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設計図通りに建築をつくるために・・・ ~ 現場段階での監理業務マップの活用 ~

川西 昭一郎 
日建設計 エンジニアリング部門 監理グループ
ダイレクター

Construction Site(建設現場)の過去~現在

江戸時代、城や神社仏閣は、大工頭・大工棟梁が建築指図をもとに多数の職人を統轄し、400年後の現在も実存する建築物を造っていました。その手法は、建築指図に「起こし絵図」や「建地割図」(現代で言う施工図のようなもの)、1/10程度の模型なども使い、参画している人々のモノづくりの意志を統一していました。なかでも、幕府の京都大工頭であった中井大和守は、城や神社仏閣、茶室など建設ラッシュにより工期が厳しい条件下でも、モノづくりのプロセスを分解し、測量から設計、施工、維持管理の役割を的確に分けるマネージメント手法で工期通りに予算内で品質の高い建造物を実現しました。
一方、現代ではどんどんと分業化が進み、建築物を造り上げるには、発注者・設計者・監理者・施工者・関連施工会社・作業員など利害関係が異なる多くの人々が関わっています。その中で、中井大和守のようなスーパーマンが現代でも各プロジェクトに存在していれば話は別ですが、現実は現場での「もの決め」を経て、建築を造り上げるための合意形成手法(コミュニケーションツール)と、そのスケジュールの共有が大きな課題です。

それぞれの役割を理解し伝え合う

私たちの仕事は、車や電化製品と違い現場での一品生産で、1回限りの体制を組織し、限られた時間の中でそれぞれの役割に応じたミッションを繋ぎ、確かめ合いながら建築を造っています。⼯事段階で⽇建設計が行う業務は、設計意図を正しく伝えること、出来上がった建物の品質が設計図書通りに確保されていることを確認することにあります。
互いに初めて仕事をするメンバーの間では、意思疎通がいかに難しく、労力が掛かることかは「伝言ゲーム」で正しく物事が伝えられないことを考えると明らかです。口頭でお願いしたことが現場にまったく違う形で伝わり、時間的なロスや、やり直し等が生じるのはよくある話です。プロジェクトの成否は、発注者・設計監理者・受注者(施工者)の3者が、着工から竣工まで工事の流れに沿って契約・設計図書の内容を過不足なく遂行するための目線合わせが鍵になります。

監理業務マップの活用

そこで、この目線合わせを現場初期段階で行うためのツールとして、役割毎の業務内容をロードマップ化した「監理業務マップ」を2020年5月に作成しました。この「監理業務マップ」は現場段階での業務に必要な事務処理手続きや、施工図・施工計画書・検査項目を時系列で「見える化」し、プロジェクトにとって必要な仕事を確実かつ効率的に遂行していくことを目的にし、日建設計120年の歴史の中で携わった多種多様なプロジェクト経験での監理技術ノウハウを生かしています。現在、18プロジェクトを中心に運用を開始しており、それぞれの現場で工夫していることや活用方法をヒアリングし、より良く現場で使えるツールを目指しています。
使い始めての関係者の反応は、特記仕様書の内容や作成すべき提出書類・施工図等を施工者と協議しながら漏れなく確認することにより、竣工までの業務を工事初期段階で相互理解でき、今まで意志疎通が難しかった業務が伝えやすくなったとの声もあり、上々な滑り出しとなっています。特に現場での業務進捗状況については、この「監理業務マップ」をA1でプリントアウトして「作成・進行中」の項目と「完了」した項目を見える化し、発注者への説明や、受注者との打合せ時に定期的な確認をすることにより、提出漏れの防止にも効果を発揮しています。また、現場段階での業務内容になじみの薄い発注者や業務経験の浅い設計者、監理者、施工者の建築生産プロセスの把握にも一役買っています。コロナ禍で今まで以上にコミュニケーションの難しさが生じている中、この「監理業務マップ」をより効果的に活用していきます。
今後はリモートでの業務も増える中、クラウド等に建築生産プロセス情報を集約し、マップともリンクさせながらプロジェクト関係者の合意形成に役立つツールのひとつとして、有効活用していきます。


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川西 昭一郎
日建設計 エンジニアリング部門 監理グループ
ダイレクター
20年間、施工者として大阪、和歌山、東京で20プロジェクトを経験。その後、監理者として14年が経過。現在、現場経験を活かした監理業務を実践中。
横浜三井ビルディング、三井住友銀行東館、渋谷スクランブルスクエアなどを担当。



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