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「つな木」のエンジニアリング②|キューブ型「つな木」の構造検討ツール

石﨑 樹、畔見 徳真
日建設計 エンジニアリング部門 構造設計グループ
設計監理部門 デジタルデザイングループ DEL(NWL)

Nikken Wood Lab(NWL)の構造設計者の視点から、「つな木」の特徴と「つな木」プロジェクトについて、全3回にて紹介するシリーズ。2回目の今回は、キューブ型「つな木」の構造検討ツールについて紹介します。(1回目の記事はこちら

「つな木」を構造検討するために

木材どうしをクランプ金具でつなぎ合わせて自由な形態を生成する「つな木」のシステムは、一般的な建築物とは仕組みが異なるため、構造的な安全性を確認する方法から、自分たちで新たに考える必要がありました。

写真1 新規開発したクランプ金具による接合部

構造的な性能の把握のためにまず確認したことは、接合部単体の性能です。最初から複合的なユニット形状を扱うことは考慮すべき要因が多く難しいので、まず木材2本とクランプ金具1つで構成される最小限の接合部でクランプ単体実験を行い、剛性や耐力といった特性を確認しました。
クランプ単体実験の結果を用いることで、「つな木」に力が加わった時にどの程度変形するか、どの程度の荷重まで耐えられるか、簡単な形状であれば手計算でも求められるようになります。

次に、「つな木」をデザインする段階で要望が多かったのが、自由自在に組み替えた架構パターンに対応でき、かつ多くの人が簡単に利用できる構造検討ツールです。

図1 「つな木」ユニットのバリエーション例

建物を対象とした構造計算ソフトや汎用構造解析ツールは世の中に既に多くありますが、「つな木」のシステムでは建物とは異なり、柱梁の軸線がずれている点や、接合部のクランプ金具の複雑な動きを加味したモデル化が必要な点、さらには汎用構造解析ツールが初心者には操作が難しいなどの点から、今回の簡易に検討したいという要求には合致しませんでした。

そこでNikken Wood Labの構造チームでは、多くのパターンが想定されるキューブ型「つな木」を対象とし、意匠の形状検討用3次元モデルを利用して構造検討ができる専用ツールを開発しました。

「つな木」専用構造検討ツールの開発

誰でも簡単に使えることが求められる一方で、構造物の検討には実際の挙動を適切に再現するための構造解析用のモデルの作成が必要であり、構造的な知識や感覚が求められます。そこでツールとしてRhinocerosとGrasshopper(以降、RH、GH)を使用することで、形状検討用モデルから自動で構造解析用モデルを作成し、さらに検討結果まで出力可能なツールを作成しました。

図2 各モデル図(左から形状検討用、構造解析用、検討結果)

検討項目と想定する外力の荷重ケースは下記を考慮しており、各荷重ケースでの検討結果をOKとNGで判断できるようにしています。

検討項目:部材の応力、架構の変形、キャスターの滑り出し、浮き上がり
荷重ケース:地震、風、衝撃力、局所載荷

図3 検討フローの開発段階メモ

RH上のモデルは部材種別ごとに材料の特性や固定条件等を考慮できるようにしており、クランプ金具の特性にはクランプ単体実験から得られた値を設定しています。
検討は、GH上のボタンを1つクリックするのみで完了し、RH上の入力モデルの自動読み込みから、各種検討結果の出力(テキスト&モデル)までが一貫で行われます。

図4 入力から出力までの流れ

実大実験での構造検討ツールの妥当性確認

簡単に構造検討できるツールは用意できましたが、計算結果が実現象を適切に再現、評価できていなければ意味がありません。そのため実現象に対する計算結果の妥当性の確認を目的として、実大実験を行いました。実験方法は、フレームの脚部を固定した状態で頂部を水平方向に加力していき、変形量を計測する水平載荷試験です。

図5 実験概要(固定点、加力点、計測点)

実大モックアップによる水平載荷試験は、「つな木」の共同開発者であり、製造・販売者でもある三進金属工業の工場にて行いました。ユニット頂部を水平に引く装置を取付け、おもりを手作業で段階的に重くしていき、ステップごとに水平変形を記録します。構造実験は「つな木」に限らず通常の建物の構造設計でも行うことが多く、どのような実験をすれば意図した性状を把握できるか、工学的に判断するために実験条件は適切か、測定箇所はどこが適当かなど、実験にはいままでの多くの経験が活かされています。

写真2 実験風景

今回の実験はユニットを組み替えて6パターン行いました。いずれの実験結果でも事前解析結果と重ね合わせて使用想定範囲では大きな違いが無いことを確認しており、新規開発した構造検討ツールが机上の空論ではなく、実現象と照らし合わせて妥当であることを、定量的に確認出来ました。

図6 解析結果と実験結果の比較

建築とは異なるスケールでも経験を活かした手法によって、「つな木」の構造的な性能を確認してきたことが伝わりましたでしょうか。このような試行錯誤を繰り返して少しずつ知見を蓄積しながら、「つな木」の開発に取り組んでいます。
最終回となる次回の記事では、さらに形状を複雑にしたドーム型「つな木」について紹介します。


石﨑 樹
日建設計 エンジニアリング部門 構造設計グループ 兼
設計監理部門 デジタルデザイングループ DEL(NWL)
構造設計エンジニア。建物の構造設計のほかに地震時建物被災度判定システムNSmosや仮想地震体験システムSYNCVRなどの研究開発に従事。主な担当プロジェクトは、日本リーテック総合研修センター、選手村ビレッジプラザなど。

畔見 徳真
日建設計 エンジニアリング部門 構造設計グループ
構造設計エンジニア。膜構造の研究経験を活かし、「つな木」ドームでの膜形状の設計や構造検討ツールの開発を担当。まだ若手で構造設計での実績は少ないが、先輩の背中を追って日々奮闘中。

注釈・補足等
※1 Rhinoceros:建築に限らず様々な分野で利用されている3次元モデリングソフト。曲線や曲面によって複雑な自由形状にも対応できる強みを持っている。
※2 Grasshopper:Rhinocerosのプラグインツール。ビジュアルコーディングによって、Rhinoceros上のモデルを制御することができ、今回のように様々なシミュレーションを可能にしてくれる。

共同開発チーム
・株式会社日建設計(Nikken Wood Lab):企画、デザイン
・三進金属工業株式会社:クランプ製作・販売、ユニット販売
・江間忠木材株式会社、株式会社篠原商店:木材調達・加工
・株式会社もちひこ:外装膜製作・加工

リンク
・「つな木」公式サイト(https://tsunagi-wood.jp/
・「つな木」オンラインショップ(https://kanehisa.official.ec/categories/4820191
・NSmos(https://www.nikken.co.jp/ja/expertise/structural_engineering/nikken_sekkei_structural_monitoring_system.html
・SYNCVR(https://www.nikken.co.jp/ja/expertise/structural_engineering/syncvr.html



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