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西海岸SFベイエリア3泊旅行。日曜の話。March 2024.

日曜日。

さて。この西海岸旅行の隠れたテーマは "Rise of the Planet of the Apes" だった。春休みに帰ってきたムスコと一緒に見た映画。"Caesar is home." と言った、あの場所は Muir Wood National Monument とわかり、「ここに行きたい!」と友達にテキストしたのである。

かの Golden Gate Bridge も映画にでてくる。人間と真っ向から対決するCaesar 率いる猿の軍団。Caesar は戦略家でリーダーだから、Koba は(橋の)上へ、Maurice は下へいけ、と指示をする。そして、ある時点で上からも下からも次々と現れる猿に襲われてしまうのが人間よ。

なんで人間達が猿に襲われてるシーンで私が興奮するのか意味不明かもしれないが、私は「団結して立ち向かう」というシナリオに弱いのだ。究極のところ、結果が勝っても負けても構わない。「全員で志をひとつにして団結して戦う」っていうのがスキなのだ。

新選組を嫌がる人もいるが、彼らの思想の方向性がなんであれ、終始一貫して「尊王」で団結して、というところに魅了されてしまう。土方歳三が残虐非道だろうが、いい男だし腕は立つし、函館五稜郭の最期まで終始一貫している。近藤勇はちょっと政治的すぎるがリーダーとしてはそれも必要だったろうし、沖田総司は剣に対してまっすぐで純粋。

同時に。私は坂本龍馬の独創性と柔軟性にもベタ惚れに惚れている。

つまり。信念があってそれをとことん最後まで貫く人がスキ。

さて。
ワイナリーからの帰りに Golden Gate Bridge を通り、私は大興奮した。ハンバーガーを買って帰って、絶対に映画を見てから、Muir Woods に行ったほうが楽しい、と主張して彼女はしぶしぶ合意した。

私がフライトで "Argentine, 1985" を選んで観たことに驚いていた彼女だから、明らかに映画の趣味は私とは違う。でもそんなことはどうでもいい。

「ここ大事なトコだから!」などと注意を促す私。
彼女いわく、橋を渡ってからそんなにすぐに Muir Woods には着かない、らしい。

さて。翌日。
橋に向かう。「ほら、あのシーンよ!!」と叫ぶと、彼女が笑う。
そして、彼女が指摘した通り、橋を渡ってから森につくまでに1時間はかかった。なるほど。

「でもさ、猿だから直線で移動できるじゃん!」
「あぁ、そうか。そうかもね」

なんて楽しいんだ。

途中にある、金持ち地区のスーパーでサンドイッチを買っていこうという話になっていた。
「なんで、ヨーロッパ産のお菓子がこんなにたくさん売ってるの?」
「だからー、金持ちがいる街だから」

なるほど〜。
二人で別々のサンドイッチを選んで半分ずつ食べることにした。

そして。ついに、憧れの Muir Woods National Monumentへ到着。
Caesar が初めて連れてこられた時、彼は犬のように首輪をつけられていた。
サンフランシスコ警察をあの橋の上で木っ端微塵にして、仲間とこの森に戻ってくる。

"Caesar, this is not the way. Let's go home. I will protect you." 
"…Caesar is home."
そう言って、彼は育ててくれた人間よりも猿の仲間を選ぶ。


木から木へと猿が飛び移るシーンを思い出す。
ボスのCaesarは誰よりも先に一番高い木のてっぺんまで一気に駆け上る。

空手三段の彼女は身体が締まっている。そして、あまり食べない。というか一度に食べる量が少ない。小さい頃から、すぐにお腹がいっぱいになるらしい。本格的なハイキングコースを選んで歩き始めると、どうも私のペースが速すぎるようなので、交代して先導するように言う。

人気がないので心細くなってきたらしく、携帯を見てシグナルが全然入らなくなったと言い出す。私はこういう時に迷うとかいう不安に襲われることはまずないといっていい。そもそもこのハイキングコースは目印のマーカーがなくても絶対に迷わないとわかるくらいはっきりと歩くべき道が見えている。

「子供たちにここに来るって言ってない。言っておけばよかった」
「うちの子達、知ってるよ。シーザーの森に行くって言ってある」
「由香璃の子供と、私の子供と紹介しておけばよかったなぁ」
などと言っている。遭難するつもりらしい。

そして。そのうちお腹が減ったと言い出した。突然に。もうちょっと歩けばベンチがあるようなピクニックスペースがありそうな気がしたのだけど、なんか今すぐ食べたいという切羽詰まった気迫みたいなものを感じたので、文字通りその道に座って食べることにした。

自分たちが立ち止まると、後ろから来ていた人たちがどんどん通り過ぎる。いい年した私達が、文字通り地面に座り込んでサンドイッチ食べてるのを、おもしろそうに見て、にっこりと笑って挨拶する。

どうも彼女はお腹がすいていたせいもあって、気弱になっていたらしい。食べたら元気になったし、きっと他にも歩いている人がいるとわかって安心したんだろう。

そのあと、歩きながら、彼女が言ったことがおもしろかった。しょっちゅう日本に出張する彼女いわく、日本人は「我慢してみんなに合わせる」ことが多いんだそうだ。例えば、ちょっとお腹すいてきたけど、もう少し我慢すればみんなと一緒にランチが食べられるとか。「でも、私は今もうお腹すいてるんだもん。なんで合わせなきゃいけないの?」と彼女は言う。「うん、わかるよ。だからちょっと歩けばベンチとかあるんじゃないかと思ったけど、さっきのタイミングでサンドイッチ食べたじゃん。お腹すいたんだな―と思ったから」と言ったら、彼女は笑った。

食事に関していえば、私は「日本人に」合わせられると思う。
それか合わせないで勝手にやる。でもそれは「職場」ではムリなのかもしれない。
あ、トイレは待てないけど。笑。

海外に住む日本人である私達は「出羽守」と言われているらしい。「アメリカでは」「ドイツでは」「フランスでは」と主張して、日本に住む同胞日本人に煙たがられているというのである。ようするに、そんなにその国がいいのなら日本から出ていけとか日本のことに口出すな、ということだろうか。そして、私達がそんなだから日本国内の日本人の協力を得られずに、「二重国籍」問題なんかが全然進歩も解決もせず、現在に至る、ということらしいのである。

今騒ぎになってる「共同親権」の話。
友達が「共同親権でも夫婦別姓でも二重国籍でもなんでもいいから、とにかく少しでもいいから前に進んでほしい」と嘆いている。

まぁそうだよね。全然何も変わってないよね。

へぇ。私はアメリカのほうが日本よりいい、なんて思ってないし、日本のほうがアメリカよりもいい、とも思ってない。どんな国でもいいとこと悪いとこがあって、その「いいとこ」と感じる場面が人によって違うのも当然のこと。

でも。それは私が長いこと日本に帰ってなくて、この前ひさーしぶりに帰って満喫してプラスのイメージしかないからなのだろうか。どうなんだろう。


余裕で3時間以上は森のなかを歩き回り、帰途につく。普段使わなかった筋肉を存分に酷使し、森林が放出してくれた新鮮な空気をいっぱい身体に取り込んだ感じがする。

夕食何にしようという話になり、SPAM という缶詰に入った得体のしれない肉の話になり、コンビーフみたいなのじゃないの?というと違うという。ぶよぶよしているらしい。私がそんなの一度も食べたことないと言ったら、信じられない、じゃあ私が食べさせてあげる、と最後の夜は家食ということになった。

日系のスーパーに行き、野菜の棚の前で立ち止まっている。どうも私になにか作ってもらいたいらしい、と気づく。
「アスパラガス、好きなのよ。よくスチームする」
「げ。スチームするの?炒めたほうがシャキシャキで美味しいと思うけどなぁ。作ってあげようか?」
「うん!他には、何がいい?」
「キノコ数種類を醤油バターで炒める?」
「うわー、美味しそう」
「いいよ。そんなん15分もあれば両方できるから」

おつまみ風にしたいから、浅漬も買う。私は柴漬けがよかったけど、彼女は酸っぱいのが嫌い。

というわけで。彼女が西海岸の日系人が集まる時に必ず誰かがもってくるという SPAM のおにぎり/おすし、とカリフォルニア巻を作ってくれることになった。

カリフォルニアロール。
なんと。カリフォルニアでは、アボカドとカニかまのみ。
私のいる東海岸では、それに加えてきゅうりも。

えー。きゅうり入ってなかったら歯ごたえないじゃん!と反論したら、
そんなのはカリフォルニアロールではないと一刀両断された。

SPAM。得体のしれない肉。でも、この SPAM で第二次世界大戦中にアメリカ兵は栄養をとり空腹を満たしていたらしい。そうか SPAM も大国アメリカのもつ豊富な資源のひとつだったんだ。どうも豚の肩肉とハムの混合らしいとわかる。凄まじい脂肪分と塩分。こんなもの私が食べるわけがないし、子供たちに食べさせるわけがない。

でも。私はなんでも試す人だから、料理の苦手な彼女が私のためにせっせと作ってくれたソレを食べてみた。

しょっぱい。

その一言に尽きた。すでにそれだけ塩分入ってるのに、なんでさらにみりんと醤油で炒めるのかわからない。甘くしようとしてるのだろうか。
一方で、彼女の作ったカリフォルニア巻はとても美味しかった。

呑兵衛の彼女は、大喜びで大好きなアスパラガスとキノコをつまんでいる。

「ねぇ、まだたくさんアスパラ残ってるよね」
「うん、1/4くらいしか使ってないよ」
「…….」
「もっと、炒めてあげようか?すぐできるよ」
「作ってるとこ、見てればよかった」
「簡単だよ。炒めてるうちにキレイな緑になるから」
「あのさ、全部炒めてくれたら、私、二日くらいかけて食べる」
「(笑)いいよ。作ってあげる」

そして。ワイングラスをもつ彼女の目の前で、私は残りのアスパラガスを切って、フライパンにオリーブ油をしき、無意識に手をかざした。
「え。そうやって、温度みるんだ?」
「あー、そうそう。ほら、このくらいあったかくなったらオッケー」
と、彼女にも手をかざすように言う。

ジャッとアスパラガスをフライパンに投げ込み、しゃしゃと炒める。
「ほら、キレイな緑になってきたでしょう。お塩かけて、こしょうも」
「え、そんなにこしょう入れるの?」
「うん。ほら味見してみ」
「え、味見するの?それでわかるの?」
「そりゃそうだよ!味見して、塩加減とか歯ごたえチェックするの」

大量のアスパラガスの塩こしょう炒めができて、それをタッパーに入れて満足そうな彼女。

そんな最後の夜を過ごした。たのしかった。ほんとに楽しい旅だった。

東海岸から西海岸へいくというと、6時間のフライトで3泊だけ?って思う人が多いのだが、友達の家に泊まるということは朝から晩まで一緒なわけで、お互いの生活とかペースがすでにできあがってるこの年齢だから、3泊はちょうどいい感じ。フライトは6時間だけど、ボストンへの電車旅が5時間というのとほぼ同じで、眠れるし読書できるし映画みれるし食べられるしトイレに立てるし、家にいる時間とほとんど変わらない。子供がいなくなったせいもあるのだろうけど、不思議な時代に生きている錯覚がした。時代じゃなくて、年齢か。

ちなみに。彼女がウチに来たときの話はコレ。

ただただ好きで書いています。書いてお金をもらうようになったら、純粋に好きで書くのとは違ってくるのでしょうか。