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カラカラが鳴る

沖縄にはカラカラという泡盛をおいしく呑むための酒器がある。
那覇市内にあるやちむん通りで新しい醤油さしを探していた時のことだ。
大小様々なシーサーが所狭しと並ぶ店が目に止まり、シーサーに吸い込まれる様に店に入った。
店の奥にヒョロっと注ぎ口が白鳥みたいに首が長く、首の根っこからはぽってりと丸みを帯びたカラカラが並んでいる。
一見、醤油さしに見えた白鳥型のカラカラを持ち上げるとカラリと音がするので驚いた。
傾けるとカラリ、振るとカラリ。逆さにしてもカラリと酒器の中で可愛らし音を立てる。
カラカラという名前の酒器があることは知っていたが本当にカラン、カランと音がする。
まるでラムネ瓶のビー玉が入っているようだった。

カラカラの由来については諸説ある。
それそこ、空になるとカラカラと鳴るところからだったり、お酒好きのお坊さんが酒器として倒れない、どっしりと安定した酒器を作ったところ、沖縄の方言で「カラ、カラ(貸せ、貸せ)」と人気になったのでカラカラと名前をつけたという説もある。

私がカラカラの音を楽しんでいると店主の女性が「音が鳴って面白いですよね、陶器玉が入っているんですよ、入ってないカラカラもあります。泡盛を入れると美味しくなるんですよね」と教えてくれた。
確かにきれいに並べられている他のカラカラを手にとって振ってみると無口なカラカラもあった。
醤油さしを探していたはずが、気持ちは陶器玉の音に興味が向き始める。
私はお酒を呑む習慣がないが、最近は日本酒や泡盛の美味しさに気づき、たまに呑む。
少し前には自分専用のぐい呑みも手に入れている。音と共にそんなことを考えていたら、カラカラに入れた泡盛を呑んでみたくなった。
衝動買いである。

迷いに迷い、この店で初めに触ったカラカラを買うことにした。ベージュ色の表面に幾何学的な花模様が印象的な1合用の小さなカラカラだ。
聞けば、30代のやちむん作家の作品だという。
400年以上の歴史があるやちむんが、次の世代に技術が途絶えることなく継承されている事を知り、ホッとした。

千葉の自宅に持ち帰り、早速カラカラに入れた泡盛と入れない泡盛の呑み比べをした。
選んだ泡盛は琉球王朝時代から続く那覇市首里に酒蔵所がある瑞穂酒造の泡盛だ。
ぐい呑みを2つ用意し、1つにはビンから直接泡盛を注ぎ、もう1つにカラカラに入れてあった泡盛を注ぐ。
ビンから直接ぐい呑みに注いだ泡盛は、酒蔵からまっすぐこちらに飛んできたような、今、まさに自分が蔵の中にいるかのような強い香りを感じた。
カラカラに入れた泡盛は飲み口が柔らかく、下の奥のあたりから香りがじんわり立つ。
直球でガツンとノドに当たる感じが少ない。
のんびり長い歴史をたどって、令和までたどり着いたような、おおらからさがあった。

カラカラに注ぐ時に泡盛が空気に触れるから味が変わるのだと味にうるさい夫は勝手な感想を言いながら、ウンウンとうなずき、グビッと両方呑み干した。

どちらの泡盛もそれぞれの良さがあり結局、泡盛はみな旨いというシンプルなところに行き着く。
しかし、私はカラカラに入れた泡盛の方が好みである。
わざわざ食器棚からカラカラを出して泡盛を注ぐという所作も悪くない。むしろ、日常生活においてはそのくらいの手間や余裕は持つべきである。
呑み終わって丁寧にカラカラを洗って水を切る作業も良い。逆さにして水を切るとカラカラが「今日もおつかれさま」と1日の終わりを知られるチャイムのように1度だけカラリと鳴る瞬間が平和的で好きだ。



































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