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待ち合わせはジェフ

「2時間後にジェフね。」

夫と那覇に滞在する時は別行動を取るとこがしばしある。お互いの趣味嗜好の違いを尊重しての策だ。
待ち合わせ決まってジェフが定番スタイルだ。

ジェフとは沖縄県内に6店舗構えるローカルファストフード店である。
国際通りから程近い那覇市壺屋にあるジェフサンライズ那覇店は出入り口こそ大きくないが、店内の奥行きが昔ながらの長屋を思わせるたたずまいで、レトロ丸文字の看板のロゴに愛らしさを感じる。

夫はジェフが好きだ。
私はせっかくだからA&Wのソースがたっぷりでルートビアに良く合うはっきりと豪快なハンバーガーを食べたい。
しかし夫はジェフのぬーやるバーガーの素朴な卵風味と適度な塩味が効いたランチョンミートがたまらないと言う。
ぬーやるバーガーとは、ゴーヤと卵と炒めた具とスライスしたランチョンミートを挟んだハンバーガーのことである。
見た目はシンプルそのもので、もちろんルートビアなど付くわけがない。
しかし、夫はジェフのぬーやるバーガーこそ沖縄に来たら食べるべきハンバーガーだと豪語する。
確かに他に類がない。
具がゴーヤと卵とランチョンミートですもの。

昨今、全国どこでも同じ味を楽しもうと思えば簡単な世の中になった。便利になったが食の冒険家は激減しているだろう。その代償は大きい。

だから沖縄を訪ねる友人、知人には力強くジェフを勧める。ジェフの存在と存在感をアピールし、沖縄の食文化を死守する寸法である。

去年、いつものようにジェフで待ち合わせをした時の出来事だ。
ウィンドウ越しに店を覗くと、品の良い印象の白髪のおばあちゃんが4人掛のテーブルにこちらを向いてちょこんと座っていた。照明が控えめで、真夏の真っ昼間にも関わらず少し日が陰った雰囲気の店内には少し不釣り合いのご婦人である。
対照的な場所と人の接点に違和感を感じながらも、日常的な沖縄のいつもの風景はこれかもしれないとチラチラ盗み見てしまった。

店員がおばあちゃんのテーブルに運んだのはヌーヤルバーガーでななくナポリタンスパゲッティーだった。遠目に見てもザ・ナポリタンと分かる風貌はナポリタンの代表選手のように見えた。
フォークをクルクルすることなく、ケチャップで真っ赤に染まったスパゲッティーをガバッと口に放り込む仕草は愛着を感じるほど可愛らしかった。

ヌーヤルバーガーもおいしいが次に訪れる時には絶対にナポリタンスパゲッティーを選択しよう。
旅先でケチャップまみれの口を気にせずに食事を楽しむなんて、結構気持ちが良いはずだ。