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介護保険部会長の問題提起「介護保険では『地域住民』が『主体』となっているだろうか?」

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┌┌┌┌┌┌┌┌┌┌┌日本介護新聞┌┌┌┌┌┌┌┌┌┌┌
*****令和4年11月23日(水・祝)第152号*****

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介護保険部会長の問題提起「介護保険では『地域住民』が『主体』となっているだろうか?」
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◇─[はじめに]─────────

 現在、次期介護保険制度の改正に向け、厚労省の有識者会議・介護保険部会での議論が大詰めを迎えています。部会では、年末に「とりまとめ」を公表する予定で、11月中には詳細な事項についての検討は、一応「終了」することになります。

 今回の改正の議論では、財務省側が指摘した「要介護1・2への、訪問介護・通所介護の地域支援事業への移行」が、大きな検討課題として挙げられ、介護業界側は部会に出席している有識者の発言以外にも、様々な手段を講じて「反対」の意思を表明しています。

 本紙も、介護業界側の意見が「正論」と捉え、この問題では「反対」の立場で関連記事を配信していますが実は1点、弊紙発行人も「根拠」を挙げて反論することができないのですが「なんとなく、納得できない」内容があります。

 それは、財務省側の主張によれば「地域の実情に合わせた、多様な人材や資源の活用を図る必要がある」「地域の実情に合わせた、多様な主体による効果的・効率的なサービス提供を可能にすべき」等と指摘している点です。

 これについては厚労省も、介護保険部会に提示した資料の中で「地域の中には、住民主導のものも含めた様々な社会資源があり、これらについて生活支援コーディネーター等が発掘等を行うとともに、ケアマネジャー等が主体となって調整を行う」

 「さらに、医療・介護サービス等とともに、包括的に生活支援等が提供されるようにすることが重要である」等と述べています。弊紙発行人は過去に、居住している市の介護保険事業計画の策定に参画した経験があります。

 その経験から申し上げれば「一部の地域を除いて、財務省や厚労省が主張することを、全国一律で展開することは、まず不可能だろう」と考えています。これはあくまで、自らの経験を踏まえて導き出した結論です。

 それとは別に、頭の中でキチンと整理ができていないのですが、財務省が主張する「地域の実情に合わせた、多様な人材や資源の活用」や、厚労省が指摘する「地域の中の、様々な社会資源」というフレーズが「どうも、腑に落ちない」と感じていました。

 実は、前回の介護保険部会(11月14日開催)で、弊紙発行人が抱いていた、この「もやもや感」は、社会保障制度や介護保険制度に詳しい学識経験者であっても、同様に「もやもや感」を抱いていて、さらには「危機感」すら感じていることがわかりました。

 結論から先に申し上げれば、介護保険部会の議事進行を取り仕切る介護保険部会長である菊池馨実(きくち・よしみ)早稲田大学法学学術院教授が、部会の最後に「介護保険では『地域住民』が『主体』となっているだろうか?」と、問題を提起しました。

 菊池部会長は、この問題提起を介護保険部会の事務局(=厚労省)や、部会に出席している委員にも投げかけました。ただ、もしこれが解決しても「要介護1・2への、訪問介護・通所介護の地域支援事業への移行」問題の解決に直接的には影響しないと思われます。

 それでも、この問題の賛否を考える時に、突き詰めていけば「地域共生社会とは何か?」「地域包括ケアシステムとは何か?」にたどり着き、賛否の結論を出す前に「一度、みんなで考えてみるべき問題」ではないかと、本紙では考えました。

 そこで今回の本紙は、前回の介護保険部会の最後で、菊池部会長が問題提起した内容について、読者の皆様にご紹介したいと思います。かなり理屈っぽい内容なので、一般の方々が読んでもわかりやすいように、一部の個所については本紙で意訳いたしました。

 そのため、理解しにくい部分もあるかと思いますが、どうか最後まで、ご一読頂ければ幸いです。

 日本介護新聞発行人

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 【本紙・注】今回の記事は、上記の「はじめに」で述べたように、11月14日に開催された介護保険部会の最後に、菊池部会長が発言した「問題提起」の内容を基にして構成しています。

 ただ、その内容はかなり「学術的」な表現が多いため、本紙で記載する際には読者の皆様にわかりやすい表現に変換している部分が多くありますので、これらの点をご了承の上、ご一読頂けますと幸いです。

 なお記事の中で、菊池部会長が発言した内容は、文頭で「▼」印を付けています。

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菊池部会長が、部会の議論の最後に「異例」とも言える「問題提起」を行う
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 11月14日に開催された介護保険部会では「地域包括ケアシステムの更なる深化・推進について」が議題でした。ここでは、上記の「要介護1・2への、訪問介護・通所介護の地域支援事業への移行」問題をはじめ、広範囲にわたって議論が繰り広げられました。

 ここで取り上げられた諸問題は、いずれもこれまで何度も議論されてきた内容なので、会議を傍聴していても、委員が発言するその賛否の内容は「真剣さ」は感じるものの「目新しさ」はありませんでした。

 「今回の議論も、このまま終わるのか……」と思いましたが、会議の終了間際に菊池部会長が突然「最後に一言、発言させて頂きたい」と前置きして、介護保険部会長としては「異例」とも言える「問題提起」を行いました。

 年末の「とりまとめ」に向けた今後の予定では、この「地域包括ケアシステムの更なる深化・推進について」はあと1回、11月24日に議論されます。その議論の場で今回、菊池部会長が「問題提起」した以下の内容に、厚労省や部会の委員がどう「回答」するのか…?

 そしてこの「問題提起」は、年末の「とりまとめ」にどのように影響するのか…? 本紙では「期待」を込めて、今後の介護保険部会の議論を注視していきたいと考えています。

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「介護保険法では、社会福祉法のように『地域住民が主体』と位置付けられているのか?」
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 最後に1点、発言させて頂きたい。大きな話しで恐縮だが、次回のテーマ「地域包括ケアシステムの深化・推進について」に関わる話しなので、あらかじめこの場で発言させて頂き(介護保険部会の事務局である厚労省や、部会の委員の有識者に)ご対応頂きたい。

 この「地域包括ケアシステムの深化・推進について」の中の項目に一つに「様々な生活上の困難を支え合う地域共生社会の実現」がある。さらにその内容で「地域共生社会の実現が『地域包括ケアシステム』の目指す方向である」と述べられている。

 「地域共生社会」は「地域包括ケアシステム」の上位の概念であることは政府の見解だと思う。しかし私は、介護保険制度の改正を巡る議論の中で「地域」または「地域住民」の位置づけが、「地域共生社会」を巡る議論と「どこか噛み合っていない」と感じていた。

 そうした中で先日、私が主催している研究会で、地域福祉の第一人者である、日本福祉大学の原田正樹教授が「社会福祉法では『地域住民が主体』であるのに対し、介護保険法では『地域住民が資源』として位置づけられているのではないか?」等と発言された。

 これを聞いて私は、非常に得心(=十分に納得)した。社会福祉法における「地域住民」は(法律の解説書によると)「地域福祉の推進に努める『主体』として、位置付けたものである」等と説明されている。

 これに対し、介護保険法はどうだろうか?「地域住民が主体」として位置付けられているだろうか? (今回の介護保険部会の)資料では「(地域の中には)生きがいを持った生活への支援をはじめ、地域の中に住民主導のものも含めた様々な社会『資源』がある」

 「これらについて、生活支援コーディネーター等が『発掘』等を行う」と書かれている=画像・厚労省HPより。介護保険法の目的等の項目を見ても「地域」とか「地域住民」が出てこないように思える。

 おそらく(「地域」や「地域住民」は)地域支援事業の中に位置づけられているとしか、考える他はないと思う。(地域支援事業の)訪問型サービスや、通所型サービス等に、その「痕跡」は見ることはできる。

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「『地域共生社会』の理念が、『地域包括ケアシステム』で実現されているのか?」
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 この(次期介護保険制度の改正に向けて、介護保険部会としての「とりまとめ」を年末に控えた)多忙な時期に、事務局(厚労省)には大変申し訳ないが(次の3点について)整理をお願いしたい。

 ■1.「地域共生社会」の実現が『地域包括ケアシステム』の目指す方向である」ならば、それが法律上どこに位置付けられているのか? それは、必ずしも法令によらない(=法律上は位置付けられない)「政策理念」の話しなのか?

 ■2.そうである(=「政策理念」の話しである)なら、それ(=「地域共生社会」の実現が『地域包括ケアシステム』の目指す方向である」)は、介護保健制度のどこに位置付けられているのか?

 ■3.仮に、それが制度上で「政策理念」レベルの制度的な位置づけがなされているとして、運用上・実務上で「地域共生社会」の理念が、「地域包括ケアシステム」で実現されていると言えるのか? それは、どのような意味においてなのか?

 これらの点は、次回のテーマに関わる重要な事項になるので、できれば(厚労省に)少し整理して頂きたいと思っている。このことはしっかりと法令上・運用上に位置づけられることがなければ、5年後には「地域共生社会」の理念は「立ち消え」になってしまう。

 そうなれば「従来のような制度ごとの『縦割り』の世界に舞い戻ってしまうのではないか?」との強い危惧を、私は抱いているからだ。このことで、今回のとりまとめの総論の書きぶりが変わってくるかも知れない。

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「『地域』は制度ごとに存在するのではなく、同じ次元で『地域』が一つ存在している…」
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 私は、これらと同じ問いを、本日午後に開催される生活者困窮支援生活保護部会、それから来月開催される障がい者部会でも行うつもりだ。また、これらの問いについて、もしよろしければ(介護保険部会の)委員の皆様にもご意見頂ければ、大変ありがたい。

 「地域」というのは、制度ごとに存在するのではなく、同じ次元で「地域」が一つ、存在しているというのが、私の見方だ。そういった面からも「地域づくり」「地域住民」をどういった視点で捉えるか、今回の改正には直接関わらないが、ぜひご私見を伺いたい。

◇─[おわりに]─────────

 弊紙発行人は、冒頭の「はじめに」にも書いたように、財務省が主張する「地域支援事業への移行」問題では「反対」の立場です。しかし、この考え方が果たして「本当に正しい」のか、様々な角度から、時には財務省側の視点からも考えるように心がけています。

 その財務省側の視点に立った時に、どう考えても「もやもや感」が消えなかったのが「地域」というフレーズです。菊池部会長の発言を聞いていて、正直なところ、まだ「もやもや感」は残っていますが、それを解決するための糸口は見つけられたような気がします。

 菊池部会長は、社会保障全般が専門のため、生活困窮者や障がい者に関する有識者会議にもメンバーとして参加しています。それだけに介護分野の問題も、社会保障全般の視点から捉えようとする考え方は、大変参考になりました。

 特に「介護保険法では、社会福祉法のように『地域住民が主体』と位置付けられているか?」との問いかけは、心の中にズシリと重く響きました。今後、これらの問いかけに対し、介護保険部会の委員がどのような「回答」を示してくれるのか……。

 それを参考にしつつ、弊紙発行人も今一度、「地域支援事業への移行」を「根本的な問題」から考えてみたいと思っています。部会の委員からの「回答」内容は今後、本紙でも追って取り上げていきたいと考えています。

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