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久米島紀行①球美の島、初心に帰る島

沖縄本島から西に100km、飛行機に乗ること30分、空を越えると穏やかな空気、独特の景色、水のかたまりを全身で感じる海や琉球王朝時代から流れる琉球古典音楽の一辺に触れることができる。

沖縄県島尻郡久米島町。
沖縄県で5番目に大きく人口約7600人、琉球諸島の中で最も美しい島を意味する「球美(くみ)の島」と呼ばれるほど人を魅了する島である。
ぽっかり浮かぶ球美の島で経験した、あれやこれが私にとって重要な人間活動そのものであった。

久米島の存在を知ったきっかけはスクーバーダイビングである。
ライセンスの取りたてで、潜りたい衝動を抑えきれずにいた私に飛び込んできたのは「スーパーセール、久米島ダイビング!!」と銘打った旅行会社のホームページだった。
沖縄本島とほぼ変わらぬ旅費で離島でダイビングができるらしい。
お得に離島ダイビングが楽しめるなんて、良いじゃないかと、あっさり3泊4日のボタンをポチった。
のちに思う、あっさり押したボタンは心の豊かさにつながる濃厚なスタートボタンだった。

久米島の海の特徴は北側に崖っぷちが続くドロップオフ、南側には高さ約50mにそびえ立つトンバラ岩が有名だ。
ライセンスを取得して初めて潜ったポイントがこのドロップオフが特徴のウーマガイというポイントだった。ド素人そのものの私は海の中に崖っぷちがあるなど知らない。どこまでも続く崖の巨大さと、崖の真下にうっすらとグレーに揺れて見える海底の景色に別人格を感じた。
崖沿いを泳ぎ続け、暗やみで生活する鮮やかなスミレナガハナダイの赤と白の模様に心が弾んだ。
ダイビングの後半、崖から水深5mの棚状の地形に上がる頃には深さに慣れ過ぎ、曇り空にも関わらず、海の底とはまるで違う、まばゆい光が差す浅い水深でフワッと体が浮く感覚を覚え怖くなった。急浮上するのではないかとハラハラしながらも、目の前には太陽の光を浴びたオレンジやピンクのキンギョハナダイの群れが広がり視野を独占する。世界中からかき集めたルビーやトパーズの宝石を散りばめた様な魚たちの世界は、まさに球美の海だった。
毎回、ウーマガイのドロップオフから水深5mの棚に上がる瞬間はゾワッとする緊張感とハナゴイの舞いにボーッと酔いしれる感情が同時にわき上がる。

数年後、ダイビングの本数も30本を過ぎる頃には棚に上がる瞬間の恐怖も薄れ慣れたものだ。しかし、毎回水深5mにある棚とハナゴイの群れを目にすると、安全なダイビングの先に美しい海があるのだと初心に帰ることができる。

ここ数年、久米島の海に潜る機会がない。
それは残念なことであるが、初心を思い出せる海があることは、何より幸せなことだ。