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都市にリアルな交流を生む  ~可変ユニットで使いこなすパブリックスペース~

伊藤 雅人
日建設計 都市部門 パブリックアセットラボ
アソシエイト アーバンデザイナー

リアルな交流を実現してこその健全で豊かな都市生活

前稿「『疎』をさりげなくつくる~安心で心地よいパブリックスペース~」でも触れられたように、With/After COVID-19の時代において、パブリックスペースが都市の中で大きな役割を果たすことは間違いないでしょう。
オンライン打ち合わせが当たり前になり、「ウェブ飲み」が市民権を得たとしても、リアルな場でのコミュニケーション、例えば友人や恋人と会うこと、対面での仕事の相談、コンサートやスポーツ観戦で感じる一体感への渇望が失われることはないはずです。むしろリモートでのアクティビティの幅が広がったからこそ、リアルが稀少化し、価値がより高まると言ってもいいかもしれません。とはいえ3密(密閉、密集、密接)は避けなければならない状況下では、少なくとも1密(密閉)は避けられる屋外空間を求める動きは自然な流れとなるのではないでしょうか。「密」は感染症リスクにつながるものの、同時に、人が集まって暮らすことが都市の本質である以上、全ての「密」を避けることは難しいとも言えます。都市の中で安全に集まれる環境をつくるために、屋外を使いこなすことで、健全で豊かな都市生活が実現できるのではないかと考えます。

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図1:屋外でリアルな交流を生むことが、豊かな都市生活につながる。

マルチタスク化するパブリックスペース

パブリックスペースの使いこなしは、実は緊急事態宣言下でも現象として起きていました。行動制限期間中に身近な公園を訪れると、子供を遊ばせながら親はPCを開いて仕事をしているような光景をよく目にしましたし、道路空間に飲食店の客席を設置して営業を継続している例もありました。またエンターテインメント関連でも、ドライブインシアターなどが現れています。それまで建築の中で完結していたアクティビティが、建築の外にはみ出した結果、パブリックスペースがマルチタスク化し、時にオフィスになり、飲食店になり、映画館にもなったと言うこともできます。「新たな日常」に向けて徐々に動き始めている現在においても、感染症リスクは消えず、密を避けなければならない状況は今後も続くため、その時々のニーズに応じパブリックスペースをマルチタスク化する必然性は極めて高いと思います。
こうした様々なケースに臨機応変に対応できる「備え」が、これからのパブリックスペースの「装置」として求められると思いますが、それは一体どのようなものでしょうか。

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図2:北海道江別市蔦屋書店で行われたドライブインシアター「あしたのしあたあ」。

可変ユニットで実現するパブリックスペースの「場」としての多用性

日建設計も参画するULTRA PUBLIC PROJECT※が2018年に東京ミッドタウンで企画運営したPARK PACKは、まさにパブリックスペースをマルチタスク化する実験でした。デザインイベント「Tokyo Midtown DESIGN TOUCH2018」を主催する東京ミッドタウンより、「みらいの公園」をつくってほしいとのオファーを受け、イベントのコンテンツとして発案したこの取り組みは、多様なアクティビティを推奨するハードとソフトを、移動可能なコンテナに「PACK」することで、あらゆるパブリックスペースを、アクティビティに溢れる「PARK」に変えてしまおうというものです。ハードとしては多目的に対応できるよう、シンプルなコンテナと、折り畳み可能なテーブルや椅子等のツール(モジュールと呼称)を用意し、来場者が思い思いに過ごせる環境を創りました。ソフトとしては、パブリックスペースを様々な姿に変えるイベントを複数開催。全て「PARK is ●●」と題し、屋外映画館やディスコ、フォトスタジオ、ギャラリーなど、自由自在に変化させました。中でも、実験のコンセプトに共感した方の申し出で、自らワークショップを開催してくださったのは嬉しい驚きでした。イベント時だけではなく、日常時にも、テーブルや椅子などを使って、思い思いに屋外を楽しむ人が多く集まったのが印象的でした。

※ULTRA PUBLIC PROJECTとは、“We are the city.”の旗印の下、ハード面の開発ではなく、人を中心にしたさまざまなソフトウエアの視点でまちづくりを考え、提案するユニット。Rhizomatiks Architecture、ティー・ワイ・オー、電通ライブ、日建設計、プロペラ・アンド・カンパニーにより構成。

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図3:PARK PACKのコンセプト

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図4:PARK is Cinema

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図5:PARK is Disco

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図6:PARK is Photo Studio

2019年には OUTDOOR LOUNGE という取り組みを筆者が所属する日建設計の社屋前の公開空地で行いました。Nikken Wood Labが開発中である 木製の可動ユニット「つな木」を設置し、様々なシーンを生み出しました。
「つな木」1つのユニットは大人2人で動かせる大きさで、組み合わせにより店舗、ワークプレイス、打ち合わせスペース等様々な姿に変化させることが可能です。昼は近隣店舗のランチを販売するワゴンとして、その後は打ち合わせスペースや休憩スペースとして、夜はバーとするなど、パブリックスペースを時間に応じて複数の用途に、かつ柔軟に運営し、「使い倒す」ことができました。普段は通行空間でしかない本社屋前の空間が、ワーカー同士の会話が生まれ、新たなコミュニティを生み出す場として変化する可能性を感じました。

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図7:ランチショップとなる「つな木」

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図8:ワークプレイスとなる「つな木」

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図9:打ち合わせスペースとなる「つな木」

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図10:BARとなる「つな木」


おわりに

2つの取り組みから判ったことは、パブリックスペースをマルチタスク化するためには、決して大掛かりな仕掛けが必須(マスト)ではないということです。
雨風や日差しを凌げたり、ちょっとした物を置ける場所があるだけで場所の使いやすさは格段に上がります。また、それらが可動であれば、様々な空間に変えることが出来、多くの活動を受け入れられる魅力的な装置と成り得ます。
ただし、日々のオペレーションが非常に重要で、いかに効率的に、かつ効果的に運営管理を行うかが課題となるため、マルチタスクを実現するには、極力シンプルな装置と運営で空間を構成することが有効であると思います。

そしてやはり最も重要な気づきは、「人々はパブリックスペースを使いたがっている」ということです。PARK PACKでワークショップの開催を申し出て下さった方や、公開空地でランチ販売して下さった近隣店舗の方がそうだったように、パブリックスペースで自らの活動を展開することで人や社会とつながることは、都市に生きる人の根源的な欲求なのではないでしょうか。

もちろん、パブリックスペースで公平性を保ちながら個々の欲求を実現するためには一定のルールも必要となりますが、COVID-19禍を経て、さらに高まるこの欲求を「可変的な空間と、可変性を実現する運営」によって受け入れ、身近なパブリックスペースを使いこなしていく動きは一層加速すると感じています。それを担うのは行政や民間開発事業者、さらにはエリアマネジメント組織など様々な主体が考えられます。自分たちの暮らす都市のパブリックスペースを上手く使いこなし、安全で「快適な密」を適切につくることで、楽しく健康な都市生活が実現できるのではないでしょうか。

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図11:「可変的な空間と可変性を実現する運営」を実装したPARK PACK


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伊藤 雅人
日建設計 都市部門 パブリックアセットラボ
アソシエイト アーバンデザイナー
国内外のパブリックスペース関連業務、都市デザイン・都市計画業務を担当。2018年以降パブリックアセットラボにて、計画・企画段階から運営段階に至るまで、ハードとソフト両面でパブリックスペースをトータルデザインする事業に取り組んでいる。

図1:中戸川史明写真事務所
図2:あしたのしあたあ
図7~10:中戸川史明写真事務所
OUTDOOR LOUNGE 動画:中戸川史明写真事務所





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