見出し画像

西表島、アダナデの滝 その④ 誘惑の手、躍動する石

仲良川の支流、ヌバン川に入ると急にマングローブが私との距離を縮めてきた。「ヌバン川」は仲良川の下流に流れる2番目の川だから「ヌバン」。「ニバン川」とも呼ぶそうだ。この先に滝がある。アダナデの滝が私を吸い込もうとしている感覚になった。
くねくね曲がりながらカヤックは進む、このまま森にカヤックごと消化されそうだった。この頃になるとペダル式カヤックの操作をすでにマスターし、両足のペダルの微調整も完璧だ。だから私の千鳥足と同じような曲がりくねった川も難なく進むのだ。
Kさんが今日は新月で潮の満ち引きがとても大きい時期だから、午前中はこれからはどんどん潮が引いてくる。帰りはいつも以上に川の景色は全く違うだろうという話をしてくれた。

時々、現れる干潟では、白装束の集団が大きく手を振って私を誘惑してくる。シオマネキだ。シオマネキは熱帯や亜熱帯地域の海岸に生息する2cm~4cmほどのカニで、オスは片方の爪が異様に大きい。その爪を振りかざして手まねきしている。これは求愛行動と言われている。だから、誘惑だ。シオマネキの気持ち的には遠くのカワイ子ちゃんに背伸びしながら「ボクを見て、こっちだよぉ」っと、あっちこっちで猛烈アタック。急にモテはじめた気にさせてくれる。

2016年年末にお世話になった、石垣島のカヌーツアー「吹通(フキドウ)川観光」のご主人が教えてくれたのだが、シオマネキは気温21℃で以下で動きが鈍くなり、巣穴から出て来なくなるそうだ。私も日々そんな生活がしたい。

仲良川の支流に入り15分、川が曲がりくねった所にある小さな干潟にカヤックを停めて、ここからは徒歩でアダナデの滝を目指す。この場所よりも本流にカヤックをとめると干潮で水が完全に干上がり、カヤックを動かせなくなる可能性があるそうだ。それでも西表島ティダカンカンのツアーガイドのKさんは今日は「ド干潮」だから、この場所も不安だと悩んでいたのが印象だった。

干潟に足をおろす。一時間カヤックを漕いだだけなのに、数日ぶりに地面に足を付けたような気になり、妙なテンションで足踏みをしてしまった。そのテンションにトントンミーもとび出す。トントンミーとはミナミトビハゼの事だ。この愛称も石垣島のカヌーツアー「吹通(ふきどう)川観光」のご主人が教えてくれた。日本では奄美大島以南の干潟に生息していて、もちろん、とぶ。とぶと言っても空を「飛ぶ」ではなく、水面を「跳ぶ」。跳んでいる姿は川原遊びの定番、水切りの石にソックリだ。しかも何回もよく跳ぶ、河川敷水切り大会の優勝者が持っているようやお宝級のヤツだ。沖縄では何回か遭遇しているが、これほどお宝の石に化けているトントンミーは見たことがない。

2019年9月に都内で開催された沖縄伝統工芸品をテーマにしたイベントに行った時にトントンミーの箸置きを見つけ、旦那さんと大興奮した。
箸置きを作った本人、沖縄本島のやちむん職人のおにいさんは「トントンミー見たことあるんですかっ!?」と驚いていたが、本島ではあまり見かける機会がないのだろうか。

「トントンミー」なんとも可愛らしいネーミングと音の心地良さだろう。この先、何らかのペットを飼う時が来るなら、その子にとって、どれほどプレッシャーになろうとも絶対、名前は「トントンミー」と決めている。

つづく。

画像1