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傷を隠さないでいいよ。

いや、昨年の B’z の30周年ライブ『HINOTORI』のDVDを買って観てたんですがね、これがもう泣かずには観られない。

僕はライブそのものより裏側を追ったドキュメンタリーの方が好きなんだけど、今回のドキュメンタリーには ”伝説” と呼ばれた9月1日のヤフオクドームでの公演の模様も入っていた。

最初の二曲で声がボロボロになって、歌えなくなる稲葉さん。
なんとか振り絞ろうとするも、三曲目『ミエナイチカラ』で中断。

10分ほどして再びステージに登場した稲葉さんのMCは、もちろん台本なし。

あんまり素晴らしくて、思わず文字起こししてしまった。
こういうときに、人の「素」って出るのだと思う。

***

皆さん、ごめんなさい!
こんなに集まってもらったのに、謝っても謝りきれません。

ちょっと、いい感じの声を皆さんに聴かせられなくて、一回引っこみましたけれども、これがこの後、スパーンとまた美しくよみがえるかっていうと、自分でもちょっと、自信がなくて。えー……

(と黙ってしまうが、客席からは大きな拍手)

でも、あのまんま終わらせるわけにはいかないし、歌いたい気持ちはたぶん、いままで以上にあるんですよ、私。(拍手)なので、ちょっと、あのこんなことやったことがないんですけど、歌います。歌うんですけど、やっぱり「こんなんじゃ金払えねぇよ」って感じになれば、やめます。そして、途中でやめた場合はちゃんとこの埋め合わせはします。(拍手)

なので、尻すぼみでも終わりたくないし、ちゃんと次にやる予定の曲、それをちょっと、歌わしてください。(拍手)

皆さんに頼るつもりはありません!(拍手)

ひどい歌を、ねえ、聴かしちゃプロとしては失格ですけども、今日の僕の姿、見ててください。

***

と言って、歌い出したのが、なんとこのフレーズ。

Oh my 裸足の女神よ
傷を隠さないでいいよ
痛みを知るまなざしは
深く澄んで もう萎れることはない

この出来事に関係なく、もともとこの位置、この順番でこの歌い出しだったようなのだけれど「傷を隠さないでいいよ」というところは、まさに稲葉さんそのもの。

そして、不思議なことに、稲葉さんの声は復活する。
で、この曲を歌い終えた後の語りが、ザ・本音という感じでたまらない。

***

まだ生きてるわー。

こんなのはじめてだ。
こんなことある!?

えっと、ライブっていうのはねえ、あのー、なにもかも忘れて、自分たちが普段、なんかいやなことがあったとしてもそれを忘れて楽しみに、わざわざ自分の時間を割いて皆さん来てくれてるわけですから、そんなとこまで来てまた人の心配しなきゃいけないっていうのは、最低ですよもう!(場内笑)

これ、なにやってくれてんだって感じでしょ?

でもなんか、あのー、皆さんの力をもらいながら、自分の中にまだ残ってるエネルギーが、あの、少しずつ、流れ出はじめてるのを自分は感じてるんで(拍手)、今日はなんかそういう、ドキュメント的な楽しみ方をしていただいて(拍手)この B’z というバンドの生き様を皆さんに見ていただけたらなあと、思います。

とにかく今日は言い訳せずにやります。いけるとこまでいきます。
厳しい目で見てやってください。最後までよろしく!

***

「今日の僕の姿、見ててください。」
「言い訳せずにやります。」
「厳しい目で見てやってください。」

いかに高い意識でステージに臨んでいるかがひしひしと伝わってくる。
そして、その稲葉さんを見つめるギターの松本さんのまなざしがまたいい。

そして、このまま稲葉さんは本当に最後まで走りきってしまう。
冒頭の声では考えられないことだ。まさに「火の鳥」。

そんな稲葉さんを指差しながら、終盤、松本さんはこう客席に語る。

「スゴイよな、ホント」

心からのリスペクト。いやいやと恐縮する稲葉さん。
「いいなあ、この関係」とつくづく思った。

その後に歌われたのが、なんとこれ。

ベッタリくっつくのは好きじゃない
いざという時 手をさしのべられるかどうかなんだ
だからなんとか ここまでやってこれたんだ
You know what I mean

Brother 生きてゆくだけだよ
ためらうことなどなにもないよ 今更
(B'z『Brotherhood』より)

ブラザーフッド。兄弟愛という意味の曲。
不調の稲葉さんを見守る松本さんは、本当にお兄ちゃんのように見えたし、すいませんと謝る稲葉さんは弟のようだった。しかもベッタリしていない、互いをリスペクトしながらの兄弟愛。

期せずして、こういう生き様がむき出しになる瞬間を映像化してもらえたのは本当にありがたかった。しんどい時なんかにまた観て「あの時の稲葉さんを思い出せ」と力をもらおうと思う。

本当にスゴイわ、B'z って。

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