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焼き上がり

「こうちゃん?」
「え、あ、大西くん」
「ここいたかー。いやーこうちゃん変わってないなー」
「・・大西くんも」
「・・ハゲたなーって思ってんだろ」
「いや。別にそんなには」
「いいよ別に気ぃ遣わなくて」
「え、ってかなんで大西くんここに?」
「ここに?じゃないよー。水くさい。なんで俺に連絡よこさない」
「あ、ごめん。なんか、死に方もあれだしもう身内だけでいいかなーって」
「俺も身内みたいなもんだろうよ」
「・・・」
「そんなわけないか。もう20年ぶりぐらいだもんな会うの」
「飛行機?」
「そんな金ねえよ。夜行バス。ま、そこケチったから、結局顔見れなかったみたいだけど。なんかすごい事故だったみたいで大渋滞。途中降りれないし。腰いてぇー、あそこ?奈緒」
「あ、うん」
「なんかおばさん怒ってたよ喪主が接待しないって」
「あ、お弁当食べてって。僕の分あるから」
「こうちゃんいつから食べてないの?」
「・・・」
「ちゃんと食べなきゃダメだぞ」

     間

「焼肉食べた」
「お、そっか」
「奈緒ちゃんが死ぬ前の晩。奈緒ちゃんと2人で」
「・・・」
「家焼肉で肉買いすぎて、もう死ぬーって2人して、笑いながら。そっから数時間後にまさか」
「・・まあ、大変だったな」
「ごめんね」
「なにが」
「あの時奈緒ちゃんあのまま大西くんと付き合ってれば奈緒ちゃんの人生こんな結末には」
「どんだけ昔の事言ってんだよ」
「僕には奈緒ちゃんを幸せにできなかった」
 
     間
「何時に焼きあがんの?」
「え?」
「奈緒」
「多分2時15分頃分ぐらいっていってたかも」
「よし」
「え、どこ行くの?待機室こっち。大西くん?」

     間

「こうすけ、ほらそろそろだから。みんなに挨拶しに来て」
「いいよ」
「いいよとかそういうんじゃなくて、仕事だから喪主の」
「・・・」
「もう、あ、大西くんは?さっき挨拶してくれたけど、会った?」
「うん」
「あ、おばさん」
「あ、大西くん。食事あるから食べて行って、この子食べないから」
「あー、でももう時間ないよねー。あ、折り詰めとかできるかな。帰りバスの中で食べるし。あ、不謹慎か?」
「頼んでくる頼んでくる。大丈夫よ遠いとこ来てくれたんだから。ちょっと待ってて」
「あ、ごめんね。・・」

  間  
「え、なに熱っ」
「来る時近くにうまそうなパン屋あってさ、2時に焼きたて出るって書いてたから黒板に店の前の。うめえぞ、絶対。あ、ほらうまい。焼きたてベーコンエピうまい。ほら食えよ焼きたて。奈緒焼き上がるまで」
「ごめん、食欲なくて」
「無くても食う」
「・・にしてもなんで?」
「ん?」
「なんでベーコンエピ?」
「奈緒好きだっただろう」
「そうなの?」
「・・・」
「知らなかった」
「ああ、ほら子供の頃はみんなベーコンエピ好きじゃん」
「僕昔からベーコン苦手で」
「そうだっけ?」
「奈緒ちゃん僕に気ぃ使って?」
「大人になったらあんま食べないんだよエピは」
「そうなの?」
「そう。でも食え。昔の奈緒が好きだったエピ」
「食欲が」
「ダメ食えエピ」
「ほんとに」
「食えエピ」
「ほんとに食欲ないし」
「食わないと。・・こうちゃんは生きてんだから」
     間
「熱っ」
「焼き立てエピうまくなーい?」
「すんげぇんんまい」
「だろ」
「んまいなーんまいなー」
「泣くか食うかどっちかにしろ」
「大西くんも顔鼻水でぐちゃぐちゃ」
「うるさい。ほらもう少しで焼きたての奈緒出てくるからエピ入れてやろうぜエピ骨壺に、ひとかけら」
「骨壺にエピはダメでしょ」
「エピは大丈夫でしょエピは」
「エピって言いたいだけだよね」
「うまいなーエピ」
「おいしいねーエピ」

             了


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