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女義太夫

 2010年4月、高校の同期会に出席しました。

 先日の土曜日は高校の同期会だった。
一昨年、7年ぶりに新潟から東京に戻ってきたので
久々に参加した。
会場は新宿御苑に近いビルの7階、窓から下に
数年前に立て替えられた母校の新校舎が一望出来る。
旧制の府立〇中を引き継ぐ名門都立高校だったが、
今は様変わりして、普通の都立高校だ。
同期の400人中、出席は70人余り。

 大学は理系だったから、同期は殆ど技術者だが、
高校の同期は、商社、金融、官僚、医者、弁護士、
大学教授(法学部、文学部、医学部など)、
果ては、女性僧侶までいてバラエティーに富んでいる。

 歓談の間の余興で、恰幅のよい和装の女義太夫が登場する。
彼女の語りは会場の喧騒でよく聞こえなかったが、
その道ではそれなりに知られたプロらしい。
出席者名簿に書いてある旧姓を見て、半世紀前を思い出す。

 当時、彼女は中肉中背で、我々は密かにベティーと呼び、
もう1人、ほっそりした背の高いオリーブと共に、
クラスの男子には人気があった。
日本舞踊の名取で、立ち居振る舞いが滑らかな上に、
表情も話も落ち着いており、大人の雰囲気がある。
(と、思っていた。)

 当方は、密かにベティーに憧れていたが、
そこは純な高校生、内に秘めて、誰にも言わなかった。
それでも、適当な理由をつけて、是非にと頼み、
一緒に映画を見て食事、つまりデートをしたことがある。
彼女は終始余裕があり、こちらよりはるかに大人、
気おくれしてしまい、それ以上の進展はなかった。

 改めて演技中の女義太夫を眺め、
この恰幅の堂々としたおばちゃんがあの時の彼女だったかと、
あまりの変わり様に、衝撃(?)を受ける。
余興の後、ワインを飲みながら歓談していると、
義太夫が、向こうからこちらをちらちらと見る。
誰だか分からないのか、分からないふりをしているのか、
それこそ分からなかった。


 追: その後、ネットで調べると彼女は世に知られた女義太夫で
   叙勲の記念公演の案内もあった。
   雲の上であることは、当時も今も変わらないようだ。

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