キスの日
薄っぺら男は自分の鼻を拭いたそのハンカチでずんぐりむっくりの鼻水も拭った。
薄っぺら男
あ〜あ〜、兄さんの任せとけ…それは呪いの言葉でしょ。兄さんは火傷して母さんは再婚して、なにもかも変わっちゃた…
任せて良いことなんて一つもないよ。派遣のその日暮らしの兄さんにさ、医者の知り合いでもいるの?
医学知識でもあるの?気休めのいい加減な言葉なんて聞きたくないんだよ。
なのにまたその言葉を聞くとは思わなかったな…
今、駄々をこねて、ポッペタを濡らしている弟は幼いあの日の弟となんの変わりもないかわいい弟だ。母さんの再婚相手の父は、
真面目な男だったけれど甲斐はなく、大学進学を諦めた自分。弟にだけは同じ思いをさせたくはないと、土方をして仕送りした金も生活費にしてしまった父。
それでも弟は高校を卒業し、メーカーに務め、通信大学を卒業した。自分とは違う、社会の役に立つ人間だ。
真面目に勉強と仕事に明け暮れて、まだ彼女もいない様子で、甘いキスの味も知らないのだろう。
死なせたくない、変わってやれるものなら変わってやりたいとずんぐりむっくりはまた涙を流した。
つづく
大変貧乏しております。よろしかったらいくらか下さい。新しい物語の主人公を購入します。最後まで美味しく頂きます!!