己の未熟を恥じる

未熟を恥じる。

先日、大人になることについて、こんな記事を書いた。

アドラー心理学の『幸せになる勇気』を読んで「大人になるには勇気がいるんだ」と気づかされた経験を書いた記事。

これをまとめている途中で、内田樹さんのこのブログを見つけた。

アドラーが「教育の目標は自立」と語るように、樹さんも「教育の目的は、子どもを成熟させること」と語る。

アドラーが教育は仕事ではなく、信頼に基づく交友関係を学ぶ場だというように、樹さんも「教育現場から市場経済の思考と語法を一掃せよ」と断じる。

そして、面白かったのは、テストの意義に関する以下の記述だ。

学校でのテストの点数は「その意味や有用性がよく理解できないことを黙って学習する能力」の指標である。これはまぎれもなく、市民的成熟への一階梯である。
初等教育においては「言われたことをやる」能力が「言われても納得できないことは拒否する」能力よりも優先的に開発される。

当然のことである。六歳の子どもに「拒否権」を認めたら、たぶん相当数の子どもは学びを選択しないからである。

児童館で中高生の学習会の担当になった当初、僕は「勉強なんてしなくていい」という考えをもっていた。机に向かって勉強に取り組ませることが、子どものいきいきとしたエネルギーを削ぐように思えていたからだ。

その考えは半分正解だった。
勉強よりも交友を重視した昨年度の学習会は、子どもたちとサポートする大学生たちとの交流の量が大幅に増え、信頼関係を育んだ。

その結果、この記事に書いたようなウソみたいなことも起きた。

けれど、今年度になって「勉強しないままの子」が気になってきている。
あまりに圧がかかっておらず、生きていく上で必要な筋肉が育っていないように思えたのだ。

「意味や有用性がよく理解できないことを黙って学習する」
これはあってはならないことだと思っていたけれど、市民的成熟の一歩目だと言われて、なるほど、と思った。

けれど、すぐさまこう続く。

けれども、それ以上のものではない。
そこにとどまっていてよい階梯ではない。

むしろあまりに長期にわたって、「学校のテストの点数」を安定的に高く保っている子どもがいたら、その子どもはどこかで成熟の行程が停止している可能性を吟味した方がいい。

受容と反発はその順番で繰り返される。何度も何度も繰り返される。
それは昆虫が脱皮するのと同じである。
だから、就学中にはテストの点数が「上がったり、下がったり」することこそが子どもが健全に成熟していることの指標なのである。
「上がったまま」も「下がったまま」も成熟停止を告げるアラームである。

「年長者が『いいから、黙ってやれ』と告げたことについては、判断を保留して、とりあえず受け容れてみる」というマインドを身につけた子どもは、次に「年長者が『いいから、黙ってやれ』と告げたことについても、『納得できなければやりません』と言い返す」力を身につける段階に達する。

そのどちらも必要で、受容と反発を繰り返しながら子どもは成熟していくと樹さんは語る。

そして、この意味で、テストの点が「上がったまま」なのは、成熟停止を告げるアラームなのだ。

そういうことだったのか! と思った。

僕自身は「上がったまま」の子どもだった。
小学生のときには勉強しなくても点数がよく、中学でがくんと下がって悔しくて塾に入り、それからはずっと成績上位を保って社会人になった。

社会人になってからも優秀であろうとした。
誰よりも先に昇進試験に受かろうとしたし、事実受かってきた。

でも、その道は人との関わりを拒絶し「自分さえよければいい」という態度を強化した。優秀な成績と引き換えに、僕は「そこに人がいる」という実感を長きにわたって喪失していた。

これは「人がいる」という感覚を取り戻したときの記事。こんな大げさなことまでしなければ「人がいる」世界に戻れなかったのだ。

そして、二十歳を二周したいまもまだ「大人になるってどういうことか」なんてことを言っている。

大人がつねに自分の未熟を恥じる文化からしか、子どもを成熟に導くメカニズムは生成しない。

僕は「自分は優秀である」という隠れ蓑の後ろで、自分の未熟さを直視し恥じることを避けてきたのかもしれない。そのツケをいま払っているような気がする。

「歳をとるにつれて、なんだか世の中が幼稚になってきたなあ」と感じることがあったのだけれど、それはかく言う自分自身が未熟であることを恥じなかったからかもしれない。

子どもが子どものままにとどまっていることを許した共同体は人類史上一つも存在しない。

存在したのかもしれないが、消滅して、今は存在しない。

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