レオスのこれからを語る」ということでお聞きしたいと思います。藤野さん、どうぞよろしくお願いします。何といっても皆さんも気になると思うのですけれども、ひふみ投信の運用責任者、昨年4月でしたか、佐々木靖人さんに引き継いで、藤野さんご自身はひふみ投信シリーズ全体、あるいはレオスの経営の方により力を注いでいくというお話しだったと思います。約9ヶ月で、復帰というこの決断、どのような背景だったのでしょう?

運用責任者復帰は“苦渋の決断”

 (藤野)
そうですね。これ、会社の中でも、苦渋の決断というように言ったのですけれども、実際にひふみ投信のパフォーマンスが、絶対パフォーマンスが悪かったですね。要するに、(TOPIXなどの)インデックスが悪かったということと同時に、やはり、そのインデックスをかなり下回ってしまったっていうことがあって、運用成績が悪かった。同時に、やはり社内外で、不安の声がすごく多くなっていました。特に、ネット上で、「大丈夫なのか?」ということであったり、まあ、場合によっては非常に辛辣な言葉が出るようになったということがあって、佐々木そのものもファンドマネジャーとしてはたくさんの経験を積んでいるわけではないので、色々な状態が厳しいなと思ったところで、これは1度、私が運用責任者に戻る方がベターだなと、まあベストだということで、今回の体制にしたということですね。
(直居)
まさに苦渋の決断ということですが、1月以降は、藤野さんが最高投資責任者として復帰され、佐々木さんはシニア・ファンドマネジャーとして、またひふみワールドやグローバル債券についてはこのような体制でいくということですね。

(藤野)
監督でありながらプレイヤーということで「代打、オレ!」みたいな感じがあるのですけれど……。
(直居)
「代打、オレ!」ですか(笑)。運用成績的には確かに難しい環境だったと思います。ここ1年の基準価格なども見てみたいのですけれども、インデックスも厳しい環境ではありましたが、インデックスに負けるというのは、やはり運用会社、ファンド・マネジャーとしては、なかなか許しがたいことなのでしょうか?

市場は荒れ模様、ここ最近の運用成績は芳しくはなかった

(藤野)
そうですねぇ。私がずっと10年以上(運用責任者として)やってきたのですけれども、その中でも最大規模の(インデックスに対する)負けだったというところがあるので、なかなか難しいなということですね。もう少し負け幅が少なかったら、もう少し様子を見たのですけれども、まあ、仕方ないなということで……。元々11月までは、自分が戻る予定などはなかったのですけれども、12月に入って社内のメンバーと色々と議論した中でも、やはり私が戻った方がベストだろうということになりまして……。
(直居)
藤野さんはレオスの創業者でそして経営者、そしてファンドマネジャーという立場です。どのように後継者を育てるとか、運用の力を引き継いでいくというのは、簡単ではない話だと思います。この辺りは今、どのようにお考えですか?

“背中をみて学んでくれ”スタイルは改める


(藤野)
私は、(これまで)この職人肌で教えようとしていまして、要は「背中をみて学んでくれ」というやり方を、ずっと踏襲してきました。それはなぜかというと、手取り足取り教えてしまうと、まあ自分のコピーなって、自分を超えることができない。だから自分を超える人を作りたいという風にずっと思っていたのですね。でも、結果的にうまく伝えられていなかった。教えていなかったという部分が多くて、例えば小さいことで言うと、(ネット上などの)罵詈雑言などを、色々浴びせかけられることも多いわけですけれども、そういうことに対してどうやってメンタルを整えるのかというところも一切話さずにバトンタッチしてしまった。
(直居)
でも、敢えてそうしたというところもあるのですよね?
(藤野)
敢えてそうしたのです。それはなぜかというと、自分を超える人を作るには、手取り足取り、教えない方がいいという強い信念があったのですね。実際に僕は野村アセットマネジメントの時だって、JPモルガンアセットやゴールドマン・サックス・アセットマネジメントの時も、そうやって人を育てきてきたというところがあるのですけれども、ひふみ投信って、(今は)巨大ファンドなんですよね。これだけ大きなファンドは実は(日本の)社会にもないので、社外から経験者を取ってくることもできない、というような問題もあります。それで私は、これから運用責任者として戻って、後継者についても、今までの方針を変えて、コミュニケーションして、自分の意図を全部伝えて、「教え込む」というようなスタイルでいこうという風に思っているのですね。
(直居)
これは、藤野さんとしてはかなり大きな転換ですね。
(藤野)
大きな転換です。他の仲間とか、色々な経営者などにも言われたのですけれども、「藤野さんを超えるファンドマネジャーを作るっていう目標が間違っていて、他のファンドマネジャーに勝てればいいんだ」と。「他のファンドマネジャーに勝てれば十分だろう」ということですね。だからまずしっかり教えようと。とは言っても自分のコピーを完全に作ることなどということはそもそもできないわけですから、教え込んで、その上でその人らしさが出てくればいいんじゃないかという話になったのです。もう少しコミュニケーションを密にして、今度は教え込むというやり方に、挑戦してみようと思っています。
(直居)
これは本当に大きな転換期ではあるなと感じます。ひとつのその背景として、その前にお聞きした運用環境の難しさについて……。正直言って、(最近は)誰にとっても難しい環境だったかなと思います。藤野さん、せっかく今日いらしていただいているので、今年はどのような運用環境と見ていますか?

日本でも金利上昇、今年は荒っぽい市場に


(藤野)
今年ですね。2023年もかなり荒っぽい。多くの専門家も過小評価しているのですけれども、昨年末に、(日銀の)YCC(イールドカーブコントロール)の事実上の変更がありました。上限金利が従来の0.25%から0.5%に上がったわけですが、これはまあ、実質的に金利上昇のサインだと思うのですよね。
(直居)
なるほど――。
(藤野)
うん。それで今後、恐らく今後、日本の金利上昇、まあ金融引き締めが始まってくるということなのですけれども、この10年以上、金融緩和だったので、金融引き締めということがなかったなかったということがあるので、「引き締めがあった時にどういうことが起きるのか?」ということに対する予想が実は甘いのではないかと思っています。金融引き締めが、結果的に日本の景気などにやはりマイナスの影響があるだろうという予想があり、それからやはり増税というものが見えている中で、「なかなか日本の経済が浮揚しにくいのではないか?」という予想があるのですね。米国の方は、金利上昇がこれから緩やかになってくる。場合によっては、年末にかけて金融緩和があるかもしれないてというような状態になってくるので、米国と日本の状況が、2022年は日本が相対的に強くて、米国が弱かったのだけれども、(今年はこれが)逆転するかもしれないと、そう思っているんですね、正直。
(直居)
多くの見方(いわゆるコンセンサス)とは逆な気がしますね。
(藤野)
逆かもしれません。それに対する手当てをしなければいけない。そういうことが起きても、ある程度大丈夫なポートフォリオにしていく必要があるということですね。ただ、良かった面もあるのですけれど、その前任者の佐々木がですね、12月くらいにかなり金融株を手厚く持っていたのですよ。結果的にずっと厳しかったのですが、12月に関しては、(インデックスを)アウトパフォームした。大きな理由は、ほとんどのアクティブファンドのマネジャーは金融株の比率をアンダーウェイトにしていたということがあります。
(直居)
(直近の組み入れ)上位をみると、東京海上ホールディングスだったり三菱UFJフィナンシャルグループなどが入っていますね。
(藤野)
そうです。それはかなり意図的にやったということがありますね。今年の動向もよく見ていきたいと思います。
(直居)
ひとつ、レオス・キャピタルワークスのこれからという点では、上場計画があると思いますが、この点、今は、どのようにお考えなのでしょうか?
(藤野)
そうですね。あの上場申請を行っていて今粛々と準備をしている最中で、承認を受けて上場ということになりますけれども、今、それに向けて着々と準備をしているところですね。

「つみたてキャラバン」社内外ともに顔を見て

 
(直居)
さて少し話題を変えて、レオス・キャピタルワークスは昨年10月からでしょうか、約半年かけて、日本全国全47都道府県を巡る「つみたてキャラバン」を展開中ということですね。これは一体どんなことが始まったのでしょうか?

キャラバンはお客様と触れ合うと同時に、社員同士でも貴重な機会に…

(藤野)
はい、そうですね。これはずっとやってきたものなのですけれども、以前は「ありがとうキャラバン」という名前でやっていたのですが、このコロナの間、お客様との接点がなくなってしまったということがあってで、47都道府県に僕らが投資の楽しさとか積み立ての大事さということを伝えに行くということをしています。で、これはどういう効果があるかということですけれども僕らの姿勢を表す、お客様とコミュニケーションするということと同時に、結構大事なのは、社員もこの3年間くらいはどこも行かなかった。たまに会社に来る程度だったということがあるのです。在宅勤務中心だったこともあって社内のコミュニケーションが足りなかったということもあるので、結果的にみんなで旅をして、お客様と会って、お客様の顔を見て……。その後は、ご飯食べて飲んで帰るということをすることによって、(社員の間の)結束を固めたいという意味合いもあります。
(直居)
社内、あるいはお客様の反応とかいかがですか?やはり直接会うと違いますか?
(藤野)
そうですね。お客様から「遠くまで来てくれてありがとう」ということを言われたり、当社の社員も、ああ、こういう方が当社を支えてくれているんだ、ということがわかる機会になります。
(直居)
本当に「顔が見える」というのは、まあレオスの1つの大事な特徴でしょうね。さて積み立て投資の大事さということでは、最後、残り時間の範囲内になってしまいますが、昨年末の税制改正大綱で、NISAの大幅拡充が決まりました。2024年からですね。証券界、金融界では「大歓迎」という声が多いように思えますが、藤野さんはどうご覧になっていますか?
 

NISA拡充、金融業界の競争は激しく

 
(藤野)
まず、これ大歓迎ですね。お客様にとって最高です。ですから、あの今聞いていただいている方には、あの精一杯利用するとお得です。使い倒していただきたい。ただ。業界的に言うと、こう微妙なところがありまして、それは何かというと、利便性の高いところにこう集約されると……。1つの口座にした方が便利なので、NISA口座に全てを寄せられるという可能性があるので、利便性がより高いネット証券、SBI証券とか、楽天証券に、集約されてしまうのではないか、ということがあるので、僕ら資産運用会社はより独自性を出す必要があると思いますね。
(直居)
いくつも口座を持っているということが、本当に不便以外の何もでもない、みたいなことになりかねないでしょうか?
(藤野)
そうなんです。NISA口座に収れんされる可能性があるので、これはピンチとチャンスが両方ある政策だと、業界的には思っています。
(直居)
なるほど。レオスとしては、どの辺りに一番力を入れていくのでしょうか?
(藤野)
やはりそれは(自分が運用責任者に)戻った大きな要因でもあるのですけれど、やはりこの商品の魅力を高めなければいけないので、「ひふみの運用っていいよね、面白いよね」というように思ってもらうようにしていきます。
(直居)
なんといっても商品の力ということですね。色々な動きがレオスにも、そして金融業界にもありそうで楽しみです。藤野さん、今日はどうもありがとうございました。
(藤野)
どうもありがとうございました。

<インタビュー終えて。雑感①>
創業者が経営をどのように次世代以降に伝えていくのか――。なかなかに難しい、多くの経営者が苦労しているポイントだろうと想像します。金融の、特に投資信託の世界では、僕は、さわかみ投信の澤上篤人さんが「直販」、「積み立て」といういわば日本ではイノベーションを起こしたと考えています。藤野さんに限らず、多くの人が、会社の垣根を越えて、澤上さんの、ある意味薫陶を受けて、独立系運用会社の動きが広がってきた――。それをさらにどのように継承していくのでしょうか。
スポーツの世界などで「心・技・体」という言葉がありますね。僕が尊敬してやまない落合博満さん(元中日ドラゴンズ監督)はかつて、「心・技・体」ではなく「体・技・心」ということをおっしゃっています。順番が違います。しっかりした体があって、そして技が熟練され、そして初めて心が充実していくということです。敢えて経営に当てはめると、体(=しっかりした「経営」)、技(運用を中心とする「技術」)、心(=金融から日本をよくしようとする「志」)ということではないでしょうか?そもそも「志」がなければ意味がないけれど、「志」だけで勝ち残っていけるほど甘い世界ではないのだとも思います――。多くの人が金融の世界でもこれに挑んでいます。ポジティブな変化は確かに起きています。楽しみです。
 
<インタビューを終えて。雑感②>
相場環境、運用の見立てについて、放送では時間が足りなかったので、十分にお聞きできていないのですが、控室に戻ってからお聞きした内容のエッセンスだけでもここでお伝えしておこうと思います。ひふみ投信は運用を初めて当初は「日本企業の上位200番まではほぼ調査対象として力を入れず、それより下のいわゆる中小型株のピックアップで高い運用成績をあげてきた」といいます。この世界は、株価が10倍になるテンバガーなどが生まれる株式投資のひとつの醍醐味だと思います。ただ、藤野さんは「これからは上位200社の中でも本格的に生まれ変われる会社が3分1くらいは出てくる可能性がある」とみています。パフォーマンスを上げる技、ツールが以前より増えているということではないでしょうか。日本企業の変化にも期待したいと思います。

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