留学:9月の月例報告

1.学習状況の報告
ANTROPOLOGIA DEL DESARROLLO
(開発人類学)

まず、ラテンアメリカの発展の歴史や特徴を学んだ。コロンビア人人類学者Arturo Escobarの文献では、欧州・アメリカなどの第一世界の発展・搾取により、ラテンアメリカを含む「第三世界」が誕生したことを学んだ。ペルー人社会学者Aníbal Quijanoの文献では「Colonialidad del Poder」という概念を学び、植民地時代の人種・経済的格差が現在にも残り、さらに資本主義システムがその格差を助長しているということを学んだ。次に、1940年代から現在に至るまでのメキシコにおける発展(政策)と先住民の関わり、人類学者による先住民文化の保護運動の歴史等を概観した。「ひとつの祖国のもとに複数の文化は存在しうるのか?」「共通の祖国を持つことは他文化に排他的になることを意味するのか?」といった議論をして、文化の共存の難しさや政策のジレンマ等を理解した。

今月はラテンアメリカ出身の研究者の哲学や思想にたくさん触れることができ、とても刺激的で新鮮だった。また、「発展」「植民地」「人種」といった切り口からラテンアメリカ地域を理解でき、さらに知りたいこと・学びたいことが増えた。

ANTROPOLOGIA DE LOS PUEBLOS INDIOS DE MEXICO (メキシコ先住民と人類学)

まず、「メキシコ人であるとは何か」を理解するため、メキシコの国家形成の歴史を概観した。先コロンブス時代のアステカ国家のもとでは、人々はCalpulliという単位で組織を構成し、自分が属する一族の血縁関係、所有する土地、信仰する神によって自分のアイデンティティを構築した。植民地時代にはスペイン人の支配(徴税・監視による統治、キリスト教の布教)によりCalpulliの単位が崩壊していき、「indio(インディオ=先住民)」という人種・アイデンティティ概念が生まれ始めた。純スペイン人、クリオーリョ(メキシコで生まれたスペイン人)、インディオといった人々が混血することで「人種」「血」「土地」「神」が混ざり、とても複雑なアイデンティティを形成した。1821年の独立以降も、彼らがすぐに「メキシコ人」になれたわけではなく、様々な力に抑圧されながら複雑なアイデンティティを形成したということを理解した。次に、先住民の多様性を理解するために、グアダラハラとその周辺地域(植民地時代のヌエバガリシア州)の植民地化と先住民族の反対運動の歴史を学んだ。(Nuño de Guzmanの支配、ミストン戦争など)

メキシコの多様性を「先住民」「アイデンティティ」という切り口で学べてとても興味深かった。

TEORIA DE LA CULTURA
(文化論)

テオドールアドルノ、フロイトといった哲学者のテキストを読み、文化の「主体」について学んだ。文化を批判する者もある文化の囚人であり、影響を受け続けるといったアドルノの文章から、「人間を文化から解放させることは可能か」といった議論を行った。フロイトの文献で、「文化」は ①自然の制御(財の獲得)②人間の制御(分配規範の形成)という2つの役割を果たしていることを学んだ。文化が宗教化することで人間を制約していること、文化規範が合理的な土台によって基礎付けられていないことを強く非難するフロイトのテキストから、「文化とは何のために存在するのか」といったことを議論した。

資本主義や、社会主義といった経済・政治の観点から文化を考えることはあったが、精神分析の観点から「文化」を考えることは初めてで新鮮だった。内容理解が難しく、日本語で書いてある文章を探し電子版を購入して読んだ。

<語学について>

2カ月前にメキシコに到着したころと比べるとだいぶ話せるようになってきたと感じている。話す際に頭で考えてから話すことをやめ、とりあえず言葉にしてみることを意識した一カ月だった。すると、言いたいことが自然と出てくるようになってきた。授業はいまだに50%ほどしか理解できないが、予習することでなんとかついていけていると思う。

2.生活状況の報告

平日はだいたい勉強、週末は友達とでかけるという生活が定着してきた。
平日は、週3日(月、水、金)午後3時~6時に授業がある。火、木は授業の予習、買い物、洗濯などをしている。週末は、友達と映画や公園、レストランなどに出かけている。学校以外では、「近所の人」と関わる機会が増え、誕生日会やご飯会に招待されたり、一緒に犬の散歩に行ったりなどメキシコ人の日常の一部を体験でき、とても興味深い。

3.その他
(今、感じていること~心境の変化やご自分の成長等)

今、感じていることはメキシコという国に出会い、留学できることがとても幸せということである。今月16日は「メキシコ独立記念日」であった。町中がメキシコカラーに染まり、人々は先住民に扮して踊り、広場に大勢の人々が集まり、大統領・州知事の掛け声に合わせ、「VIVA MEXICO!」(メキシコ万歳!)と叫ぶ姿が印象的だった。独立から約200年が経った現在でも人々は伝統や文化を大切にし、独立のため立ち上がった人々を敬い、メキシコという祖国で暮らせることに感謝しているのだ。その姿に感動すると同時に、「羨ましい」という気持ちが込み上げてきた。「いつから日本人は文化を失ったのか」「いつから日本人は働く機械になったのか」「日本人の意志はどこに行ったのか」といったことを考えさせられ、とても疲れたことを覚えている。

とにかく、今はメキシコという国を知れることに幸せを感じている。
そして、「いつかメキシコに恩返しができるような仕事をしたい」という想いが強くなった。

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