コロコロコミックの『カシバトル』をただの児童向けバトル漫画と甘く見てはいけない
・嘘を10年以上描き続けた作者が描く新たな物語〜それはお菓子なキッカケからだった〜
去年に開設されすっかりおなじみになったwebマンガサイトの週刊コロコロコミック。今ではすっかりサイト内での代表作となったコロコロ初のラブコメ『ぷにるはかわいいスライム』をはじめとしたオリジナル作品に、かつて本誌で連載していたレジェンド作品である『炎の闘球児 ドッジ弾平』の正式続編であり弾平の娘・弾子が令和のSNSに色んな意味で大旋風を巻き起こす『炎の闘球女 ドッジ弾子』も加わり様々な話題を提供している当コンテンツだが、同じく配信している過去作レジェンド作品でひときわ周囲からの注目を浴びる漫画…吉もと誠 作の『ウソツキ!ゴクオーくん』は既にご存知だろうか?
「100話以上あるのに一話から最終回まで全部ずっと面白い」と既読勢が言ってるのは決してウソではないというほどに毎週更新される度にあっちゃこっちゃで「コロコロでこんな面白い漫画あったのか!!」と衝撃と感動の声が響き渡り、自分も待ちきれないと単行本を購入しあまりの面白さに感想記事をnoteに合計10万字以上になるほどに書きまくってしまったのだった。大袈裟かもしれないが自分が今までの人生において読んできた漫画の中で一番面白い作品だとウソ無しで思ってるくらいだ。
……さて、そんなゴクオーくんだが“最終回まで面白い”とあるように10年の連載を経て既に完結した作品になっている。そしてこの後に作者・吉もと誠先生は新たなる漫画を描き始めた……その名は『カシバトル』!
この漫画、もともとは『ウソツキ!ゴクオーくん』内にて登場する“ある人物”が描いた漫画、いわば劇中劇が本当に連載したという一風変わった出自である。これもある意味で「嘘(フィクション)から出た真」といったものだろう
そんなカシバトルだが月刊コロコロコミック本誌での連載から週刊コロコロコミックへと移籍することになった(週コロでのゴクオーくんの人気を見てこちら側に移ったのだろうか?)そしてその準備のために本誌掲載分の11話までを週刊配信し、そして2023年1月5日から続きになる新たなる物語をスタートすることになった。自分もその11話までを読み、確信を得たのだ……この漫画もめちゃくちゃ面白い、と。そしてみんなもゴクオーくんだけでなく同じく木曜日に配信される今作を読んでほしいとこの度また筆を執り書くことにしたのだった。ということで刮目せよ!
・コロコロコミックにて描かれる壮絶なるポストアポカリプス〜『ちょっとだけの幸せ』を奪うということ〜
さて、このカシバトルなる漫画はいわば「お菓子の力を用いて戦うバトルもの」である。チョコレートにポップコーン、ガムやラムネに煎餅と我々にもお馴染みのお菓子を菓子能力者が摂取し武器とし、使用する菓子も現実でもある商品のパロディになってたり中には現実でも販売しているチョコレート菓子『キャラパキ 発掘恐竜』もコラボとして出てきたりする。
…最初にその設定を聞いた自分は正直なところ「コロコロコミックなる児童向け雑誌としての枠で収めたようなネタだし、定期的に出てくるも一年程度で終わってしまうありふれた凡百の漫画みたいだなぁ」とそこそこ辛辣な印象を持ってしまった。それこそ上の吉もと先生がカーくんに聞いた際の印象と全く同じ。しかしカーくんがそこに加える要素…「お菓子禁止令」に吉もと先生は強く惹かれた!そんなお菓子禁止令を強制し市民から菓子を奪ってくる敵対組織「オアズーケ王国」がのさばる2121年の世界においてお菓子を取り戻すために主人公である鐘木チョコは戦うのだ!
「いやオアズーケ王国ってずいぶん間の抜けた名前だな…それにやってる悪事がお菓子の略奪“だけ”って規模がしょぼすぎるし…」未だに自分はそう捉えてしまった。まぁ所詮はコロコロコミック、メイン読者層である小学生児童にも分かりやすい名前になるもんな……それに週コロ配信前から読めていた1話にて出てくる敵のポテト男爵が愛嬌もある憎めないおじさんな見た目と口調をしており(普通に邪悪です)正直なところその頃は彼ら敵サイドが振り撒く悪行を大したことないものだと思っていた……
そんなこんなで2022年7月28日、週コロでゴクオーくん21話が公開され大賑わいを見せる最中にちょうどカシバトル単行本1巻が発売されたので自分も購入した。そしてそこで初めて読んだ2話以降において……この漫画の真の恐ろしさを早速味わわされた!
「……ボクはね…、お菓子屋さんだったんだ。ボクの店にはいつもたくさんの笑顔のお客さんが来てくれてね。かせぎはあんまりなかったけど…、楽しくて幸せな毎日だったよ。」
「でもね、お菓子禁止令が出たとたん、菓子取団のヤツらに目をつけられて…、店のお菓子をすべて盗られ…、店をツブされてしまったんだ…!!」
復讐なんだよォ!!
だって、そうだろ…?なぜ、お菓子屋“だけ”なんだ……、なぜ?お菓子屋のボクだけがこんな目にあわなきゃならない!?
ボクは自らオアズーケ王国に入ったのさ!結局自分“だけ”幸せならそれでいいと思ってる…、おまえたちを不幸にしてやるためになァ〜!!
「悪いのは理不尽を強いてきた者達なのに、それ以上に信頼してた人たちから裏切られた事実に絶望したので、自分自身も理不尽を強いる側に与する」なんておぞましい地獄の連鎖をいきなり出してくる。俺は思い出した……そもそも吉もと先生の前作ゴクオーくんも『ウソ』というひとつのテーマでありとあらゆるレパートリーで心をガツンと打ってくる人間ドラマをこれでもかと見せてきた……そんな無限の引き出しを持ってるような作者が興味を示した「お菓子禁止令」なるかわいらしくも聞こえる設定をどう料理するかといったら善良な人間がここまで堕ちてしまったという洒落にならない“悪”を引き出せるまでになる。もちろんこのリカルドさん以外にもオアズーケ王国の悪は容赦なく撒き散らされ……
作者は本気だ……オアズーケ王国なんてちょっとばかしかわいらしく聞こえてしまいそうな単語だろうと、その「お菓子を奪う“だけ”」という設定から骨の髄まで『悪』という出汁を取るつもりだ!人々の生活を、子どもの清らかな夢すらも叩き潰す悪行の数々……もはやユルい名前だと笑うことすら許されない。そしてその悪の組織オアズーケ王国に君臨するオアズーケ王は自分の想像を遥かに超える悪だった!!
「その気になれば全人類の生殺与奪すらも思いのままにできるが、お菓子の禁止“だけ”で済ませてる」というラスボスとしての格を悪辣極まる形で見せつけてきた。そりゃ直接的な殺戮まではしてないとはいえあんた本当に児童向け漫画の敵っすか?(いまさら)まさしくこの世界は圧政という暴力に敷かれ夢も希望も奪われた世界……さながら『北斗の拳』や『覚悟のススメ』のような、コロコロでお出しできる類のポストアポカリプスであろう。お菓子を禁止されてるだけなのにここまでえげつない描写に仕立て上げる吉もと先生の漫画力の高さを改めて知ってしまった……
「カレーライス、天ぷら、お寿司に甘〜い卵焼き…。この世には十分ウマイ物があるじゃないか。なぜお菓子のためだけに命をかける?バカじゃないかと思うよ。」
お菓子を食べたときの“ちょっとだけの幸せ”の気持ち、そんなモノのためにがんばるなよ。もっと視野を広く持ってさァ、世の中から大きな幸せを見つけろよ…な?
$${\tiny{まちがったコトいってる?}}$$
……しかしもう一度言うようにオアズーケ王国が規制するのはお菓子“だけ”…お菓子以外のおいしい食べ物(それこそ原料になる砂糖などを用いる甘い卵焼きすらも)までは奪わないのだ。あくまでお菓子と、それを食べた際に湧いてくる“ちょっとだけの幸せ”を禁止するだけ。お菓子なんざ言ってしまえばただの嗜好品…食わなくても別に生きていける蔑称エンプティフード(空っぽの食べ物)に過ぎない。それを奪われたって他にも幸せになれる手段はいくらでもあるじゃないか、それなのに何故“ちょっとだけの幸せ”を守るために死にそうになるまで刃向かうんだ?バカと言われたらまさしくそのとおりかもしれない。『ウソ』というテーマにウソつかず大真面目に向き合ってきた作者だからこそ、『お菓子』というテーマにおいて「別に食べなくてもいい」という避けて通れない視点を逃げずに向き合う。これこそが吉もと誠……テーマに対しひたすらに真摯な作風である。
しかし、彼らはそれでも立ち向かう。なぜなら……
・お菓子を通じて描かれる人々の『想い』そしてそれ故の“強さ”〜空っぽだからこそ、ありったけの想いをつめこんで…〜
作者である吉もと誠先生はたびたび「自分は子どもの頃、大好きな漫画たちに人生を救われた」と言及していたりする(ゴクオーくん最終巻のあとがきとか)。漫画はいわば娯楽作品……嗜好品であるお菓子と同じく「無くたって生きていける」そのものであり、それこそ人によっては教養がつかない無価値だの切り捨てたり、さらに酷けりゃ有害図書だのと取り上げようとする者達だっている。しかし、しかしだ…誰だってそんな「無くたって生きていける」ものたちに触れて、ある時は一人ある時はみんなで楽しかった想い出を初めとした様々な“大切なもの”を感じたりしたのではないか。その体験は確かに自身の学業や仕事といった人生における本流へ直接影響を与える訳ではない……だからといって必要なしと他者から切り捨てられる謂れはどこにもない、そこで得た“想い”というのは確実に存在するのだから……
そしてこの「お菓子を通じて生じる“想い”」こそが今作『カシバトル』の忘れてはならない特長がひとつと自分は考えている。人生において絶対必要という訳ではないお菓子、それこそエンプティフードと呼ばれても仕方ないところはある……空っぽだからこそお菓子に対する“想い”をありったけに込められ、それ故にいくらでも強くなれる。何いきなり言ってるかと思うが、それについては1話「菓子能力者チョコ、見参!!」のとあるシーンを見てもらいたい。
一見するとこのバトル漫画でよくありそうな「応援する仲間からの気持ちを頂きフルパワーを発揮し逆転する」という流れ、白状すると自分は当初「流石に一滴からあんな大量のチョコ出せるとか物理法則無視しすぎでは…?」といかにも無粋なこと思ってしまったりしてた。しかし今見ると分かる……ポップンが「勝ってくれ」と込めて託した莫大なる量の“想い”が、僅か一滴のチョコレートだろうと乗算されて一枚の板チョコに匹敵するエネルギーと化しチョコは満福になれたのだ。つまりはこの展開…バトル漫画のご都合主義で片付けても別に問題なさそうな描写なのだが、作中にて提示される「お菓子を通じて生じる“想い”」というロジックに当てはまっているから非常に説得力のあるものになっていると自分は感じ取った。説得力があるというのは読者にとって描写に対し腑に落ち納得がいく…そこから理解・共感が生まれ読者は作品に対しての信頼が発生するものである。ゴクオーくんにおいてもそこらへんの描写(ウソついた人物がどうしてやってしまったのか等)を徹底して描いてたのが自分としては安心して読めたように……この描写の連続性に気付いた途端に今作に対しての“信頼”が生まれたのだ。最初はちょっとばかし疑ってすいませんでした……
(ぽた子さんは言ってくれた!オレを含めた、みんなが幸せになってくれなきゃ悲しいと…!!みんな…みんな…?外祖店長もか?コイツを含めた…。)
この『カシバトル』なる漫画はお菓子を武器にして戦う、ならば「『お菓子』とはなんなのか」と徹底的に向き合い、そして「生きるうえで絶対必要ではない嗜好品だからこそ、込められた気持ちがダイレクトに届く」と描いてる。そしてそんなお菓子を用いたバトル漫画ならば……戦闘中に仲間と分かち合う気持ちや想い、そして時には敵とも武器を交え通じ合う『心』が直接強さに変わるということだ。バトル漫画のおいしい所をめちゃくちゃ説得力ありに出せるという天才の発想すぎる。
チャーリーが教えてくれたんだ…。
お菓子が作り出す『心』が必ずあると!
だから、オレはお菓子を食べる者たちの笑顔を守る!!
だからこそチョコ達は戦う…お菓子を通じて得られる楽しい想い出や嬉しい気持ちを規制し奪い取ってくるオアズーケ王国と…「たかがお菓子、生きるうえでは別に必要ない」とで済まさず、生きるために必要な夢や希望を与えてくれるかもしれない存在として守るのだ。大袈裟かもしれない…否、大袈裟なんかじゃない。まさしく人々の自由と平和のために戦う者たちの物語……それこそが『カシバトル』なのだろう。
・おわりに〜そして週刊連載へ…〜
いかがだったろうか?今回はちょうど本誌連載ぶんが終わり週刊連載へと移る節目に(貴重な年末年始休みを使い)(ポケモンSVプレイ日記の途中なのに)『カシバトル』の見所を書いてみた。吉もと先生も月刊連載より過密になるだろうと作業効率を上げる為にアナログからデジタルに移行したりと本気で挑みにかかっているので是非とも応援していきたい。それにまだ色々気になる部分はたくさんあるし……具体的に言うとレモネドの正体とか…ぽた子さんとどうなるのか……
てなわけでカシバトル改め『KASHIBATTLE』は2023年1月5日から毎週木曜日更新!新たなる物語を刮目せよ!!
《追記》
さ……流石にここまで面白くなるやつがあるか!!!!いやね、マジですごい。週刊コロコロコミックは本誌のターゲット層より上…いわばSNSを利用できる年齢層も対象にしてるけど、そんな所に本誌の枠内でさんざんとんでもない物語を見せてきた作者さんが描いたらどうなるって……?そりゃもうね、さらにすごくなるに決まってる。吉もと誠………恐ろしすぎる御方やわ……
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