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介護業界の長年の重要課題「人材不足」に、どのように対応すれば良いのか?(前編)

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*****令和5年8月31日(木)第162号*****

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介護業界の長年の重要課題「人材不足」に、どのように対応すれば良いのか?(前編)
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◇─[はじめに]───────────

 弊紙が介護分野の取材を始めた今から約10年前、一般紙等で「今後、高齢化社会の進展に伴い、介護従事者は100万人以上が不足する」等と報じられていて、かなり衝撃を受けたことを、今でもハッキリと覚えています。

 そして現在でも、人材不足は数こそ修正を重ねていますが、結果的に数十万人レベルで不足している状況に変わりはありません。この課題の解決のため本紙では当初、外国人技能実習制度に着目しました。

 その後、特定技能制度も加わり、介護職における外国人材は現在は数万人レベルにまで増加しています。しかしそれでも、とうてい充足はできず、人材不足に起因して様々な問題(例えば高額な派遣社員の手数料の問題等)も、介護業界内では生じています。

 それでは今後、介護業界ではどのように「人材不足」の課題に向き合っていけば良いのか――。その一案を、日本慢性期医療協会(日慢協)の橋本康子会長が、7月20日に開催された定例記者会見で示しました。

 内容は、介護職員の充足が今後、極めて厳しい社会情勢であることを踏まえ「要介護度の改善可能な人に積極的なリハビリを提供し、介護にかかる人員を少しでも減少させる」との趣旨でした。

 結論から言えば「まず身近で、解決する可能性が高い課題から取り組んで行こう。それを積み重ねることで、大きな改善につなげて行こう」というメッセージです。記者会見での講演のため、内容はマスコミ向けに専門用語等も多数出てきます。

 弊紙ではこの内容が、本紙の読者の皆さんが今後、リハビリに積極的に取り組もうとする動機付けにつながるのではないかと考え今回、記事にまとめて前編・後編の2回連載でご紹介することにいたしました。

 今回の記事が、本紙の読者の皆さんが「これから、どのような介護サービスを受ければ良いのか?」を判断する際のご参考になれば幸いです。どうか最後まで、ご一読頂けますと幸いです。

 日本介護新聞発行人

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 今回の記事は「はじめに」で記したように、日慢協の橋本会長が7月20日の定例記者会見で「介護のアウトカムをどう評価すべきか? 〜利用者に応じた評価体系〜」と題して講演した内容(=「日慢協BLOG」に掲載)に基づいて構成しています。

 講演はマスコミ向けであったため、内容の一部は本紙読者の皆さんにも理解しやすいように、表現等を弊紙で一部変えて、さらに専門用語の一部には注釈を加えております。この点をご了解の上、読み進めて頂ければ幸いです。

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「今後、高齢化率の上昇に伴い、医療福祉系の労働者数を増やす必要性が……」
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 「寝たきり防止」へ向けた慢性期医療の課題は、担い手(=医師等)の「質」「量」「意識(やる気)」の改善である。このうち、本日は「質」を高める仕組みを中心に、見解を示したい。

 まず「アウトカム」とは、治療効果やADL(=日常生活を送るために最低限必要な日常的な動作で、起居動作・移乗・移動・食事・更衣・排泄・入浴・整容の動作のこと)の向上、平均在院日数の短縮などの結果を指す。

 医療分野においてはすでに「アウトカム」評価が導入され、診療報酬にも反映されている。しかし、介護分野はどうか? 介護における「アウトカム」は「可視化が難しく、理解しにくい」と一般に言われている。

 とはいえ、介護分野も公的保険である。すなわち、介護保険を利用する限り、何らかの「アウトカム」を明示し、行動と結果の関連を示す必要があると考える。今回(の記者会見で)は、その一案を示したい。

 高齢化と現役世代の急減が進むなか、医療・介護従事者の急増は望みにくい。これまでとは異なる「抜本的な体制見直し」が必要となる。まず、2020年から2070年までの「高齢化率の変化」をみてみたい。

 わが国の人口と将来推計の推移をみると今後、高齢化率(=65歳以上人口が、総人口に占める割合)は明らかに上昇していく。ただ、高齢化率の上昇は必ずしも問題ではない。高齢者が増えることは、人々が長生きすることであり、喜ばしい結果である。

 一方で、問題となるのは現役世代――つまり15歳から64歳までの「就労人口の減少」である。これこそ、わが国が抱える大きな課題であると、私は考える。「就労人口の減少」は、医療や介護だけでなく、他業種にもわたる重要な問題だ。

 今後、全就労人口が減少傾向にある一方で、高齢化率の上昇に伴い、医療や福祉系の労働者数をさらに増やす必要性に迫られている。そのため「介護人材の不足を、どのように改善するか?」という議論がなされている。

 現在よりも「100万人以上の(介護職員の)増員が必要」との声もある。しかし、全就労人口が減少していく中で、医療や福祉系の労働者数だけが増加するとは思えない。では、どのように対処すべきか?

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「介護する側の人数が確保できない場合は、介護される側の数を減らすことが有効…」
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 要介護者の増加は、医療・介護人材の増加を必要とする。そのための方策も大切だが、「寝たきり」を減らし、要介護状態を軽減する方向にも目を向けるべきだ。医師や看護師は増加傾向にあるが、介護者の数が足りなくなる。

 介護する側と介護される側のバランスを考えてみたい。「介護する側の人数が確保できない」場合は「介護される側の数を減らす」ことも有効な手段ではないか? 2000年から2022年の間の22年間で、要支援・要介護の認定者数は増加の一途を辿っている。

 介護保険の第1号被保険者(=介護保険の被保険者で、65 歳以上の人。40歳から64歳までの医療保険加入者は「第2号被保険者」となる)の増加率は166%。その中でも「寝たきり」状態である要介護4や5の増加率は233%となっている。

 高齢者の増加率以上に「寝たきり」状態の人々が増えている。

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「要介護者数の増加は『アウトカム』を高め『1%の改善』を行うことで防止できる」
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 「寝たきり」の人々が増えている現状を、どう改善すればいいのか? 実は、要介護者数の増加は「1%の改善」で防止できる。「アウトカム」を高めることが、医療・介護の提供体制を維持するための重要な方策となる。

 多くの人は、高齢者の「寝たきり」を減らすことは難しいと感じているだろう。しかし要介護者数の増加を計算してみると、改善率はわずか1%である。正確には0.9%だが、この「1%の改善」率があれば、要介護者数は現状と同じ人数に止まるのではないか=画像・日慢協BLOGより。黄色のラインマーカーは、弊紙による加工

 つまり100人の患者がいたら、そのうち1人だけが「寝たきり」状態から脱出し、多少は立ち上がることができたり、トイレで自分で排せつができたり、自分で食事ができるようになるなどの改善があれば、現状と同等である。

 さらに、2人、3人とその数を増やしていけば、計算上は「将来が明るい」と言える。したがって「まずは、1人から始める」ことだ。何も「寝たきり状態の患者が50人、100人いるなら、その中の半分を改善せよ」と言う話しではない。

 「まずは1人」から始めて、2人、3人といった少数を積み上げていけば、40年後、50年後でも十分に(要介護者数の増加に)対処可能である。

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「利用者に応じた評価」「改善可能性に応じた評価」に基づく「アウトカム」を……
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 「アウトカム」評価への課題はあるが、社会保険事業であるならば「成果」への責任がある。要介護者を増加させないために、できることを考える。冒頭で述べたように、介護では「アウトカム」の評価が見えにくいとされる。

 その理由は何か? 「高齢者は改善が困難」とされるからだろう。「80歳や90歳になっていれば、治る可能性は低い」と考えられる傾向がある。加えて、慢性的な麻痺や片麻痺、筋力の衰え、栄養状態の低下、認知症など、多様な問題が絡み合う。

 このため、改善が一層難しくなるとされる。複数の疾患を抱え、肺炎や尿路感染症などの急性症状が重なることもある。肺炎が治ったと思えば、また1ヶ月後に再発する。それから1ヶ月または2ヶ月後に熱が出て、尿路感染症が見つかる――。

 このような、繰り返しの感染症も問題となる。したがって、患者自身の改善が難しいこと、また家族支援の有無が「アウトカム」の評価に影響を及ぼすこと、さらに施設が「アウトカム」を生み出す――。

 例えば、軽度の患者ばかりを受け入れる「クリームスキミング」(※)という問題も生じる可能性がある。実際、一部の介護施設では要介護度4や5が多い。「要介護度1や2ばかりを選ぶ」傾向につながるのではないかとの懸念がある。

 【※弊紙注釈=「クリームスキミング」=「いいとこ取り」という意味。 医療保険制度の内容により、儲かる行動には様々な形態があり,事業上自らに有利な利用者を選別したり,事業に有利な地域を選択して、進出したり退出したりする行動のこと

 しかし、仮にこのような問題があるとしても「アウトカム」を考えずに進むことはできない。では、どうすべきか? 「利用者に応じた評価」「改善可能性に応じた評価」を提案したい。

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「リハビリなどを『積極的に介入すべきか否か』を判断するグループ分けが必要に…」
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 「寝たきり」を防止する対象者の全てを、一律に評価することは困難である。まずは「改善可能」と「困難」とに分けた上で、それぞれの評価体系を構築する海外のケースが参考になる。

 「改善可能」な人について「予防タイプ」と「自立支援タイプ」に分けてみる。このうち「予防タイプ」については、地域のインフォーマル資源(※)などを活用する。「自立支援タイプ」については、積極的にリハビリを施して、状態を改善させていく。

 【※弊紙注釈=地域のインフォーマル資源=民間の手による、自由意思によるもので、基本的に提供者と利用者の合意によって契約が成立して開始されるサービス等。例えばシルバー人材センターによる庭仕事・大工仕事が該当する

 一方、回復が「困難」なケースも存在する。寝たきりの状態が長く続いていたり、末期がんなどの深刻な疾患を抱える人が挙げられる。今後の改善見込みが乏しい「重度タイプ」である。

 人間はいずれ終焉を迎える。それまでの時間が極めて短いと考えられる人々を、無理に立たせて「リハビリ」を積極的に実施することは難しい。そこで、まずは「リハビリ」などを「積極的に介入すべきか否か」を判断するためのグループ分けが必要になる。

 現行の介護保険は、もともと「回復困難な人々のケア」を念頭に置いている。介護保険が設立された2000年には、現在のような(例えば、リハビリにより要介護度が改善する等といった)事態はあまり想定されていなかったのではないか?

 20年後のことを考慮していたかどうかは不明だが、創設当初の目的は、現状とは異なる。回復可能な人々が存在するならば、これらの人々に対するリハビリを行い、状態を改善していかなければならない。現在では、それが必要な対応であると考えられる。

 【次号・本紙第163号=介護業界の長年の重要課題「人材不足」に、どのように対応すれば良いのか?(後編)=へ続く。なお次号は、9月2日(土)に配信を予定しております】

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